第60話 集結
高天原女学院の一団を学園まで案内している。
道中、百合花は聖蘭と高天原の戦闘ぶりを思い返していた。両校とも、非常に高い戦闘センスを持ったワルキューレたちが合同訓練に参加している。
(杏華はもちろんのこと、綾埜さんもすごく強かった。それに、心愛さんの戦闘能力も高いし、それよりも優秀な戦績を出している瑞菜さんと咲さんは……)
さすがは、日本最高峰の学園に配属されるだけのことはあるメンバーだった。
といっても、聖蘭黒百合学園は日本で百合ヶ咲に次ぐ学園で、高天原女学院も全世界の私立学園に限定すればトップクラスの成績優秀者を輩出している強豪ではあるのだが。
「――さん。――西園寺さん」
「っ! すみませんなんですか?」
「あぁいえ、たいしたことではないのですが……西園寺さんとお呼びするべきか、ブリュンヒルデと呼ぶべきか……」
「うーん……あんまりそのブリュンヒルデって呼び方好きじゃないんですよね。名誉なことだと思うけど。だから、普通に百合花でいいですよ」
「では、百合花さんと呼ばせていただきます。私のことも瑞菜で」
「うん。瑞菜さん」
少しだが、瑞菜と打ち解けることができたように思う。
そこで、少し、いや、かなり早いかもしれないが踏み入ったことを聞いてみようと思い至った。
先ほどからずっと気になっている、望の様子。
腕と頭に包帯を巻き、足などにガーゼを付けている。負傷が目立つ姿に、何があったのか気になっていた。
ホロゥとの戦闘で傷ついたと考えるのが普通かもしれない。だが、果たしてどれほどの実力かは分からないが、ダイヤモンドという高い階級の望が生半可なホロゥにここまで負傷させられるなど考えられない。
何か他に原因はあるはずだと思うと、それがどうしても気になった。
「望様の傷、どうしたんですか?」
「あぁ、あれですか。実は、望様には少しお願い事をしてアメリカまで行ってもらっていたんです。そこでホロゥに」
「なるほど。でも、安静にしていても良かったのに」
「百合ヶ咲にどうしても会いたい方がいまして」
そんな会話をしているうちに、百合花たちが百合ヶ咲の本校舎に入る。
本校舎一階のカフェテリア前で静香と夢が待っている。二人とも、百合花たちに気付くと、静香はカフェテリアの中へ向かい、夢は資料を手に近付いてきた。
「急なホロゥ対応ありがとうございました。今、他の聖蘭の方々を呼びに静香さんが行ってくれていますのでもう少しお待ちを」
「ご丁寧にありがとうございます。えと……百合ヶ咲学園生徒会会長の夢様でよろしかったでしょうか?」
「ええ。私が朝比奈夢です。他校の生徒のことまで知っているとは、さすがは高天原の次世代エース、神城瑞菜さんですね」
夢の称賛に、咲が小さく舌打ちをした。
それを見ていた百合花が咲と瑞菜の関係性を察する。
と、そうしていると……。
「お待たせしましたー! 聖蘭の方々をお連れしましたー!」
静香が元気よく手を振り、後ろからタピオカドリンクを持った聖蘭の生徒たちが出てくる。
「うーわ! 私たちが命を削って世界を照らし出す光の柱になろうとしている中、呑気に濁る水に沈みし漆黒のダイヤを探し出そうとしているなんて酷くない?」
「か、神様が言ってた。宝石をその身に取り込み、自らの糧とすれば虚無を晴らす光を宿すって」
「確かに僕が提案したけど……ユークリットが一番乗ってたよね」
戦闘に出ていた綾埜と杏華が、のんびりおやつタイムをしていた仲間たちに文句を言い、それに対する反論が飛び交う。
ただ、両者が何を言っているのかさっぱり分からないので、夢が少し大きめの咳払いで争いに釘を刺す。
「そろそろよろしいですか?」
「あ、すみません」
申し訳なさそうに縮こまり、さっと素早く列になる。
聖蘭の用意が整ったところで、夢は両校に今回の合同演習の、主に生活面での資料を配付した。
「改めて、皆さんようこそ百合ヶ咲学園に。校舎案内は配布した資料に書いてあるほか、端末にも地図情報を送信しています。既に聖蘭の皆さんは町でもカフェテリアでも満喫していたため知っているとは思いますが、クレジットは各学園都市共通なので心配なく。寮に関してですが、それも資料に書いてあります。荷物は既に運び込んでいますよ」
横から静香が配られた資料を覗き込む。
「あっ、百合花さん聖蘭の方々は私たちと同じ寮ですよ!」
「そういえば、五階の部屋を掃除していたわね」
杏華と同じ建物。
数年ぶりに会う親友だ。いろいろと話すこともあるかもしれないと、少しだけ楽しみに思う。
ちらりと高天原の様子も見ると、早速部屋割りで揉めているようだった。これも予想通りなのか、夢は少し頭を抱えるだけに留まっている。
「部屋は決まりですがメンバーは仮決めです。そちらで調整してもらって構いません」
「ふんっ。瑞菜と同室なんて願い下げだわ」
「咲。もう少し態度を柔らかくできませんか?」
この瞬間、全員が訓練時に瑞菜と咲を同じペアにするのは避けるのが無難だと思った。
夢が資料に目を落とし、説明するべきことはもうないだろうと判断して脇に挟む。
「では、最後にこれだけ。どうか楽しい思い出を。ワルキューレ以前に、私たちは高校生なのですから弾ける青春を送ってくださいね」
夢の言葉を拍手で締め、三校による合同訓練生活が始まった。
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