第120話 繭破壊作戦開始
休息が終わり、ワルキューレたちが配置についている。
時計を確認していた神子が静かに目を閉じた。
墨田区と台東区の境界線付近で待機しているワルキューレ全員に緊張が走る。
震えている静香の手を優しく包むように百合花が手を重ね合わせ、そしてもう片方の手で樹とタッチを交わす。彩花と彩葉はしっかり手を握りあい、葵と香織が不安を和らげるために抱擁を交わしている。
瑞菜たち高天原のワルキューレは司令部から作戦の再通達が行われたためにそれを聞いていて、杏華たち聖蘭黒百合のワルキューレは展開と陣形の最終確認をしていた。
自衛隊のワルキューレたちも思い出の写真を眺めていると、いよいよ運命の時間がやって来る。
神子の隣にいたワルキューレが、十五時になったことを耳打ちで伝えた。
報告を聞き、神子は通信機をオープン回線にして話し始める。
「まず最初に、ありがとうと伝えさせてほしい。東京という日本の中心地でかつてない規模のホロゥ、かつてない強さのホロゥと戦ったにも関わらず、ここにいる人たちは挫けなかった。私たちの明日を守るため、命を賭してこの戦いに参加してくれている。そのことに、まず感謝を述べます」
夕日が神子やワルキューレたちの顔を照らす。
赤い日に照らされた彼女たちの瞳には輝きが宿っており、まだまだ諦めていないとそれだけで分かった。
「スカイツリー周辺のホロゥはいまだ主力が健在。数も多い。でも、周辺区域で日本中の学園都市のワルキューレたちが戦ってくれている。私たちの勝利を信じて、逃げずに立ち向ってくれている」
ワルキューレの多くがアサルトを握る力を強くした。
「ならば、私たちが持ち帰るは勝利の報告のみ! スカイツリーで眠るあのホロゥを撃破し、私たちは負けないと日本中に伝える! 世界中に届ける! 明けない夜はないんだと私たちで証明しましょう!」
神子がアサルトを振り上げると、それに合わせて自衛隊のワルキューレたちもアサルトを掲げて歓声を発した。
空気が揺らめくほどの熱気に、百合花たちの胸が熱くなる。
「三奈と貴女たち自衛隊のワルキューレでホロゥの軍勢を蹴散らし、高天原と百合ヶ咲の有志の部隊が聖蘭のワルキューレをソラマチまで送り届ける! ラグナロクチェインさえ撃ち込めれば私たちの勝ちよ!」
一羽の鳥が鳴き声を発しながら大空へと羽ばたいていった。
その先にアサルトの切っ先を向け、神子が一際大きく叫ぶために息を吸い込む。
「私に与えられたエイルの名は、平和を象徴するもの。そして、私の妹、百合花に与えられたブリュンヒルデは輝く者。さらに、私たちには勝利を意味する英霊シグルーンの加護がある! 絶対に負けはしない! 勝利のため、私たちネームドワルキューレに付いてこい! これより作戦を開始する! 人類の力、奴らにとことん見せつけてやりなさい!!」
神子の演説が終わり、作戦開始を告げる笛の音が鳴り響いた。
自衛隊のワルキューレが走り出し、墨田区への突撃を開始する。
接近に気づいたホロゥたちが集まって行く手を阻もうと迎撃陣形を組み立て始めるが、動き出した瞬間に前衛の近接部隊が即座に一掃する。
前衛部隊が戦っている間に後衛の射撃部隊が横一列の砲撃陣形を何重にも形成していく。
先行して戦闘状態に突入したホロゥの援護をしようと至る所から大型のホロゥたちが無数に集まってくる。
だが、それらを撃破するのが後衛の役目だ。
「第一陣! 目標、前方の大型ホロゥタイプコブラ! 撃ち方始め!」
後衛のワルキューレたちのアサルトが一斉に火を噴いた。
高火力の弾丸が一気に炸裂し、迫っていた大型ホロゥ三体が一瞬のうちに砕け散った。バラバラになった体が光に包まれ、消滅していく。
小型中型のホロゥが群がるが、前衛の近接戦闘のワルキューレたちも精強揃い。そう簡単には倒れない。
そのために大型の強いホロゥが支援に動けば、たちまちに後衛のワルキューレが撃ち抜いて前衛部隊と接触させないようにしていた。
最初の段階の一点誘導に成功し、ホロゥたちが一カ所に集まり始める。
こうなれば広範囲に散っていたホロゥたちにも穴が生まれ、突破ポイントがいくつも開かれた。
この機を逃さず、神子が待機中の百合花たちへと指示を飛ばす。
「今よ! これより私たちは突入する! 戦闘は最小限にして目的地までたどり着け!」
ホロゥは自衛隊が引きつけてくれると信じて出せる限りの全速力で駆け抜ける。
東京を舞台とした戦いの転換点に差し掛かり、緊張はしているのだが誰もがいい笑顔を見せていた。
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