第43話 コネクト

 仕掛けてきた夜叉を百合花と殺姫が連携して迎え撃つ。

 夜叉の攻撃が届く前に二人が顔を見合わせた。殺姫が呼吸と心拍を百合花に合わせるように調整する。

 素早く、それでいて全力で互いのアサルトをぶつけ合う。

 眩い純白の光が辺り一帯を照らし、輝きをもたらした。


「「コネクト!!」」


 二人のアサルトから感じられるリリカルパワーが膨れ上がった。

 一本に二人分のエネルギーが込められているような感覚。それに、樹たちが目を見開く。

 一方の夜叉は、鬱陶しそうに爪を噛むような仕草を見せた。


『またその技か。面倒であるな』

「今のは……!?」

「コネクト……確か、西園寺の本家と分家だけがやり方を知っている特殊な技だったかと。何か条件を満たした時にアサルトをぶつけることによって生じるリリカルパワーの深層共鳴現象、だとか」

「噂程度だと思っていたけど、本当に存在した技なのね……!」

「でも、じゃあどうしてその技を殺姫が!?」

「殺姫さんはきっと……!」


 夜叉と百合花たちの戦闘が始まった。

 その戦いは、完全に別次元のものだった。通常のホロゥ戦とは何もかもが違う。

 まず、夜叉や百合花たちの動きからして異次元だ。戦闘の早さに樹たちが追いつかない。

 攻撃の筋を視認することすらできなかった。ただ、アサルトが発する光の軌跡が見えているだけ。

 そして、夜叉の戦闘スタイルがおかしい。

 両手に構えた刀だけでなく、背中から生えた無数の鋭利な金属の触手を伸縮自在に操って攻め立てている。

 一秒間に数十の致命傷になり得る威力の攻撃が飛び交う戦場に立つには、樹たちではまだまだ力不足。つまり、今できることは――


「百合花たちの勝利を信じて、祈るだけ……」

「悔しいよ。何もできない私たちが」

「仕方ないわよ。あの間合いに入れば命がいくつあっても足りない。逆に二人の邪魔になってしまうだけ」


 そう、樹と彩葉に諭すも彩花は爪を掌に食い込ませた。

 悔しいのは三人だけではない。肝心のスタートラインすら遥か遠くの静香たちはさらに悔しい思いをしていることだろう。

 せめて少しでも自由度が高い戦闘ができるようにと全員で引き下がる。

 その瞬間、切り飛ばされた夜叉の触手が飛んできて地面に突き刺さった。

 引き下がるのが遅れていたら、彩葉が真っ二つになっていた事は容易に想像できる。巻き込まれないためにも必須の判断であることの証明になった。

 夜叉が空中で後方宙返りを披露する。

 即座に触手が再生される。が、再び攻撃に転じる前に百合花が空中にリリカルパワーの足場を形成した。

 足場を蹴って二人がもう一次元上の機動を実現している。

 陸と宙を行き来する激しい斬撃の応酬。

 夜叉は触手を数本足場の破壊に転用した。

 百合花と殺姫の攻撃を捌きつつ、展開された足場を貫いて打ち砕く。足場はまた作ればいいと割りきった百合花は、その間に触手を中腹から切り裂いて数を減らそうとしていた。

 最後の足場と、攻撃に使われた最後の触手が砕けるのは同時だった。

 正面からの百合花の攻撃を刀で受け止め、背後からの殺姫による首を狙った一撃は残った数本を消費して防ぐ。

 百合花と殺姫が即座にアサルトを盾に変化させた。

 刹那の時間遅れて、夜叉は後方を蹴りあげ、刀を上に投げて正面へと拳を繰り出す。

 二人から距離を取った夜叉は再び触手を再生させた。


『やるではないか。琵琶湖で殺しあった時よりも格段に強くなっておる。褒めてつかわそう』

「よく言うわ……! 手加減しておいて!」

『手加減ではない。あの時は、そなたたちが未熟だったゆえにあの娘たちを避難させなかったのが悪い。今回はあの時と違い、喰ってバーストを起こせる余裕も娘もないからのぉ』


 夜叉が触手を伸ばす。

 刃物のような形状から一転、無数の牙が付いた口のような形状に変わって殺姫に迫った。

 攻撃を弾く。盾に付けられた無数の刃が触手をズタズタに裂いた。

 引き戻し、微笑を浮かべながら触手を再生させる。


「厄介な再生能力ね……!」

「リジェネレーター……! まさかホロゥがその力を持っているなんてね」

『便利だが、少々問題もあるぞ? これは妾のエネルギーを使って傷を修復しているのじゃ。使えば使うほど活動限界が早まってしまうのよ』


 でも、と夜叉は触手の牙を打ち鳴らしながら続ける。


『そなたたちを喰らい、奪ったエネルギーをバーストに使わず取り込んでしまえば活動限界は伸びる。試すかえ?』

「わけないでしょ。このまま活動限界で逃げられる前に殺す!!」


 息を整えて再び地を蹴って夜叉に迫っていく。

 百合花が右、殺姫が左から攻撃を仕掛け、再び三者の姿が霞と消えた。

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