第121話 ソラマチ開戦
百合花たちがついにソラマチが見える位置にまで進むことに成功する。
ホロゥの主力は現在自衛隊と交戦中のため、残っているのは少数精鋭と思しき個体たちばかり。
あの繭型ホロゥはそこまで知恵が回るのかと怖くなるが、それでもまだまだ実力を見る目はないのだと安心する。
ソラマチ周辺に配置されている四体はタイラント種ではあるが、いずれも禁忌指定されている強力な個体ではない。百合花たちで充分対処可能だ。
敵を見た神子が素早く人員を整理して攻撃指令を出す。
「高天原の皆でソラマチ東に布陣しているフェンリルを攻撃! 彩花ちゃんと彩葉ちゃん、樹ちゃん静香ちゃん千代ちゃんの五人で北側のヒュドラを倒して! 私と百合花の二人で一番キツイ南のコカトリス! 残る全員で西のクラーケンを叩いて!」
「「「了解!」」」
「行動開始!」
神子の仕分けに従って分かれ、各々の戦闘相手に向かって突撃していく。
ホロゥも百合花たちの接近に対して迎撃態勢を取ってきた。
神子がアサルトを重機関銃形態に変形させ、百合花が強く地面を踏み込んでさらに加速する。
神子が全力でフラッシュグレネードをコカトリスの眼前に放り投げ、百合花は目をつぶって光の直撃を回避する。
刹那の後、閃光が弾けた。
視界を奪われたコカトリスが奇声を発しながら大暴れする。
コカトリスが厄介な点は、持っている特殊能力にある。
単体の戦闘能力はそれほど強くないが、視線を合わせると人間を石像に変えるという恐ろしい能力を有していた。
石像に変えられた人間は生きているものの元に戻ることはなく、その上非常に脆い石質のために衝撃を与えられると簡単に砕けてしまう。砕けると言うまでもないが死亡する。
さらに、傷を負うと猛毒の体液と瘴気を撒き散らすという面倒極まりない能力まであった。
瘴気はシールドで防げるが、体液はワルキューレのシールドも貫通してしまう。浴びればその部位から体が腐って溶けていく。
そのため、フラッシュグレネードを使って石化の視線を封じ、遠距離から高い威力で削ることができる神子と、傷を与えてから体液を浴びる前に素早く離脱することが可能な高速戦闘を得意とする百合花の二人が適任なのだ。
暴れるコカトリスの懐に潜り込み、切り上げると同時に全速離脱。同時に神子が弾丸をコカトリスの眼球に叩き込んで打ち砕く。
火花が散って紫色の液体が噴出した。地面に撒き散らされた猛毒がアスファルトを容易く溶かしていく。
そして、次の瞬間想像もしない出来事が起きた。
大きくのけ反ったコカトリスは、破壊された目を修復して素早い動きで百合花の腕に噛みついた。
「いっ!」
「いけない! 切り落として!」
「ぐっ……あああぁぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴と覚悟が混じる叫び声と共に、百合花は自分の左腕を肩から切り落とした。
徐々に腐り落ちていく腕を咀嚼しながら、コカトリスが飛び下がって威嚇するように翼を広げて叫ぶ。
リジェネレーターで腕を再生させながら、百合花が悔しそうに唇を噛んだ。
「百合花大丈夫!?」
「ごめんお姉ちゃん……ミスした……」
「高い再生能力を持つ特型なんて予想してなかったから気にしないで。それより、くるよ!」
「リリカルバースト……!」
百合花の腕を食べたことで、コカトリスがリリカルバーストを発動させた。
体格が一回り大きくなり、眼球が赤く染まる。この状態になると目から高温の熱線も放出することが可能になるので迂闊に正面には立てなくなった。
腕だけなのでバースト時間はすぐに終わると予想されるが、それでも危険なことに変わりない。
「散開!」
神子と百合花が同時に左右に避け、直後に二人がいた位置をコカトリスの熱線が焼き払う。
熱線は背後にあった車を真っ二つに焼き切り、ガソリンに引火したのか爆発させた。
生身でくらえば火傷どころの話ではない。
「再度攻撃するよ! もう動ける!?」
「問題ない!」
すぐに体勢を立て直して再度コカトリスへの攻撃に転じる。
接近する百合花を見て、コカトリスは舌なめずりをして顔を向けた。
眼球に熱線発射直前の球体が出現しないことから、石化させて殺すつもりなのだと瞬時に判断する。
当然、そんなことは神子が許さずもう一発のフラッシュグレネードが投げ込まれてコカトリスの視界を奪った。
再び奇声を発して暴れるコカトリスのすぐ前に百合花はもういる。
「よくもやってくれたわね!!」
先ほどのお返しとばかりに素早く四連撃を加えて離脱、間髪入れずにまた突進する。
四肢を飛ばされ、苦し紛れに体をよじって広範囲に猛毒を撒き散らすが、それすらも百合花は難なく掻い潜って背後へと回り込む。
そして、体を捻り、その勢いも利用してアサルトを素早く凪いだ。
刃がコカトリスの首を抵抗なくすり抜け、奇声が止まる。
「これで終わり。バースト状態でも全然勝てる!」
勝ったとばかりに百合花がアサルトを振ると、コカトリスの首が見事な断面を見せながら切れて地面に落ちた。
体が光に包まれ、塵となって消滅していく。
「お疲れ様。さて、他の皆はどうだろう?」
神子が百合花を労い、周辺状況と他のタイラント種を任せたメンバーを心配する。
しかし、百合花は笑顔で首を横に振り、大丈夫だと伝えた。
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