第127話 絶望の始まり
スカイツリーの第一展望台に張り付く巨大なホロゥ。
蛙のような見た目で、目らしき赤い金属が六つも付いている。超大型に分類されるほどの巨躯を持ち、禍々しく輝くエネルギーの翼を兼ね備えている。飛行能力まで有している可能性も考えられた。
全身を金属から抜け出させると、またも吼える。それと同時に黒い雪のような光が地上へ降り注いだ。
「雪……?」
「これは一体……」
その雪が筑紫のアサルトに触れた瞬間に異変が起きる。
なにも触っていないのに突如、勝手に形態が変形されて引き金が引かれた。
弾丸は止まっていたバスを撃ち抜き爆破する。人がいなかったのが幸いだが、誰かに向けて撃たれていたらレールガンを回避する力はない。
神子が雪の性質に勘づいた。
「ジャミング粒子よ! アサルトに触れたら何が起きるか分からない!」
咄嗟に全員がアサルトと雪が触れないように天井がある場所へと移動した。
屋外での戦闘を封じられた。戦場を縛られるのは痛すぎる。
周囲を見渡した超大型ホロゥが吼える。百合花たちが耳を塞ぎしゃがみ込んでしまう。
「何これ……体が、潰れる……頭が割れる……!」
「これがホロゥの威圧……!? そんなバカな……」
禍神を越える威圧と殺意に恐怖が押し寄せてくる。
震える足を無理やり押さえつけ、どうにか百合花が立ち上がる。樹や彩花たち一部の実力者たちも遅れて気持ちを奮い立たせ、立ち上がると攻撃の隙を窺う。
超大型ホロゥが百合花の姿を視界に捉える。と、同時に口を大きく開いて息を吸い込み始めた。
舌先で黒紫の球体が形成されていく。
「あの光は……!?」
「危ない百合花!」
神子がグレネード弾をホロゥへ撃ち込んだ。
爆発でわずかに顔が上に逸れ、射線を外して球体が発射される。
球体は高速で宙を飛び、やがて遠くで禍々しい輝きを発した。
視界を埋め尽くす紫の輝きが拡散され、遅れて衝撃波と爆発音が届く。引き起こされた突風で踏ん張ることができず、百合花たち全員が吹っ飛ばされて建物の壁に体を打ち付けた。
「「「きゃああああぁあぁぁぁぁぁぁ!?」」」
悲鳴が幾重にも重なった。
全身に痛みを感じる。頭を切ったのか、百合花の顔に血が流れる。
アサルトを支えにどうにか立ち上がることができた。
「今のは……」
「っ! 百合花……う、後ろ……」
「樹? 後ろがどうしたの……って、え……?」
高所にいたため背後の惨状が目に付いてしまう。
空まで昇る巨大なキノコ雲。その下にあるはずの台東区の町並みが、
頭での理解が追いつかなかった。
「何が……え、どういうこと……?」
「今の一撃で台東区が……そんなことって……」
「……学園都市南あわじの淡路海風女学院、学園都市鶴岡の雪華高等学校からの遠征組、通信途絶……全滅の可能性大です……」
「台東区には確か聖蘭の司令部もあったんじゃ……!?」
「生き残りがいる可能性は限りなく低いかもしれない……」
ホロゥの咆哮が東京に響き渡る。
「たった一撃でこれだけの……何なのよこのホロゥは……!?」
「シールドが勝手に発動してる……攻撃を受けてるの……?」
「まさかさっきの攻撃……核爆発?」
「そんなわけ……」
否定したかったが、翼が懐から端末を取り出して振っている。その顔はどんどん青ざめていった。
「最悪。放射線レベルが上昇してる」
「つまり……!?」
「十中八九核攻撃だね。ふざけんな!」
もう涙目で叫ぶしかできることは残されていなかった。
リフレクトシールドを展開でき、遠距離からの射撃は無効化される。ただでさえ黒い雪でアサルトが誤作動を起こし戦いにくい中、核攻撃の手段まで持っている耐久性の高い超大型ホロゥ。
勝てる未来など見当たらない。今はただ一刻も早く撤退するしかない。
百合花たちはまだ大丈夫だが、静香たち第一世代のワルキューレは今すぐにでもこの場から離れなくてはならなかった。シールドがないため被爆の危険性がある。
「これより撤退! 一度退いて体勢を――」
神子が叫んだ瞬間、ホロゥが翼をはためかせて飛翔した。
百合花たちの直上まで移動し、口を開くと長い舌を伸ばしてくる。
運悪く遙花が捕まってしまう。粘性の液体で遙花の体を舌に固定すると、ホロゥは素早く舌を引っ込めた。
「え、食べら……」
あまりにも早い出来事にどうすることもできず、遙花がホロゥに食べられてしまう。
彼女を飲み込み、養分としたホロゥが再度口を開き、今度はあの黒紫の球体を形成し始めた。
「うそうそうそうそ! こんな短時間でまた撃てるの!?」
「遙花様を食べたからエネルギーが回復されたんだ!」
「皆逃げて早くッ! このままじゃ……!」
「ダメッ! 間に合わ――」
悲鳴に近い声が聞こえ、球体が放たれた。
球体は百合花たちが散らばっていた一帯のちょうど中央付近に直撃、紫の光が拡散される。
間近で感じた衝撃波に一瞬で意識を奪われ、突風と熱で何もかもが分からなくなり。
誰かが目の前に飛び込んできた姿を最後にして、百合花は意識を手放した。
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