第122話 聖蘭奮戦

 三百メートルという巨体を有し、圧倒的な質量ですべてを破壊する超大型ホロゥ、クラーケン。

 存在するだけで質量兵器と化す化け物は今、何もさせてもらえずに全身を砕かれていた。


「ほらほら! その程度かイカ野郎!」

「屋台で串に刺して売っちゃうよ!」

「広がりし蒼海から外れた海の怪物は鋼鉄の海に沈む。降り注ぐ弾丸の雨は貴様を葬るレクイエム!」


 聖蘭のワルキューレたちによるレールガンの集中砲火を受けては耐えられるはずもない。

 このクラーケンも特型で、全身の金属量が他よりも多くて高い防御力と攻撃力を発揮することが可能な個体であった。

 しかし、その違いもレールガンの前には無いも同然で、容赦ない攻撃に無様な鳴き声を出すしかできなかった。

 一方的な蹂躙が目の前で繰り広げられ、香織と葵は言葉を失っている。


「御姉様……日本で一番強い学園都市って本当に鎌倉の百合ヶ咲ですか?」

「私もちょっと疑問に感じるレベルね」


 苦笑しながらそんな話をしていると、二人の横に杏華が立つ。


「残念ながら、聖蘭は確かに強いけどその大半はアサルトの性能にものを言わせたごり押しよ。個人個人の質は絶対に百合ヶ咲のワルキューレの方が上だから安心して」

「そうなんですね……」

「それに、レールガンにも実は弱点があるし……」


 そう、杏華が言ったときだった。

 バキッという嫌な音が響き、ユークリットの悲鳴が聞こえる。


「あー! 銃身が壊れた!」


 見ると、銃身が内側から破裂したように吹き飛び、これ以上の射撃は不可能なほどに壊れてしまっている。


「あんな風に、短時間で連続して撃つとプラズマ加速機構が暴発してさらなる射撃は望めない。そうなれば神秘とも言える形の変化は不可能となり私たちは子羊同然の存在へと落ちていく」

「えぇ!? それって大変じゃないの!?」

「そうですよ! ラグナロクチェインを前にアサルトが壊れるなんて!」

「問題ないわ。替えはある」


 杏華が細長い筒をユークリットに向かって投げつける。


「ユークリット様! 新たな力を送りますので素早く交換を!」

「ありがとう! ふふんっ! 剣が折れようと心折れない限りはこうして無限の活力と共に新たな兵装が与えられ、確実にお前たちを滅ぼすであろう!」


 慣れた手つきで素早く壊れた銃身を破棄すると、新たな銃身をセットして射撃を再開する。

 他にも遙花と築紫が同じように銃身を破裂させて壊してしまうが、持っていた予備の銃身に素早く交換して攻撃を続行した。

 ただ、三分間も休むことなくレールガンの直撃を受け続ければ特型の装甲といえどひとたまりもなく、触手は全て吹き飛ばされて顔全体が今にも砕けそうだった。

 射撃をやめた聖蘭のワルキューレたちが離脱し、杏華がアサルトを射撃形態にして満面の笑顔を浮かべていた。


「さぁ来ました! くらえブルーシャイニングッ! 悪しき存在を滅ぼす聖なる蒼き稲妻の鉄槌だぁー!」


 青い閃光が弾け、空間を青白い光線が貫いた。

 放たれた超加速荷電粒子砲がクラーケンの眉間を撃ち抜き、一瞬の痙攣を起こさせた後に体を崩壊させる。

 粉々になり、塵と化して消滅していくクラーケンを見ながら、綾埜を筆頭とした聖蘭のワルキューレたちがマントをバサリと翻す。


「これぞ魔女の力。怪物では決して届かぬ高みよ」

「クトゥルフ様より与えられし我が力の前に落ちるがよいぞ偽物よ」

「僕たちに挑もうなんてまだまだ早いんだよね」

「我が右腕が疼いてしまったのだ……許せ」

「これぞ究極の……えと……究極の……勝ててよかったですね!」


 築紫だけがまともな台詞を残し、その姿に香織と葵も笑う。

 これで西側の敵は撃破できた。ソラマチに上がって他の皆と合流する。

 そう考えて移動しようとしたが、葵の視界の端にホロゥ出現の渦が見えた。

 綾埜たちのすぐ背後に現れた渦からはカマキリ型の中型ホロゥ、タイプマンティスが出現し、綾埜たちの首をその鋭い鎌で切り裂こうと――、


「はっ!」

「たああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 鎌が振られる前に葵が素早く飛び込んでマンティスの軍勢を一カ所に集まるよう切り飛ばし、まとまった群体を香織が渾身の一撃で殴りつけて粉砕した。

 きめ細かな粒子となって消滅していくホロゥに綾埜たちが呆気にとられる。


「皆さん大丈夫ですか!?」

「え、えぇ……助かったわ」

「すごい威力だ……ホロゥが粉々に……」

「助かりました香織さん! 私死んだと思いましたよぉぉぉ!」


 築紫が泣きながら香織に抱きついた。

 葵の近くに杏華が歩いていく。


「ありがとうございます。皆を助けてくれて」

「聖蘭の皆はこの作戦の切り札だからね。死なせるわけにはいかない。さっ、行こうか」


 葵の提案に全員が頷いた。

 仲間との合流のため、ソラマチへと突入しスカイツリーの下まで急いで向かう。

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