第126話 厄災の目覚め
作戦のため、この場に集うワルキューレたちがそれぞれ配置につく。
失敗は許されないと気合いを入れ直し、全員の顔を確認した杏華が手を挙げた。
「今ッ! ラグナロクフェーズスタート! 繋げてくれたチャンスを決して無駄にしないように!!」
合図に応じ、聖蘭のワルキューレが全員アサルトを盾の形態に変形させる。
杏華のアサルトから青白いプラズマが放出され、撃滅作戦の最終段階が開始される。
「いくわよ綾埜! いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
「任された! 雷神の鉄槌、次に繋げてやるわよ!!」
超加速荷電粒子砲により光速に迫る勢いで撃ち出された弾丸。
一秒に満たない速度で綾埜のリフレクトシールドに着弾し、向きを変え威力を増大させて弾き飛ばした。次、近くのテラス席で身構えていたエミリーに繋がり同じように弾かれた。
威力、弾速共に少しずつ上昇しながら次々とパスが繋がれていく。
「これが、聖蘭黒百合学園の切り札……!」
「リフレクトシールドを介した戦略連鎖超威力砲撃……ラグナロクチェイン」
「今回のスタートは杏華さんということで、使用弾丸も最強格のトールバレットですね!」
「一発数百億円……改めて防衛省の本気と、あのホロゥの脅威が理解できるわ」
ホロゥたちもさすがにこれを撃たせるわけにはいかないと判断したのだろう。
墨田区各地及び周辺区に散っていた大型、中型のホロゥたちが戦闘を放棄してスカイツリーへの集合を始めたと報告が入る。
途中でホロゥにぶつかれば連鎖が途切れ、決定打に欠ける可能性が考えられる。肉壁となることだけは阻止しなくてはならない。
と、ここで瑞菜の通信機に高天原司令部から指示が入る。
『現場にいる高天原の全ワルキューレへ告げる。これより、迎撃戦へ移行せよ。今は組織の違いを気にしている状況ではない。何としてでも聖蘭のワルキューレたちを守り抜け!!』
わずかな不安要素であった高天原との協調性問題もこれで解決された。
高天原の動きに続くように、すべての学園都市のワルキューレたちも聖蘭の作戦を成功させるために行動を開始する。
心を一つに戦っている様子に、神子の口元が緩む。百合花も同じでアサルトを強く握りしめた。
出現するホロゥの数は圧倒的。琵琶湖血戦を遥かに上回る危険な状態。
それでも、あの時のような絶望感はない。勝利の明確なビジョンは見えている。
神子が通信機に手をかけた。百合花と樹が硬く手を握り振り上げ、周囲を鼓舞する。
「我々も続けッ! 本来戦うべき私たち自衛隊が彼女たちに後れを取るな!!」
「百合ヶ咲学園も迎撃戦を始めましょう! この場の全員で未曾有の危機を切り抜ける!!」
各地で再び大きな歓声が上がる。
勢いを増したワルキューレたちの攻勢は凄まじい。各地で猛烈な勢いでホロゥを撃破していく。
渦からは絶えずホロゥが出現し続けているが、それを越える速度で数を減らしていた。
スカイツリー周辺も撃破速度が早い。聖蘭への妨害が起こるどころか、より動きやすいスペースの確保に成功している。
集合していたはずのホロゥは分断され、思うように動けずに怒りとも取れる奇声を発するしかできていなかった。
そうしているうちに、発射態勢が整えられる。
五周した弾丸が杏華へ帰ってきた。盾を大きく振りかぶり、スカイツリーで金属塊に閉じこもるホロゥへ打ち返す。
「これでトドメッ! その殻ごと撃ち抜いてやる!!」
「「「いっけぇぇぇぇぇーっ!!」」」
放たれた弾丸は容易く金属塊を破壊し、そして――
――目に見えない壁のようなものに阻まれ、角度を変えた。
上空へと飛ばされ、極大の大爆発を起こす。衝撃で地上のガラスは粉々に砕け散り、爆心地から近い雲が一気に吹き飛んだ。
その光景に誰もが絶句した。
性質を理解した築紫が震える声でまさかと告げる。
「あれ……
「かもしれない。さすがに想定外だね」
「そんな……!」
呆気に取られる中、さらに複数の渦が出現。小型のホロゥが次々這い出てくる。
「っ! 新たにホロゥ出現!」
「包囲される! 脱出を!」
「でも……」
ここで撤退するか判断に迷う。
その時だった。百合花たちを大きな地震が襲う。
「っ!? こんな時に!」
「待って違う! 自然のものじゃない!」
「じゃあこれは……」
「まさか……!?」
数人がバッとスカイツリーを見上げるのと、咆哮が轟くのは同時だった。
――オオオオオオオォォォォォォォッ!!
魂を震えさせるような甲高い音。
鼓膜に深刻なダメージを与える音域に思わず耳を塞ぐ。
そんな中、金属塊が砕けて中からゆっくりと巨大な脚が姿を現した。
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