第123話 弾ける閃光

 ヒュドラの目が動いて接近する彩花を睨み付けた。

 視線を向けられる直前に樹はヒュドラの意識の外に離脱し、彩花は樹の動きに勘づかせまいとあえて大げさな動きで注意を惹く。

 さらに、彩葉も彩花の動きから意図を察して遠距離から射撃することによりヒュドラの意識を樹に向けさせないでいた。

 五つあるヒュドラの首がすべて彩花のほうを向き、大きく口を開いてブレスを放とうとする。

 その瞬間を狙って樹が強く踏み込み、主に目を狙って双剣による素早い斬撃を素早く連続で叩き込んでいく。

 視界を潰されたヒュドラたちはたちまちに暴れ狂い、四方八方にブレスを乱雑に放射してのたうち回る。そのせいで同士討ちまでもが発生していた。

 しかし、破壊された目もすぐに修復され、樹を狙うように首の軌道が変わりブレスの向きが変化する。

 が、その時には既に彩花が懐深くに潜り込んでいた。

 強く踏み込んだ一撃で奥深くまでアサルトを突き刺して即座に離脱。

 痛みに悶えるが、すぐに傷が塞がっていく。


「くっそ……相変わらずの再生速度ね……」

「再生に使われる金属はどこから生み出されているのやら……」


 ヒュドラが持つ厄介極まりない能力。それが高速度による再生だった。

 修復が追いつかないほどの威力や速度で削るしか倒す手段はないのだが、そう簡単なことではない。

 加えて、彩花が過去に遭遇したヒュドラよりも再生速度が早いことから、このヒュドラはより再生に特化した能力を持つ特型ホロゥだと容易に想像できる。

 少しでも補助しようと静香と千代が援護射撃を行い、傷ついた場所を彩葉が遠距離から撃ち抜く。

 ヒュドラの動きから彩葉が一番面倒だと感じているようだが、彼我の距離を詰めることができる攻撃手段をヒュドラは有していない。最大射程のブレス攻撃でも彩葉が陣取っている場所は射程外だ。

 先に彩花と樹を殺してその後に彩葉たちを始末しようと、太い脚をめちゃくちゃに暴れさせる。


「ちょ! 危ない危ない!」

「落ち着きなさいよこのデカブツ!」

「うわぁ! 揺れて狙いが定まらない!」


 地震に近い現象を起こされて静香の斜線がブレる。

 千代は瞬時に影響が少ない場所を見つけて移動したが、ガトリングガンの有効射程ギリギリになってしまったためにわずかに威力が落ちる。

 しかし、暴れたことでどうしても意識が複数箇所に散らばった。その隙を見逃すほど彩花も樹も未熟ではない。

 瓦礫を足場にして素早く駆け上がってヒュドラの頭上を取る。

 落下速度を乗せた着地までのこの時間でどれだけ削れるかが勝負。

 樹がアサルトに乗せるリリカルパワーを増大させてエネルギー攻撃を放てるように構える。

 彩花は攻撃の直前に形態を射撃形態へと変化させた。


「いくよ樹ちゃん! 全力で削り倒せ!」

「了解です!」


 首の一つが彩花を捕食しようと大口を開けて伸びてくるが、顎を彩葉が撃ち抜いて軌道を逸らすことに成功する。

 静香と千代の攻撃で首の二つが視線を彩花たちから外した瞬間、彩花のアサルトが火を噴いた。

 弾丸が集中して全身に浴びせられ、苦悶の声がヒュドラの口から漏れる。

 樹の攻撃前に彩花が再びアサルトを近接形態に戻し、首の至る所に斬撃を叩き込んで脆くしていく。

 刹那の瞬間を射貫くように彩葉からの射撃が脆くなった場所を撃ち抜いて首の一つ一つを吹き飛ばした。

 姉妹の息があった攻撃に静香が目を見開く。


「打ち合わせもなしに……すごい……」


 二人に触発された千代がすぐに動く。

 とにかく弾丸をばらまいて体に傷を付けた。それが道のような傷痕を作り出す。

 千代の狙いを誰もが一瞬で理解した。


「樹様! 合わせてください!」

「もちろん! ありがと千代!」


 樹のアサルトが眩い輝きを発する。

 素早く凪ぐとエネルギーの斬撃が飛び、より強い追撃効果が発生していた。

 最初の一撃で千代が付けた傷を深くして刃を体に叩き込み、追撃のエネルギー刃が体内を破壊しながら貫いていく。

 荒々しくも綺麗な大嵐の如き斬撃。

 ヒュドラの体から無数のエネルギー刃が飛びだし、体がどんどん崩れていく。

 攻撃を終えて着地を決める樹。軽く呼吸を整えてアサルトに付いた破片を払うように凪ぐ。

 樹の背後にいるヒュドラ、否、かつてヒュドラだった金属塊は見るも無惨な状態だ。

 原型がほとんど残らないほどに破壊され、もうこの状態からの修復は不可能。破片や首が至る所に散らばっていた。

 生命活動が停止し、それを証明するように体が光に包まれて粒子となり拡散していく。

 ヒュドラの討伐に成功。

 繭型ホロゥを守る障壁の一つを打ち砕き、スカイツリーへの道が開けた。


「行こう! 百合花ちゃんたちはきっともう待ってるはず!」


 素早く彩葉が合流し、彩花を先頭にしてスカイツリー入り口の集合場所へと急ぐ。

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