第59話 新たな脅威
北海道積丹岳付近に建てられたとある施設。
周囲には灯りがなく、暗闇に施設の灯りだけが浮かび上がっているというそんな状況で、二人の男が煙草を吸っていた。
「おい聞いたか? ニューメキシコに続いてモスクワも襲われたらしい」
「マジかよ。
「地下まではやられてなかったから無事に搬出できたそうだ。だが、やっぱり……」
「だろうな。ここのラボも右脚を作ってるし、ひょっとしたら襲われるかもな」
「ははは、笑えない冗談だぜ」
などと、男は茶化していたが、それが現実のものとなってしまった。
施設にヘイムダルの角笛が不気味な音色を響き渡らせる。女声の機械音声が命令を下す。
『緊急事態発生。ホロゥ出現の予兆あり。エインへリアルはただちに戦闘準備を。非戦闘員の職員は速やかに決められたルートでの避難を開始してください。繰り返します……』
「ほらぁ! お前が余計なこと言うから!」
「俺のせいじゃないだろどう考えても!?」
慌てて煙草を投げ捨て、避難ルート目指して一目散に走り出す。
男たちと入れ替わるようにエインへリアルの少女たちが外へ飛び出し、訓練通りの戦闘陣形を展開する。
ホロゥの姿が見えないことが彼女たちの不安を駆り立てる。いつ暗闇から自分たちの命を奪う攻撃が飛んできてもおかしくはない。
男の一人が照明ボタンを操作し、外側に向けて多数のライトを向けさせた。目視できる範囲が大幅に広がる。
彼女たちが殺されると、次に死ぬのは自分たちだ。戦うために充分な環境を整えるのは当然のことだった。
やがて、ライトがホロゥ出現時に形成される渦を照らし出した。それを見て誰もが驚きに目を見開く。
「何だあの大きさは……!」
「直径百メートルはあるぞ……!?」
男たちが言った瞬間、渦から炎の玉が放たれた。
玉は施設を直撃。無数の小さな火柱となって降り注ぎ、広範囲に延焼していく。
『Dエリアにて火災発生。隔壁、閉鎖します』
「あぁ! ちょっと待ってくれ!」
二人の前で、扉は無慈悲にも閉められた。
逃げ遅れ、戦闘エリアに取り残された男たちは顔を真っ青にして震え出す。特に、ホロゥが出るかもと冗談を言った男は尋常じゃないほど震えていた。
というのも、男は普段からエインへリアルに対しての当たりが特に強かった。そのため、ホロゥの攻撃だけでなくエインへリアルから事故を装った攻撃をされても不思議ではなかったのだ。
「と、とりあえず核シェルターに避難しよう! あれはどのエリアにも三つは置かれてる!」
「だ、だな! 終わるまで閉じこもろう!」
近くにあった核シェルターに逃げ込み、扉を固く閉じて監視カメラの映像で戦況を確認する。
渦からホロゥが出てくる瞬間だった。その姿は、ここ十年近く出現報告がなかった個体に類似していた。
「ドラグーンか……?」
「久々に見たな。資料映像でも感じたが、恐ろしい……」
龍の姿をしたドラグーンは、エインへリアルたちを見下ろすと大きく吼えた。
咆哮による衝撃波で大地に亀裂が生じる。圧で飛ばされ、何人かが壁に打ち付けられていた。
核シェルターにも衝撃は伝わってくる。
「違う! こいつ普通のドラグーンじゃない!」
「特型か! そうでなくても禁忌指定種並の力がありやがるぞ!」
機械のエネルギー測定値が尋常ではない桁を弾きだしていた。
咆哮だけでタイタンの最大火力を上回る数値。化け物、という言葉がぴったりのホロゥだ。
「ッ! 行った!」
圧されることなくエインへリアルの何人かが攻撃を仕掛けた。
超大型ホロゥを相手にするときの定石通り、まずは足から破壊して動きを封じ、致命打を与えることができる高さまで削る。
そうしようと思っていたのだろうが、このホロゥは強すぎた。
アサルトを振った瞬間、足を軽く上げて攻撃を空振りさせる。そして、体勢が前方に崩れた瞬間に足を下ろして数人を踏み潰してしまった。
ホロゥが前に進むと、跡地には血だまりに浮かぶ肉塊だけが残っている。もう誰が誰だか判別は不可能だった。
その後も殺戮は続く。
走ることで衝撃を起こし、転倒した大勢を踏み潰す。尾による凪ぎ払いで数人を天高く吹き飛ばす。炎のブレスを吐いてさらに数人を骨も残さず焼き尽くしてしまう。何人かは直接捕まえ、大口を開けて食べてしまってもいた。
五分も経たないうちにエインへリアルが全滅してしまった。
その様子を見ていた二人が言葉を失う。明らかに他のホロゥとは隔絶した戦闘能力を有している。
「禍神なのか?」
「知性が感じられないから違うだろう。だが、これは一刻も早く報告しなければ!」
禍神を除けば間違いなく人類史上最悪の強敵だ。
急いでデータをまとめ、国連への報告書を作り上げていく。
「おい! ブレス攻撃来るぞ! しかもここを狙ってないか!?」
「大丈夫だ! 最新の水爆でも壊せないこのシェルターには無意味な攻撃だぜ!」
ホロゥがブレスを吐いた。
炎は二人が隠れているシェルターに直撃した。内部の温度が上昇していく。
「あっちぃ……!」
「うっし! 送信!」
報告書を国連へと送り、男が座り込んだ。
労おうと近づき、そして異変に気付く。
「おい……壁の色が変わってないか?」
「は? んなわけ……」
それっきり。
最期に迫り来る炎を目撃して、男たちの意識は途切れてしまう。
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