第67話 激しい攻防
時間稼ぎのために百合花の攻勢が増す。
入れ替わりでの撤退の指揮を三年生が行い、迅速な陣形の再編成が進められる。
足を狙っても効果が薄いならと、あえて顔へ射撃を集中させて注意を惹く。できるだけ被害が少なくなる場所へ誘導しなくてはならない。
顔への攻撃が苛立ったのか、ドラグーンがギロリと百合花を睨む。
これはチャンスだとアサルトを盾の形態に変え、煽るように移動を開始した。
ドラグーンもそれに合わせて進路を変える。口元に火を集めながら百合花を追いかけた。
飛ばされる火球を回避しつつ、適宜射撃形態に変形させて牽制する。
ドラグーンが周囲に火球を浮かべた。その形状がモーニングスターのようで、まさかと思った百合花がすぐに防御姿勢を取る。
短い咆哮と共に火球が拡散される。
百合花の予想通り、破壊力に特化した火球は周囲の建物を悉く粉砕し、大火災を引き起こしながら爆散した。燃えた瓦礫が降り注ぐ危険な場を作り上げる。
攻撃を掻い潜り、生き残った百合花が形態を剣へと変えた。
「いいわ。遠距離でこれ以上被害を広げるなら望みどおり近接で決着をつけてあげる!」
全身に力を込め、そして一瞬戸惑う。
リリカルバーストを発動させるかどうか。短期間であれば問題ないが、このホロゥがどれだけの耐久力を持っているか分からない。
もし短期で仕留めきれなければ、余計な被害を生んでしまうことは自分がよく分かっている。
考え、その結果リリカルバーストは封印して戦うことにした。
アサルトの切っ先を斜に構え、大きく呼吸して一歩踏み出す。
敵意を向けられたドラグーンが吼え、その顔面に青い閃光が直撃するのはほぼ同時だった。
「あれは……! 超加速荷電粒子砲!?」
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「リリカルバーストッ! はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
百合花が驚いた刹那の後、無数の光の斬撃がドラグーンを襲い、さらに遅れて人影が懐に潜り込み斬撃を加える。
ドラグーンを後退させた人影――宮子が瓦礫の上に立ち、彩花と樹が百合花の隣に走ってくる。
「お待たせ百合花ちゃん! さっ! 反撃開始だよ!」
「彩花様!? 今は近接戦は控えるはずじゃ」
「私も樹ちゃんも遠距離攻撃可能だよ? たまたま偶然うっかり射撃じゃなくて近接で戦うことだってあるんじゃない?」
「彩花様!? あたしを無理に引っ張り出した理由ってそれですか!?」
「そんな無茶苦茶な……」
「あはは……いやでも、後方から彩葉に千代ちゃんに静香ちゃん、杏華ちゃんたちも援護してくれるから」
「宮子さんは……」
「彼女は新世代だし、私たちと同じ理屈で通るでしょ」
強大なホロゥ相手でも調子を崩さない彩花に一種の安心感のようなものが生まれる。
宮子のことも見ると、赤いラインを浮かび上がらせて少し苦しそうにしているが、百合花に気付いて力強く頷きを返してきた。まだ意識をはっきりと保てている。
と、ご丁寧に待ってくれていたドラグーンが再度火球を浮かび上がらせる。またしても破壊に特化したモーニングスター状のものばかりだ。
「彩葉! 撃ち抜いて!」
『任せて!』
通信機から彩葉の声が聞こえた直後、いくつもの弾丸が飛来して火球を一つ残らず撃ち抜いた。ドラグーンの周囲で大きな爆発が起き、巻き込まれたドラグーンが苦しそうな声を漏らす。
黒煙が晴れると、憤怒に燃える視線を向けてきたドラグーンが口に炎を集めていた。
「ブレス攻撃!」
「これは避けた方がいいね!」
樹の判断で全員がドラグーンを注視する。
発射の直前に顔の正面を避ければ安全に回避ができる。射程内と思われる四人全員が散らばっているため、誰が狙われているか分かれば被害もなしに流せる。
そう思っていたのだが、ドラグーンはまるで違う方角にブレス攻撃を放った。
あまりの威力に大気が引き裂かれ、無数の落雷が拡散する一撃。リング状の光輪がブレスの通り道を作り、映画でしか見たことないようなレーザーとなって遠くの山に直撃する。
「!? どこを狙って……」
「ッ! あの方角は!」
樹がドラグーンの狙いに気付いた時、観測していた学園から被害状況が伝えられる。
『目標の攻撃は山中の核シェルターに直撃! 外装融解! 被害極めて甚大です!』
「シェルターに!? 人的被害は!?」
『幸いにも当該シェルターに避難していた人はいません。周囲に関しても同様です。ですが、別地点には避難所があるためこれ以上のブレス攻撃は阻止してください!』
百合花たちではなく、避難していた人たちを狙った攻撃。
奇跡的に誰もいない場所に命中したが、次はどうなるか分からない。
ブレスの前兆が確認できたらとにかく注意を惹きつける。それでも無理なら全力で口を攻撃して少しでも射線を外れさせる。
やはり普通のホロゥとは違う行動パターンを持つ個体に、百合花の首筋を冷や汗が伝った。
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