第133話 反撃への招集
百合ヶ咲学園の臨時司令部を通じて、パンドゥーラに直接攻撃を仕掛けた者たちに招集要請がかけられた。
その要請に応じ、現在百合花をはじめあの場にいた生き残りで動ける全員が新宿都庁に作られた仮設司令部へと集まってきている。
そこにいた自衛隊員に百合花が事情を話すと、会議室へ進むように言われたため静香たちを連れて歩いて行く。
既に瑞菜や樹たちは到着しているとのことで、百合花たちの到着を待つより先に現状の確認を始めているとのことだった。
説明された内容を思い返しながら、指定された会議室の扉を開く。すると、室内から複数の視線が百合花たちへと向けられた。
「っ! 百合花!」
「樹っ! 会えて良かった!」
椅子を立ち上がり、樹が涙を零しながら飛びついていく。
真正面から飛び込んできた樹を抱き止め、力いっぱいの抱擁を交わした。
「おっ! 杏華もしっかり生きてたか」
「当然。我が純黒の闇に染まりし肉体は、奴の邪悪な光程度では滅せられぬわ!」
「ふっ! それでこそ黒き魔女! 永久の闇へと誘う我らを倒そうなど百世紀早い!」
「あの、皆さん……それだと私たちがホロゥの味方みたいになっちゃいます……」
独特のノリで盛り上がりを見せる杏華たちに、困ったような築紫がツッコミを入れた。
そして――、
「皆さんお揃いでよかったです。やはり、仲間が欠けてしまうと辛いですから」
「瑞菜さん……」
椅子に座ったまま、どこか無理をしているような表情の瑞菜と、心配そうにしている宮子。
高天原の被害はここに来るまでに百合花も把握している。
どのような声を掛ければいいのか分からずに、声を出さないまま口を半開きにしていると、プロジェクターの前にいた女性が柔らかな笑みを見せた。
目尻には光るものがあり、百合花の姿を見て安心しているのだと分かる。
「報告は受けていましたが、やはり実際にこの目で見ると不安が拭えますね」
「校長先生!」
「ご無事で何よりです百合花さん。残念ながら鹿島葵さんや倉科千代さん、他にも大勢の犠牲が出てしまいました。けれど――」
校長が会議室を見渡す。
百合花、樹、杏華、瑞菜、彩花、彩葉と順に顔を確認していき、目を閉じて深く頷く。
「貴女方が生き残っていてくれて本当によかった。これならまだ可能性はゼロではありません。亡くなってしまったあの子たちの思いを繋げることができる」
「校長先生……それは、パンドゥーラを倒すことができる、ということでしょうか?」
「それはまだなんとも。ですがそうですね。百合花さんたちも揃ったことですし、改めて動向を話していきましょうか」
そう言ったため、百合花たちは空いている席へと急いだ。
全員の着席を確認し、校長が資料を最初からプロジェクターに投影する。
「パンドゥーラに対し、国連安保理は関東一帯の放棄と世界同時による核攻撃での撃滅を提唱し、常任理事国のほぼすべてが賛成という方向で纏まりました」
「そんな……っ」
「……しかし、国連軍のワルキューレ部隊や各国のワルキューレたちは異なる意見です。特に、中国のフリスト。彼女を中心に、パンドゥーラはワルキューレの力で撃滅可能だという意見が広まっており、常任理事国の決議でも中国だけは拒否権を行使して再度の検討を提唱してくれました」
この事実には百合花たちが驚いた。
仮にパンドゥーラが日本を滅ぼした場合、次に狙われる可能性が一番高いのは中国だろう。彼らからすれば早々に脅威は取り除きたいはずだ。
にもかかわらず、最後までワルキューレの可能性を信じようという姿勢に感動を覚える。
「よって、私たち百合ヶ咲学園に、防衛省より正式にパンドゥーラ最終撃滅作戦の立案と実行が要請されました。私たちはこの想いに応えなくてはならない!」
「でも、パンドゥーラを倒すなんて本当にできるんですか?」
不安そうな静香の問いかけに、校長が優しい笑みで返す。
「分かりません。ですが、彼女を信じるのみです。そうすればきっと――」
そう、口にした瞬間だった。
蹴り破る勢いで扉が開かれ、顔から滑り込むようなダイナミックな入室をアイリーンが披露する。
「アイリーン様!?」
「お待たせしました! 完成しましたよ!」
「おぉ! よくやってくれましたアイリーンさん!」
得意げに胸を張るアイリーンが懐に手を入れ、小さな瓶を取りだした。
瓶の中にはキラキラと輝く白い砂のような金属粒子が入っており、それを見た百合花たちが首を傾げる。
一同の様子を見たアイリーンが瓶を机に置き、力いっぱい瓶の横を叩いた。
「これは反阻害素粒子! あのパンドゥーラのジャミング粒子に反応して効果を打ち消すものだよ!」
「ッ! つまり、これがあれば……!」
「パンドゥーラにアサルトで接近戦を挑むことができる! 戦場を取り返すことができる!」
大きな障害であったジャミング粒子による戦場の制限という枷が外された。
パンドゥーラを本当に倒すことができるという希望的観測が広がっていく。
「現在、朝比奈さんが最終撃滅作戦の初期案を練ってくれています。それをここにいる全員でより確実な内容に固め、これを実行。パンドゥーラを倒すのです!」
校長の力強い言葉に、百合花たち全員が頷いた。
一人一人が諦めなかったからこそ、奇跡は手が届く位置にまで来ている。
自分がなすべきは、この多くの人たちが繋げてくれた奇跡をものにすることだと言い聞かせた百合花は、胸の前で拳を固めて決意を新たにした。
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