第109話 対立
あやめの攻撃で周辺からホロゥが一掃されてしまっていた。
すぐにまたホロゥは現れるだろうが、それまでの間は休憩ということで瓦礫の上に座り、持参していたジュースを飲んでいる。
しかし、呑気な様子のあやめと沙友理とは違い、百合花は険しい目で周囲の惨状を見ていた。
崩壊したビル。粉々になったトラック。通行できなくなった高速道路。
ホロゥの攻撃によるものも多いが、あやめの流れ弾による被害も大きかった。第四世代能力を発動させる前にも、主に沙友理が建物を破壊している。
これは抗議しようと思った百合花があやめへと近付いていった。
同じように思うところもあるのか、翼が止めようとするのを無視して瑞菜も百合花の隣を歩く。
「ねぇ江藤さん。どういうつもり?」
「んー? 何がかなー?」
沙友理が一瞬目を細めるが、特に口を挟むこともなく腕を組み、周囲の警戒に当たっている。
「戦闘で建物が崩れるのは仕方がない。けど、それにしてももっと気をつけるとかやり方はあるでしょ。それに、あえて遮蔽物を破壊するような動きでホロゥをあぶり出すなんて、正気なの?」
「うっわ! ひっどい言いよう!」
「私も同感です。あやめさん、沙友理様。以前からずっと思っていましたが、咲も含めて貴女たちのやり方は認められません」
瑞菜の指摘にも、沙友理は目を閉じて肩をすくめるだけだ。
一方、あやめは小馬鹿にするようにふっと微笑み、立ち上がって腰の埃を払った。
「あやめだってそこら辺は分かってるよ。だから、住宅は壊さない」
「それ……」
「さっすがブリュンヒルデ! 気づいた? ほら、周りを見てみなよ」
ダンスでも踊るかのようにくるくるとその場で回り、腕を広げて自分が破壊した建物を指し示していく。
あやめの攻撃で破壊されたのは、どれも商業施設やオフィスビルなどの建物ばかりであった。ざっと見渡す限り、人が居住するような場所はあやめの攻撃では被害を受けていない。
沙友理はマンションだろうと容赦なく攻撃したのだが、あやめはあえて、それも時折必要のない攻撃をビルへと撃ち込んでいたのだった。
「どうせ自衛隊の攻撃でボロボロ。せっかくだし制約のない派手で楽な戦いにしないとね」
「あやめさん……貴女、以前は出雲市街で自衛隊の介入前にも同様に町を破壊しましたよね?」
「その時だって住宅にはかすり傷一つ入れてないもーん! ……あのさぁ、ブリュンヒルデはともかく瑞菜はまだ一年生だから知らないかもだけど、ホロゥ出現時に壊れた建物はほとんど政府のお金で修理されるんだよー?」
「それは知っています。けど、それが関係ありますか?」
「あるよ! あやめたちがホロゥを倒して稼いだお金も税金で一部が持っていかれるんだよ? 普通の人に比べて税率は低いけど、なんか嫌じゃん」
「それがどういう……」
「国会のおっさんたちは昔も今も寝てばかり。そんなのにあやめたちのお金を渡したくないっしょ。でも、そういうわけにもいかないからせめて戦闘で派手にぶっ壊して、修理費で財政を圧迫してやれば眠気覚ましにはなるんじゃない?」
「……そういうこと。だから、政府のお金で修理される対象から外れやすい民家は攻撃しないと」
「ブリュンヒルデ正解! あやめだって人の心くらいはあるんだからね」
最後の言葉は意地悪く聞こえた。
沙友理が鼻を鳴らしてそっぽを向いたことで、誰に対して言われたことなのかはすぐに分かる。
「でも、そのやり方だと結局は普通の人たちにしわ寄せが来るよ。お金を負担するのは全員が同じなんだから」
「そうだけど、まぁそこは仕方ないっしょ。高額な修理費が飛ばない分税金は我慢してもらわないと」
「なっ……」
「そうでしたね。イズモ機関はワルキューレ至上主義。ワルキューレさえよければ他の何が犠牲になっても構わないと考える者たちの集まりでした」
瑞菜が棘を含む言い方をぶつけた。
しかし、それに対してもあやめは笑って返す。
「まぁまぁ。どうせ、あやめたちが元気でいられるのなんて今だけだし大目に見てもらわないと。あやめ、格ゲーとかでもちまちましたコンボを決めるよりロマン砲が好きだかんね~。まとめてぶっ殺して稼いで有名にならないと、将来の働き口とか貯金とか不安じゃん?」
「将来を憂うなら貯金することを覚えろ。それより、もう話は済んだか? 場所を変えるぞ」
「ほいほーい。じゃっ、またね~」
会話を中断させ、沙友理があやめを連れて別の場所へと移動していった。
結局、言葉は何も届かなかったと思うと残念に思う。
ワルキューレそれぞれにやり方と自由意志があることは百合花も重々承知だが、道徳的に間違っているやり方にはつい口を挟んでしまう。
翼と静香が声を掛けようとする。
が、その時、周囲に再びホロゥ出現の渦が現れ、小型のホロゥが大量に這い出てきた。
「おかわりきたよ!」
「くっ! 殲滅します!」
四人が一斉に散り、戦闘を開始する。
だが、目の前のホロゥに集中しているせいか、後ろから冷たい目で百合花たちを見ているその人物に、気づくことはなかった。
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