第99話 再来
夢を筆頭に、生徒会のメンバー数人が裏山を哨戒していた。
先刻、隣接する横浜エリアで出現したホロゥの討ち漏らしが鎌倉方面に逃げたと情報が入り、市街への侵入を食い止めるために警戒任務に当たっているのだった。
書記をしている少女が視線を海へと向けてアサルトに体重を預ける。
「百合花ちゃんたちは海水浴だっけ? いいなぁ~」
「あ、その気持ち分かる。あたしらもうここ最近ずっと生徒会室に缶詰だもんね」
「よねー。アンケートを期日までに出してくれないと困るってのに~」
「無駄口を叩かない。警戒任務中だってことを忘れず……に……!?」
不意に殺気を感じ、のんびりしていた状態から即座に戦闘態勢へと移行する。
全員が一斉に散開して退避し、飛んで来た攻撃を回避した。
夢たちを狙っていた触手のような金属が森へと引っ込んでいく。その後、触手の代わりに現れたのはクリオネのような姿をした小型のホロゥだった。
「おうおうお出ましか! 体も動かさないとね!」
「不意打ちとは姑息な手を。通用しないから意味はないんだけどね!」
書記の二人がアサルトを構えて仕掛けるタイミングを図る。
が、それを夢が腕を伸ばして止めた。
「違う。横浜から逃げてきたのはこいつじゃない!」
「え?」
「情報では中型のイノシシタイプだったはず。形状もサイズも違う! 別の個体よ!」
夢が警戒を促すために叫ぶと同時に、クリオネが触手を伸ばして攻撃してくる。
上手くアサルトを合わせて威力を受け流すことに成功するが、攻撃を受けた夢ともう一人が驚きで目を見開いた。
「強い!」
「小型と思えないパワーですね……!」
触手が引いていく間に夢が素早く手元の端末で情報を確認する。
「該当ホロゥはなし、か。新型って……いや待った」
新しく追加されていた項目をタップする。
自衛隊から共有されたホロゥ情報だ。そこには、目の前にいるクリオネとまったく同じホロゥの情報が上がっていた。
「新型のタイラント種よ! 捕食攻撃や火球攻撃に警戒!」
「夢! こっちにイノシシホロゥの残骸らしき金属を確認したわ! 消滅が始まってるから、きっと……!」
「情報通りね。このホロゥは人もホロゥも見境なしに攻撃してくるわ! 強いわよ!」
奇声を発したクリオネが形態変化を起こした。
体が一回り大きくなって中型サイズへと変化し、頭が大きく裂け、触手の数が増えて牙のようなものが露出する。短い足まで生えてきて二足歩行形態へと変化した。剣に似た形状の尻尾のような器官まで誕生する。
クリオネの捕食時の姿とオタマジャクシの変態途中の姿を掛け合わせたような不気味な造形に、夢たちが一歩後ずさる。
「なんて悍ましい姿……」
「グロテスクすぎるってこれは! キモい!」
「まるで進化ですね……! ホロゥがそんな……」
ホロゥが体を横倒しにする。
次の瞬間、足に力を入れて踏ん張るようにしたのを見て危険を察した夢が警告を飛ばした。
「捕食攻撃が来ると思う! 避けて!」
すぐに全員が素早く木の上へと退避した。
ホロゥは体をなぎ払うように滑らせると、大口を開いたまま周囲にあるものをすべて口の中へと取り込んだ。
森の木々がバリバリと噛み砕かれていく様子に背筋が凍るような思いになる。
「食いしん坊ってレベルじゃないわね」
「環境破壊もいいところよ」
すぐに反撃へと移る。
こいつはこの場で倒しておかないと危険すぎる。
その場にいる誰もが直感で感じ取った。逃がしはしないと連続攻撃で畳みかける。
が、装甲が分厚く硬い。思うようにダメージを通せなかった。
さらに部分部分で鮫肌のようにざらついているようで、アサルトの刃に刃こぼれを生じさせる。
「近接戦闘は困難……それならば!」
遠距離から射撃で削るしかない。
近接でしか戦えないワルキューレを下げ、充分に距離を取りながら戦うことのできる者たちだけで抑え込む。
遠距離戦にする以上、防御はもろくなる。
そのために夢が率先して注意を引きつける役となった。
双剣型のアサルトを持つ彼女ならば、手数の多さで触手にも対抗できる。
フラッシュグレネードを投げつけて強烈な閃光を放ち、目を狙ってアサルトで殴りかかる。
攻撃の矛先を自分へと向けさせたのなら、後はひたすら防御に徹するだけだ。
狙い通り夢をターゲットにしたホロゥが触手による波状攻撃を仕掛けてくる。
クリオネ形態と比べて攻撃速度も増していた。その場に留まっての防御で精一杯となる。
正確に人体の急所を狙ってくる分防ぎやすいのだが、少しでも手元が狂うと体を貫かれて次の瞬間にはホロゥの口の中だ。気は抜けない。
周囲から射撃が飛びホロゥを撃つが、たいしたダメージが入っているようには感じない。
死と隣り合わせの状況で夢が少しずつ焦り始める。
(活動限界はまだ……!? このままじゃ……!)
体力にも限界がある。集中力もいつかは途切れる。
そして、その時は案外早かった。
横凪の一撃が夢の右足太ももを掠って切り傷を刻んだ。
痛みで体勢が崩れ、アサルトを握る手の力が弱くなった瞬間に強い一撃が叩き込まれ、アサルトを弾かれる。
「あ……」
「夢ちゃん!」
頭を潰すように放たれた触手が夢の眼前に迫る。
と、ここで――、
「たああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
大声と共にジェットエンジンの駆動音が聞こえ、人影が飛び込んできた。
その人物はホロゥを全力で殴りつけ、殴られたホロゥは何度も地面をバウンドしながら近くの木へと叩きつけられた。苦しそうなうめき声が漏れる。
ホロゥと夢の間に割って入るようにもう一人到着する。
「大丈夫ですか夢様!?」
「葵さん、香織さん。助かりました……」
夢を助けたのは葵と香織の二人だった。
体勢を直したホロゥが再び吼える。
あれだけの攻撃を受けてピンピンしているホロゥに恐怖を覚えながら、それぞれがアサルトを持ち直した。
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