第108話 第四世代ワルキューレ
能力を解放したあやめのパワーは文字通り、異次元だった。
三重に強化が乗っているのだ。弱いはずがない。
アサルトを凪いだだけで衝撃波が斬撃として飛び、中型のホロゥに触れてもいないのに体を粉砕する。
第四世代ということはリリカルパワーを実体化させて攻撃することも可能だ。もし、それをしたらと思うと身震いする。
単純なパワーだけなら、リリカルバースト状態の百合花すらも越えているように感じられた。
「あっははははははーッ! 死ね死ね死ねー!」
斬撃と弾丸の嵐と化して次々とホロゥたちが殲滅されていった。
「強い……!」
「あれが第四世代の力なんですね」
「そう。リリカルパワーでホロゥと戦える第一世代。リリカルパワーをシールドに使える第二世代。それをより攻撃的に使える第三世代ときて、リリカルパワーを特殊能力に変換できる第四世代。あやめのあれは特に攻撃に特化しているからなおのこと強く見えるでしょうね」
舐めプのつもりなのか、しばらくするとあやめがアサルトの形態を射撃形態で固定した。
両脇に抱えてホロゥに向けた連射を繰り広げる。
「ほらほらほらーッ! 死ねよ鉄くずどもがー!」
圧倒的すぎる完全なあやめの独壇場。
しかし、それだけならよかったのだが――、
「わきゃあっ!」
「ちょっ! あぶっ!」
「だからあいつと一緒に戦うのは死んでも嫌なのよーッ!」
「そういう理由ですか!?」
流れ弾は容赦なく百合花たちにも襲いかかった。
斬撃と比べていくらか速度は遅いために頑張れば回避できるが、それでも普通のアサルトと構造が違うのか、はたまたあやめの能力の影響かは不明だが、その弾速はあと少しで聖蘭のレールガンに匹敵しようかという速さにまで達している。
あやめの戦闘に慣れている沙友理は華麗な動きで難なく流れ弾を回避し、討ち漏らしたホロゥの掃討をこなしている。
ホロゥを呼び出す渦は次々と出現し、ホロゥも無数に現れているのだが、それを上回る速度で二人が駆逐していくために周囲のホロゥの総数は減っていた。
怯えたホロゥたちがわずかに撤退の動きを見せ始めた。
それを確認したあやめが慌ててアサルトの形態を双剣に戻す。
「あっ! おいこら待て! 雑魚でもちょっとしたお小遣いにはなるんだから逃げんな! おとなしくあやめに殺されろ!」
「おいあやめ! あまり突出しすぎるな! アクセルボルトの効果圏外に出るぞ!」
「範囲くらい覚えてまーす! じゃ、そういうことで~」
逃げるホロゥを追ってあやめが追撃を仕掛けた。
その後ろ姿を見送った沙友理がため息と共に頭を掻く。
「ったく。あいつは本当に……」
愚痴を漏らした瞬間、沙友理の近くに新たな渦が出現した。
先手必勝とばかりにアサルトを振るうと、渦の向こうから放たれた電撃の玉が刀身とぶつかり爆ぜる。
「あの攻撃は!」
「放電……! まさか!」
攻撃に見覚えがある百合花が静香を守るようにして居場所を変えた。
沙友理もバク転で退避すると、渦から銀光りする腕がなぎ払われて瓦礫を砕いた。
渦からは銀色の金属の獅子が姿を見せる。
「「やはりバルムンク!」」
百合花と沙友理が同時に駆け出そうとした。
が、二人の足元に弾丸が突き刺さって動きを止めてしまう。
「きゃっ!」
「くっ! どういうつもりだあやめ!」
沙友理が怒って怒鳴ると、嬉々とした表情をしたあやめが全速力で走って戻ってくるのが見える。
「邪魔しないで! そいつはあやめの獲物!」
「待って! 禁忌指定タイラント種相手に一人は無茶だよ!」
「先輩そこの白髪ちゃん黙らせておいて! あやめ、ボスキャラはぜーんぶ倒していくタイプのプレイスタイルだし! それに、バルムンクとか結構儲かるスクラップじゃん!」
接近してくるあやめの力が異質だと即座に感じ取ったのだろう。
鎌倉に現れた個体はギリギリまで使わなかった背中の翼を早々に展開し、カウンターを狙って振り抜かれる。
迫る翼を見たあやめは強く地面を踏み、体を捻って回転しながら攻撃を回避した。
その瞬間、金属質な異音が響く。
「は……?」
「うそ……そこまでの力なんですか……」
見えた現実に静香と瑞菜が驚いた。
バルムンクの翼は両方とも根元から破壊されている。交錯したあの一瞬であやめが破壊したのだ。
バルムンクの後方に回り込んだあやめは、歩道橋の支柱を足場にして素早く戻っていく。
両手のアサルトを全力で振り回し、バルムンクの体の下を滑り抜けた。
「ほい、しゅ~りょ~」
呑気な声が放たれると、バルムンクの体が砕かれた。
太い首もあっさりと刎ねられ、数歩よろめいたバルムンクが光に包まれて消滅を始める。
「バルムンクをこの短時間で……しかも単独で……」
「あり得ないです……強すぎます……」
「あはは! あやめは世界ランカーの女だからね~! でも、さすがに疲れた~」
肩の力を抜くと、アサルトの刀身から光が消えて元の形態へと戻っていく。
それを見た沙友理も一息つき、同時に二人の体から電撃が消えた。
あまりに規格外な二人の戦いぶりに、百合花はもはや唖然とするしかできなかった。
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