第130話 再会と別れ
今は少しでも休み、リリカルパワーを回復させておこうと病室を出る百合花。
と、ちょうどその時、隣の病室から少女が出てきた。
二人が顔を見合わせ、隣の部屋から出てきた少女が持っていたペットボトルを落としてしまう。
「百合花ちゃん……! 生きてた……!」
「っ! 静香ちゃん!」
無事な様子の静香を見て感極まった百合花も勢いよく抱きつく。
二人で仲良く抱き合い、互いの無事を喜んだ。特に、第一世代である静香の生存は絶望的だと思っていただけに、こうして五体満足で再会できたことは何よりも嬉しい。
廊下の端で人目を気にせず喜びを表していると、人影が二つ百合花たちに近付いてきた。
「人の叡智と醜悪さが詰まった炎を放つ化け物と相対し、闇の業火に焼かれることなくこうして再会を果たせたことはまさに神の祝福と暁光……」
「静香ちゃんが無事でよかったです! 百合花さんも生きててよかった……っ!」
「杏華! 築紫さん! 無事だったのね!」
「はーはっはっは! 我が肉体を滅ぼそうと思えばあの程度の力では到底及ばない!」
「杏華ちゃん、昨日まで『死にかけた』ってずっと言ってませんでした?」
「なーにか言ったかな築紫~?」
「言ってないです!」
杏華に脅されている築紫を見て、そのやりとりに笑い、そして無事だったことに安堵して涙する。
見知った人が死ぬのはやはり辛い。どれだけ覚悟を決めたと言っても、実際に目の当たりにするとどうしようもなく苦しくなる。
こうして無事に再会し、何気ない会話を交わせることがこの上なく幸せだと感じられるのだ。
百合花はそっと視線を落とす。
そして、今一番会いたい人物の名前を口に出した。
「樹……今、どこに? 無事なのかな……」
近しい人の安全を確認するほど、無事を確認できない人の心配が募る。特に、樹は百合花にとって心の大部分を占めるほどの存在だ。
一刻も早く無事だと確認したいと思っていると、アイリーンの姿が視界に映った。
「あ、やっほー百合花ちゃん。おっはよー」
「あ、アイリーン様……」
「おやおやずいぶん暗い顔をしてるね。まぁ、大方予想はできるけど」
クスクスと笑ったアイリーンは、百合花の肩に手を回して耳元で囁く。
「樹ちゃんは無事だよ」
「っ! 本当ですか!?」
アイリーンの肩を掴み、ガクガクと前後に揺らす。
あまりの食いつきにアイリーン自身も驚きながら、詳細について静香たちも知れるように話した。
「さっき彩花から連絡があったから! 彩花も彩葉も樹ちゃんも生きてるよ!」
「よ、よかった……っ」
「やった! きっと全員生きてますよ!」
「大したことないのね。あんな仰々しい攻撃をしておいて死者がこの程度なんて」
杏華がパンドゥーラを嘲笑うが、アイリーンは苦い顔をしていた。
その表情に百合花だけが気づいている。嫌な予感がして、背筋を汗が伝った。
何かを言おうとして、言えないと口をつぐむアイリーンに、意を決して百合花が尋ねる。
「アイリーン様……まさか、誰か死んで……」
「そ、そんなことないじゃない! 心配しすぎだなぁ~、あはは……」
乾いた笑みに、百合花の目の前が暗くなっていった。
現時点で、百合ヶ咲のメンバーで百合花と過ごしていたうち、生存を確認できていないのは香織、葵、千代の三人だ。
この中から戦死者が出たのかと思うと、呼吸が速くなり胸が苦しくなる。
「残念ながら、我が校から死者が出てしまいました」
そんな、残酷な宣告が告げられた。
脇に資料を挟んだ状態で、生徒会長の夢が赤く腫れた目で百合花たちの前に姿を見せる。
「夢様……」
「死者って……誰が……」
「……倉科千代さんの戦死報告を受けています。他にも四十四人が死亡とのこと」
「そんなに……!」
「さらに、水橋香織さんや鹿島葵さんたち、数名がいまだに行方不明です。最悪、遺体すら残らない蒸発という形で死亡した可能性も……」
「夢様ッ!」
「っ! ……すみません。どうして私、こんなこと……」
最悪な方向にばかり考えが向いてしまい、鬱な気分になる。
夢の気持ちも百合花には痛いほど理解できた。無事を祈るしかできないことが疎ましい。
と、まさにそんな沈んだ空気を打開する言葉があった。
「鹿島葵? その子なら生きてますよ」
全員がその声に反応した。
武装した三奈が、端末での情報を共有しながら話し続ける。
「百合ヶ咲学園所属の二年生鹿島葵さんで間違いないなら、第二次決死救助隊に志願してくれている。これから出撃ですよ」
「無事なんだ……!」
「ええ。なんでも、可愛い妹を探しに行くと。……なるほど、その香織ちゃんですか。神子から話は聞いてますよ」
アサルトを調整し、勇ましい姿で歩き出す。
「もうこれ以上死者は出さない。帰還を待っていてください」
見ると、自衛隊のワルキューレや、軽傷だったワルキューレたちがアサルトを持って次々と出ていこうとしている。
まだ諦めていないのだ。やれる限りの抵抗をしようと頑張っている。
残念ながら、今の百合花では満足に動けない。
来たるべき時のため、今は三奈を送り出してパンドゥーラとの再戦に備える。そのチャンスは必ず来ると信じて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます