第100話 潰えぬ悪夢
葵と香織が戦闘に加わるが、それで形勢逆転とならないのが辛いところだった。
元クリオネホロゥは相変わらず動きが素早い。まだまだ余力を残しているようだ。
対して夢の体力は相当に削られ、あまり長期の戦闘はできない。書記二人も弾切れを起こしかけており、近接戦に移行すればまだ戦えるが危険すぎた。
それに、葵たちが合流しての戦闘が始まって数時間が経ち、ホロゥの異質な性質に全員が気づき始めている。
「もう日が沈み始めた……」
「それなのに……こいつどれだけエネルギーを蓄えているのよ!」
「活動限界を起こす兆候が見えない……これは厄介だね」
このホロゥの異質性は百合ヶ咲司令部でも確認しており、初めて遭遇するタイプにどのような指示を出せばいいのか決めあぐねていた。
まだまだ長い時間の戦闘が可能。
そのような嫌な想像が脳裏にちらつくが、夢が深呼吸をして考えを振り払うと、アサルトを握り直す。
「猛攻でエネルギーの消耗を早める! 攻撃速度上げましょう!」
短期決戦で仕留めることが出来ずとも撤退にまで追い込もうというのが夢たちの作戦だ。
火球攻撃を誘発することができればそれだけエネルギーの消耗は大きくなるはずだった。その分危険も上がってしまうのだが。
香織と夢が深く切り込んでの攻撃に移る。
近距離で連続してアサルトによる攻撃を叩き込み、まずは触手を全て自分たちへと引きつけるのだ。
その間に遠距離から最後の弾丸を使って書記たちが射撃しつつ、中距離で葵が攻撃を仕掛けて火球攻撃を呼ぶ。
その目論見は上手くいき、ホロゥの頭上に火球が形成され始めた。
気温が上昇し、急性的な熱中症を引き起こす可能性が考えられたために夢と香織が素早く後退する。
ホロゥは生み出した火球を葵へと発射した。
くらえば爆発で体が砕けることは容易に想像ができる。
かといって森へぶつけてしまえば大規模な山火事の危険があるため、迷った末に葵が選択したのは地面での防御であった。
アサルトを叩きつけて巨大な土塊を抉ると、それを火球へと投げつける。
空中でぶつかった両者が激しく爆発して火炎が拡散された。周囲の自然に燃え移るが致命的なものではない。
だが、想像を超える火球の威力に夢が再度の作戦変更を余儀なくされる。
「火球を撃たせないで! くっ! どうすれば……」
『司令部より戦闘中のワルキューレへ! あと少しだけ耐えてください! 現在ホロゥ撃破の切り札を準備中です!』
「へ!? りょ、りょうかい!」
何をするつもりかは知らないが、司令部を信じて時間稼ぎに徹する。
このまま誰一人死者を出さずに戦闘を終わらせたいところだ。限界は近く、余裕はない。
少人数での散発的な攻撃に切り替え、充分な休息時間を設けながらの遊撃戦へ移行した。
後からやって来た葵と香織の活躍がめざましい。
生徒会に比べて体力を温存できていた二人が中心となってホロゥをその場に固定しつつの戦闘を継続できている。
「あと少しだ! 頑張って!」
「もうすぐ戦いも終わります! もうちょっと!」
それぞれが声を出して励まし合いながら士気を高く保つ。
思うように攻撃できないホロゥも苛立ったような素振りを見せ始めた。
攻撃が大振りになり、威力も上がるが精細さに欠け回避が容易くなる。
ここにきてこの変化は大きく、少しずつ無理のない戦いを組み立てることができるようになっていた。
そして、ついにその時が訪れる。
『準備完了です! 衝撃に備えて!』
「了解! 切り札が来る! 皆、伏せて!」
夢の指示で全員が滑るように伏せた。
と、通信機に別の声が入ってくる。
『くらえ化け物! 必殺シュート!』
『戦乙女の光をその身で味わえーッ!!!』
遠方から光り輝く弾丸が飛来し、ホロゥの脳天に直撃した。
局所的な大爆発と閃光が生じ、思わず夢たちが目を開けていられなくなる。
しばらくしてようやく光が収まると、森の一部が吹き飛んでいた。
「な、何あれ……」
「聖蘭のワルキューレたちによる攻撃……? あんな威力が撃てるなんて……」
常識外れの威力に渇いた笑みが漏れる。
しかし、さらにあり得ないものを夢は見てしまった。
爆発で抉れた地面。そこに、焦げて動きは鈍くなっているが体に欠損がないホロゥを見つけてしまったのだ。
「そんな!? 現場より司令部へ! ホロゥはなお健在! 繰り返す! ホロゥはなおも健在です!」
『バカな! あの一撃を受けて耐えているの!?』
通信機から聞こえる驚きの声は綾埜のものだ。
苦しげな奇声を発したホロゥが這い上がってくる。
そして、触手で勢いよく地面を殴りつけると踵を返し、撤退行動に移った。
いきなりのことで夢たちの動きが遅れた。追撃を仕掛けようか考えてまた少し動きが止まる。
その間にホロゥは遠くまで逃げていた。
弾丸が飛来した方角から青い閃光が飛んで来てホロゥに襲いかかる。
左足付近を貫通するが、逃走を阻むことはできなかった。
ホロゥが百合ヶ咲の索敵範囲から消えてしまう。
『夢様。高加速荷電粒子砲の弾着結果を』
「あ、そうですね。命中するも撃破には至らずです」
『そう、ですか。闇を討ち払う青きこの力を以てしても倒せないとは……』
残念そうな杏華の声が聞こえた。
『とりあえずは帰投してください。未知のホロゥ相手に犠牲者が出なかっただけでも素晴らしいことです』
「了解しました。……帰りましょう! ゆっくり体を休めないと」
戦ってくれていた葵たちに撤退の指示を出す。
ひとまずの勝利に安心しつつ、異質で強力なホロゥへの警戒感を露わにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます