第119話 ラグナロクチェイン

 食事を終えた百合花はとある人物を探してうろうろと歩いていた。

 しばらく歩いた後、アサルトの整備設備が整っている施設の中で目的の人物を見つけ、ゆっくりと近付いていく。

 その人物も百合花の接近に気づき、持っていたスパナを横に置いて立ち上がった。


「おやおや百合花。一体何用かな?」

「ちょっとね。ラグナロクチェインとかいろいろ聞いておきたくて」


 超加速荷電粒子砲を点検していた杏華は、なるほどと頷いた。

 そして、胸ポケットから一発の黄金色が美しい弾丸を取り出す。


「それ……」

「そっ。世界を焼くムスペルの業火でやつが逃げ出したからそれでいいと聖蘭の司令部は考えていたみたいだけど、未知なる繭に閉じこもっては怪しい。ならばそれ以上の北欧の稲妻による戦槌を振り下ろす他ないってね」

「要するに、トールバレットを使う訳ね。北欧神シリーズの弾丸を使う場面、見るのは初めてなんだけど」

「あれ? 百合花にはロキバレットの発射シーン見せたことなかった?」

「訓練弾なら見たことあるよ」


 訓練弾と実弾では威力に天と地ほどの差がある。

 本物を見たことがない百合花にとっても貴重な場面だ。

 しかし、期待と同じかそれ以上に不安を感じているのも事実ではある。


「北欧神の弾丸は制御も発射も難しいって聞くけど、撃てるの? 効率は悪いけどバースト使えば中継くらいはできると思うんだけど、手助け必要?」

「手助け不要! 百合ヶ咲への遠征前にフレイヤバレットの実弾を撃ったんだけど、発射に成功してるしその時のメンバーは全員揃ってるから問題ないわ!」


 今回使用予定のトールバレットと同格の弾丸による発射が成功しているのならば問題ないと思った。

 それなら安心と百合花も一息つく。

 自信満々に杏華が胸を張っていると、壁がノックされる。

 そちらを確認すると、瑞菜と葵、香織が話しかけるタイミングを伺っているようだった。


「あらごめんなさい。壁なくいつでも話しかけてくれてよかったのに」

「す、すみません! 実は、杏華さんに聞きたいことがありまして……」

「静香ちゃんも詳しそうだったけど、弾丸の種類しか知らなかったからこっちに聞いたほうが早いと思って」


 葵からそう言われ、百合花も杏華も四人の来訪目的を察した。

 瑞菜が率直に尋ねる。


「ラグナロクチェイン……名前しか聞いたことないんですが、どんな技なのでしょうか?」

「ラグナロクチェインの詳細情報は聖蘭黒百合学園がほぼ独占状態。そして聖蘭以外で情報を閲覧できるのは御劔家とその関係者だけって聞くから私たちはどんな攻撃なのか分からないんだ」

「だから、聖蘭の援護と言われてもどういった動きをすればいいのか分からなくて……」

「そういえばそうね。昔、百合花たちには当たり前のように見せていたから失念していたわ」

「情報公開の範囲を広げるように進言しなきゃね」


 百合花と杏華が反省を口にし、そして杏華が懐から別の弾丸を取り出す。

 緋色が美しい弾丸で、普通の銃弾よりも少し大きめだった。よくよく監察すると、表面にルーン文字のようなものが刻印されている。


「こういった特殊弾丸を用いてチームで威力を高めながら攻撃するのがラグナロクチェイン。聖蘭だけ、というけどそれはアサルトの関係上聖蘭のワルキューレしかまともに発動できないからね」

「と、言うと?」

「私たちのアサルトは悪しき怪物の闇を弾くもの。この力で光を繋いでより強くしてから相手に向かって一気に放つことで闇に輝ける光を通しているのよ」

「……えぇっと……」

「聖蘭のワルキューレが使うアサルトのシールド形態はリフレクトシールドといって、普通の盾よりも物理的干渉に弱い分エネルギー攻撃をわずかに強くして跳ね返すことができるんです。その角度を調整して、ワルキューレ同士でパスを繋ぎ弾丸の威力を向上させて即死級に強くなった弾丸をホロゥに撃ち込む。それがラグナロクチェインなんですよ。援護するときはパスの射線に入らなければ問題ないはずです」


 解説を求められた百合花の説明になるほどと瑞菜たちが手を打つ。

 そこに、さらに追加で杏華が呆れ声で補足した。


「普通はリフレクトシールドじゃないと跳ね返せないから私たちだけの切り札なのよ。誰かさんみたいにバースト状態で野球みたいに打ち返すとかバカかと思ったわ」

「「「え」」」

「結局あれは相当威力が上がっていたからアサルト壊しちゃったじゃん! 担当の整備の人にめちゃくちゃ怒られたんだからね!?」

「普通はアサルトの大破じゃなくて本人が消し飛ぶのよ。ラグナロクチェインは人食いのあの化け物共を一撃で屠るための弾丸! アサルトの大破で済んでる百合花が異常なの!」


 鎌倉でクリオネ型に撃ち込まれたのはおそらくラグナロクチェインによる攻撃だと香織と葵は思っている。

 あの時の威力を思い出し、あれに近いものを百合花は打ち返したのかと思うと震えてくる。

 それは瑞菜も同じで、三人とも百合花をあり得ないものを見る目で眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る