第101話 首都侵攻
夢たちが新型のホロゥを撃退したのと同時刻。
東京に設置されたヘイムダルの角笛が鳴り響き、ホロゥ出現の警告を発していた。
数時間前に横浜で複数の個体が確認されてから、そう時間を空けずに次の出現。
ホロゥの出現頻度が上がっている状況に、防衛省の面々が頭を抱えている。
「くっそ。なんだってこんなに次から次へと」
「西園寺隊長らワルキューレの主力部隊が出撃してこれまで犠牲者は最小限に留めていますが、こうも出撃が続くと体力的に限界が来るかと」
「学園都市卒業生の訓練及び実戦投入を加速しています。もう少しの猶予を頂けると状況は少し改善されるかと」
「総理や国会に、優秀なワルキューレは卒業を早められるよう法律の整備を提案するか?」
「彼女たちはワルキューレではありますが高校生です。青春の時間を奪ってしまうのは酷かと」
現場の負担をいかに軽くするかの話し合いが指揮所で行われていた。
様々な意見が出るが、途中で至極まっとうな言葉が飛び出す。
「戦力の回転率について話し合うのも大切ですが、今は東京に出現するホロゥへの対処が優先ではないでしょうか?」
「そうだったな。すまない」
「誰か、状況を報告してくれ」
「はい。出現予想は中央区に小型が数体。戦力的には西園寺隊長に出ていただかなくても大丈夫そうです」
「確か、先日の戦闘でアサルトを整備に出しているんだっけか? ヤバい個体が来なくて助かったよ……」
「新型のクリオネタイプですね。聞けば、人もホロゥも関係なく襲ってくるとか」
「そうらしい。出撃する部隊には、念のためにクリオネ型に気をつけるようにと伝えてくれ」
早速指示を受けた者が部屋を出て行こうとした。
そんな時だった。
ヘイムダルの角笛が再び鳴り響き、省内に緊急事態を告げる警報音が響き渡る。
「な、何事か!?」
「状況把握を急げ!」
指揮所にいた全員が事態の把握ができずに慌て出す。
と、上の階にいた職員が血相を変えて走り込んできた。後から待機していたワルキューレたちも息をせき切らしながら指揮所へと駆け込む。
「報告します! 新たなホロゥの出現情報です!」
「場所は? 戦力はどのくらいだ!」
「そ、それが……」
「早く言え!」
統幕長の男性が怒鳴ると、端末で情報を確認していた職員が震える声で予測データを伝えた。
「出現ポイントは東京23区全域! 琵琶湖血戦の十倍以上のホロゥが出現すると予測されています!」
「そんな……バカなことが……!?」
「統幕長! 私たちではとてもじゃないけど戦力が足りません!」
「西園寺隊長が出撃できない以上、三奈副隊長に指揮を任せるしかないですが、全域のカバーなんてとてもじゃないけど無理ですよ!」
「指示をください! どうすればいいんでしょうか!?」
職員やワルキューレたちもどう動けばいいのか分からずに混乱していた。
避難誘導は始まっているようだが、優先で戦闘を始める場所が分からないでいた。
このわずかな間にも悪夢は広がっている。
「ホロゥが姿を見せ始めました! 戦闘、始まります!」
「港区にタイタン出現! 被害拡大!」
「葛飾区にバルムンクの変異種! 三名死亡とのこと!」
禁忌指定タイラント種までもが出現を始めた。
被害の拡大をこれ以上させないようにしなくてはならない。迅速な判断が求められる。
追い詰められた統幕長は、断腸の思いで指示を出す。
「東京都内に緊急事態宣言を! 国内全ての学園都市にワルキューレの出撃要請! 人員は任せるがなるべく多くを出してもらうように依頼しろ! 御三家の方々にもすぐに連絡だ!」
「「「はい!」」」
「西園寺隊長のアサルトの修理が終わるまで、どうにか持ちこたえるしかない……! 三奈副隊長、頼むぞ……!」
「百合ヶ咲学園に連絡急げ! ブリュンヒルデ――西園寺百合花さんの力も必要だ!」
「バルムンクが出た以上、城ヶ崎の姉妹や東郷の娘さんにも来てもらうしかない!」
「聖蘭黒百合からも戦力回してもらえ! あそこの切り札を使わなくてはどうにもならん!」
すぐに関係各署へ連絡が行われる。
自衛隊は保有するワルキューレすべてを東京へと投入した。首都が落とされる事態だけは絶対に阻止しなくてはならない。
タイタンとバルムンクの変異種には現状様子見と押さえ込みで対処する。他の場所への移動さえ抑止できれば御の字だ。
関東一帯の駐屯地にも連絡が行き渡り、対ホロゥのために武器の使用を準備させる。
緊急ニュース速報で総理官邸からの会見が流された。
緊急事態が正式に発令され、都内からの避難が呼びかけられる。
それと同時に防衛大臣からは、避難が完了した区域に関しては武器の無制限使用が許可された。
「避難完了区域はすぐに報告しろ! 自走砲と多連装ミサイルでホロゥを散らし、群れを分断してから個別に撃破する!」
「はッ!」
「しかし、間もなく完全に陽が落ちます! 命中精度は大きく下がるかと!」
「都市機能が維持できる最低限までなら至近弾で町を破壊していい! とにかく陥落と都市機能の沈黙を避ければいいんだ!」
「電力会社に協力要請! とにかく町を明るく照らすんだ!」
未曾有の国難に一丸となって立ち向う。
長い戦いが始まろうとしていた。
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