第124話 苛烈な獣狩り
「おらおらおらぁー! 砕けろやスクラップ!」
心愛の叫び声が獣の咆哮と一緒になって響き渡る。
彼女が持つアサルトとフェンリルの鋭い爪が激しくぶつかって火花が散った。
翼と望が心愛を援護するように布陣を変え、瑞菜が攻め込むタイミングを見計らっている。
フェンリルは動きが単純だが、捕食攻撃を中心とした非常に高い戦闘能力を有している。リリカルバーストを発動されると、二足歩行形態となりさらに強い攻撃能力を獲得してしまう。
加えて、このフェンリルは理性的な動きで心愛とぶつかり合っていた。普通の個体よりも高い知能を有した特型ホロゥだ。
今のところは互角に見えるが、いつ均衡が崩れるか分からない。
そうなる前に戦況を有利なものに変えようと、宮子が大きく息を吸い込んだ。
「リリカルバースト」
瞬間、宮子の全身から莫大な力が溢れ出す。
「宮子! あまり無茶しないように!」
「分かってる瑞菜さん!」
攻撃態勢に移った宮子。その隣を二人の人物が駆けていく。
「邪魔だ引っ込んでろ!」
「化け物の力を借りるまでもないわよこんなやつ!」
メルと咲の二人が飛び上がり、心愛に集中していたフェンリルを強襲した。
顔の両側を強く殴られ、悲鳴を発しながらフェンリルが離脱する。
すぐに近くの瓦礫を足場に旋回して戻ってくると、牙に稲妻を纏わせて踏み込み飛びかかる。
メルがアサルトの持ち方を変え、フェンリルが噛みつくと同時にそれを妨害するように本体を滑り込ませる。
口が閉じられるもアサルトに引っかかって捕食ができない。さらに、勢いを付けていたものだからアサルトの刃が口内に突き刺さって激しく顔を振りながら苦痛に呻いていた。
メルが空中で回転し、半回転したところで足裏を咲が踏みつけてさらに高く跳ぶ。
暴れるフェンリルの頭上に立つと、脳天へとアサルトを突き立てた。
凄まじい激痛にフェンリルが身をよじり、必死に暴れて咲を振り落とす。
突き刺さったアサルトも落とそうともがくが、深く刺さっているために抜けない。
獣の絶叫がソラマチ一帯に響き渡る。
「チャンスです! 宮子! あのアサルトを頭が貫通するように攻撃して!」
「分かった!」
「はぁ!? 私のアサルト壊すつもり!?」
「持ち手を上から叩けば壊れないはずです! 翼様と望様、メル様で援護してください! 心愛! 宮子が取り付けるようにこちらで引きつけるよ!」
「おうよ任せろ!」
「オッケー任された!」
「了解だよ」
「ちっ……仕方ない」
「行動開始!」
瑞菜の指示で全員が一斉にフェンリルへ攻撃を仕掛けた。
心愛が攻撃速度を上げ、瑞菜が心愛の隙を埋めるように連続攻撃を仕掛けていく。
心愛と互角にやり合っていたのに、さらにそこに瑞菜が加わったことで意識を分散したフェンリルが少しずつ押され始めた。
さらに、翼たちも意識の外側からチクチクと攻撃してくるために怒りに震えている。
全員を一度に相手するほどフェンリルは賢くない。そこまで頭が回らない。
最優先目標を心愛に絞り、他は極力無視する方向で動きを変えた。
が、そんなことをすれば隠れて接近していた宮子には気づけない。
背後に迫るリリカルパワーを感じ取ったフェンリルが慌てて振り返る頃には、既に迎撃不可能な距離にまで距離が詰まっていた。
「やああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アサルトの先端を咲のアサルトが刺さっている場所へと叩き込み、亀裂を深くして頭突きで咲のアサルトを押し込む。
宮子の鋭い槍型アサルトが抉っていたために耐久性が低くなっており、咲のアサルトがさらに押し込まれた。
フェンリルが激痛で吠え、振り落とそうともがくがそうはさせまいと心愛が強烈な打撃を叩き込む。
「どこ見てんだよ犬っころ! 俺はこっちだぞコラ!」
アッパーをするように殴られたフェンリルがのけ反った。
その瞬間に宮子がアサルトを手放して握りこぶしを固める。
「せぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」
そして、咲のアサルトの持ち手を全力で殴りつけた。
咲のアサルトが貫通し、頭を貫通して地上へと落ちていく。
確実な致命傷。しかし、さらなる一撃でトドメを刺そうと咲が空中でアサルトをキャッチした。
攻撃の前に瑞菜のお尻を強く蹴る。
「いたっ! 何するんですか!」
「ボサッとすんな! 癪だけど私とあんたで首を同時に攻撃して叩き落とすよ!」
「っ! 分かりました!」
宮子がアサルトを引き抜いて飛び降りた。
蓄積されたダメージでよろめいたところを瑞菜と咲の二人がアサルトを構えて飛び上がる。
「「はああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」
回転を加えた斬撃で首を攻撃した。
ダメ押しの一撃が上から心愛によって振り下ろされる。
「くたばれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
二人の攻撃で脆くなっていた装甲は心愛の一撃に耐えられるはずもなく、首の金属が砕けて頭が切り離された。
弱々しい断末魔が一瞬だけ漏れ、フェンリルの体が光に包まれて消滅していく。
勝利に沸くが、すぐに意識を次の戦いに向けて切り替える。フェンリルを倒すことが目的ではないのだ。
既に集まっているであろう仲間たちの元へ急ぐため、陣形を整えて急ぎスカイツリーの下へと向かう。
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