第125話 最終確認

 ソラマチスカイアリーナで待機していた神子と百合花は、ホロゥたちの断末魔と大気中に拡散される光の粒子を見て笑顔を浮かべた。

 これで、繭型ホロゥを守る東西南北すべてのタイラント種ホロゥを撃破することに成功したことになる。

 残るはスカイツリーで眠り続けるあの繭型のみ。

 もうすぐこの戦いも終わらせることができると、より一層の気合いが入った。

 少し待っていると、最初に瑞菜たち高天原女学院のワルキューレが到着し、遅れて彩花たち百合ヶ咲学園のワルキューレたち、杏華たち聖蘭黒百合女学園のワルキューレが集まった。


「はぁー、近くで見ると相変わらず大きいわね」


 呆れたように杏華が言った。

 目算で二百メートル近い巨体。先ほどまで杏華たちが交戦していたクラーケンと比べると小さなサイズだが、それでも巨大なことには変わりない。

 まともに殴り合っても厳しいだろうが、しかし聖蘭には切り札がある。

 杏華が懐から金色の特殊弾丸を取りだした。


「それが今回使うバレットですか?」

「そっ。莫大な富を消費して放つ必滅の弾丸よ」

「あのー……ちなみにおいくらくらいに……?」

「かなり豪華な家が建つわね」


 恐る恐るの静香の質問に、意地悪げな笑みを浮かべた杏華があろうことか弾丸を指先に乗せて弄びながら答えた。

 おおまかな値段を聞いて顔を青ざめさせる静香を笑う杏華の頭に百合花がチョップを落とした。


「痛い」

「静香ちゃんを脅かさないの。まったく……」

「ごめんごめん。どうせ経費は防衛省持ちだから気楽に撃っちゃおー」


 誰もがツッコミを入れたくなったが、そこはスルーしておくことにした。

 さて、とばかりに神子が手を打って全員の意識を自分に向けさせる。


「ようやくここまできた。あのホロゥには全員が散々な目に遭わされてきたと思う」


 思うところがあり、百合花や瑞菜がグッと拳を固める。


「でも、それもあともう少し。あいつを倒せばきっとこの東京で暴れているホロゥの勢いも衰えるはず」

「その根拠は?」


 望の疑問にも神子は答える。


「あいつはホロゥを自分の手足のように操っているような動きが見られた。ソラマチ周辺に配置されていた四体の特型タイラント種がその何よりの証拠ね。つまり、親玉的存在だと思っている。だからこそあいつを倒せばこの騒動はある程度落ち着きを見せると思うの」

「希望的観測しかないですね。でも、可能性は高いかもしれない」


 メルも肯定的な意見だった。

 日は沈み始め、月の輝きが強くなろうとしている。

 もうすぐ夜になる東京の町で、青白く輝く繭型ホロゥは不気味だった。

 百合花が杏華の近くに寄り、視線を聖蘭の面々へと向ける。


「改めて確認させてね。皆の動きと私たちの配置はどうすればいい?」

「このスカイアリーナまで上がってくるホロゥは少数でしょう。周辺の警戒さえ怠らなければ神の裁きは確実に奴を討ち滅ぼす」

「オッケー。這い上がってくるホロゥの撃墜と、屋内から来るホロゥの撃破ね」

「よろしく」


 そんな会話をしていた時、さらに百合花たちを勢いづける報告が飛び込んでくる。


「お姉ちゃん! 夢様から連絡があったよ! 百合ヶ咲・甲州桃ノ木学園を中心としたワルキューレの混成部隊と自衛隊がホロゥの集団を突破! ソラマチ周辺に布陣して迎撃に入るって!」

「彩葉それ本当!? 神子様聞きましたか!?」

「ええ! どうやら勝利の女神はこちらに味方してくれているみたいね」


 これで外からの攻撃に対する警戒数を減らしても問題がなくなる。

 後は、より威力を高めるためにもう少し聖蘭からの増援がほしいところだが、やはり勝利の女神が実在するかのようにベストタイミングの通信が杏華に届く。


『聖蘭司令部より現場の戦乙女へ通達。現在、自衛隊が形成した突破口を黒木以下数名が急行中。御劔たちは彼女らを受け入れて共に戦槌を振り下ろされたし』

「了解! 青白い月の元、同じく青白い裁きの雷をくらわせてやりましょう!」


 通信が終わった。

 その二分後、外壁を駆け上って聖蘭のワルキューレが三人到着する。


「百合花! いつでも始められるよ!」

「オッケー杏華! お姉ちゃん!」


 神子がアサルトを掲げた。

 出せる限りの大声を張り上げ、ソラマチの外にいる味方にも聞こえるように叫ぶ。


「これより繭型ホロゥ撃滅作戦最終段階、ラグナロクチェインによる繭の破壊を実施する! 皆でこの場を乗り越えて、美味しいご飯を食べに行きましょう!」


 空気が震えるほどの大歓声。

 勢いに乗る百合花たちの士気は最高潮だ。

 杏華が特殊弾丸をアサルトに装填し、いよいよ最終攻撃が始まる。

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