第134話 世界が一つに
会議室のモニターにドローンと偵察ヘリによる現在の東京の様子が映像で送られてくる。
ホロゥの配置。パンドゥーラの動向。破壊された建物で塞がれた道路。
確認すべき事項を一つずつ紙にまとめていると、廊下からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきて、扉が勢いよく開かれた。
「お待たせしました! 初期案、完成です!」
資料を抱えた夢の登場に全員が沸いた。
早速とばかりに夢が素早い動きで資料をそれぞれの前へと配ると、モニターに繋がるパソコンにUSBメモリを差し込み資料を表示させる。
「決戦ポイントはそのままソラマチを使用。あそこの足場と、周辺の建物を多少倒壊させれば攻撃に必要なスペースは充分に確保できる」
「第三世代はリリカルパワーを空中に配置して足場にすることもできる。戦場は問題なさそうね」
ソラマチで勝負を決めるという意見には、百合花をはじめ多くの者が賛成として強く頷いた。
「でも、夢様。パンドゥーラの粒子フィールドはアイリーン様の阻害粒子がどうにかするとして、それを散布する方法と、奴の強力なリフレクトシールドへの対策はあるのでしょうか?」
「もちろんです。アイリーンさん」
「ほいほいっと。静香ちゃんの疑問に一つずつ答えていこうか。まず、散布には私が開発したドローン型アサルトを使うよ。作戦開始タイミングでスカイツリー上空で周辺に散るように撒き散らす」
「ドローン程度ならパンドゥーラが撃墜しようとしないことは既に検証済みです。このやり方で問題ないと思いますよ」
「補足ありがとう夢様。で、次にリフレクトシールドへの対策ね。まぁこれは正直うちの力じゃお手上げ」
「だよね。リフレクトシールドは物理に弱いとはいえ、あの質量とエネルギーなら相当な衝撃が必要になるだろうし……」
「そうそう。でも、リフレクトシールドはね、エネルギー攻撃を弾くとわずかに厚みがなくなるんだよ。そうだよね?」
アイリーンが問いかけるように杏華を見ると、全員の視線も動く。
杏華は自身のアサルトを取りだして実際にリフレクトシールドを展開させた。
「その通り。受ける力が強ければいかに頑強な光の壁といえど拭いきれぬ傷が生じる。が、元の耐久を取り戻すのにそう時間はかからんよ」
「でも、一時的には薄くなる。その瞬間を狙い撃つ」
「どうやって……?」
「それはもちろん、ラグナロクチェイン」
誰かの息を呑む音がする。
「一発だとまた弾かれて終わる。けれど、強力な一発を準備しながら、もう一発……最強のオーディンバレットを並行して準備する」
「ラグナロクチェインを同時展開!?」
「そう。初撃の威力が弱い方でリフレクトシールドを薄くして、復元されるまでの刹那の時間でオーディンバレットを撃ち込む」
「たしかに、それなら次弾の迎撃は間に合わない」
「最高神の弾丸であれば、たとえシールドが間に合ったとしても薄くて耐えきれずに奴の体はドカン。そういうこと」
「そうです。この方法ならいくらパンドゥーラといえどひとたまりもないでしょうし、倒せなかったとしてもシールドが張れなくなるくらいには消耗するはず。そうなれば、百合花さんたちの力で倒せると、私は信じます」
夢の強い瞳を真っ直ぐ向けられた百合花、樹、彩花、彩葉の四人が頷いた。
夢の考案した作戦は非常に有効的だと考えられた。これ以上に改良する点は、説明された中にはないように思う。
しかし、それ以外の場所に障害があると、百合花と彩花が考えていた。
「夢様。私たちの役割は聖蘭黒百合学園によるラグナロクチェインが成功するまでの護衛。ですよね」
「そうです」
「じゃあ質問。パンドゥーラの眼球はどうするつもりなのか教えてくれます? 葵を殺したあれは簡単には突破できないと思いますけど」
彩花がモニターの端を借りて戦闘映像を投影する。
パンドゥーラから分離した眼球がビームを放ち、視神経のような形をした触手が無数になぎ払われている。
回収された三奈のアサルトに残された映像だ。その最後には、横凪ぎの一撃で葵の体が両断されて血飛沫と共に吹き飛ばされていく様子がモザイク処理で映し出されていた。
「禍神と同格の強さ。私たちなら一つ程度だったら引きつけておくことはできると思うけど、そうすれば誰が聖蘭の護衛に? 一つだけとは考えにくいし、奴の姿を考えると最大で五つは放てるはず」
「戦力が足りない。死を覚悟した作戦と死を前提にした作戦は別物ですよ」
「それなら大丈夫です。朗報もありますから」
彩花たちの疑問に横から答えたのは、電話で誰かと会話していた校長だった。
「国連から連絡です。安保理は日本に対し、核攻撃の準備を進めつつも最大限のワルキューレ戦力の派遣を決定。各国のトップクラスの実力があるワルキューレたちが既に日本に向けて出発しているそうです」
「その決定があったからこそ、眼球を引きつける陽動作戦が立てられた。中国のフリスト、アメリカのゲイルスコグルがどちらも参戦してくれるのは心強いですから」
「ネームド二人が!?」
「アメリカがよくゲイルスコグルの国外派遣を決定しましたね……!」
「イギリスと韓国に関しては軍のワルキューレの九割を派遣してくれるそうです。まさに人類史上過去例を見ない大規模な作戦です。絶対に失敗できませんよ」
気分が高揚してくる。
人類が一丸となって災禍に立ち向かおうとする姿勢に、心からのやる気が満ちあふれてきた。大勢の期待を背負い戦うという熱い展開に自然と背筋が伸びる。
夢の案を基盤とし、さらに詰めれそうなところはないか意見を出し合った。
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