第42話 禍神
狂ったように鳴り響くヘイムダルの角笛を、暗闇から伸びた金属の触手が破壊した。
砕かれた破片が降り注ぐ中、百合花たちが現場に駆けつけてくる。
『妾の下僕を仕留めたのはお前たちかえ? ……おや?』
「ッ! お前は……!」
百合花と殺姫が鋭い視線を向けた。
黒光りする金属の肉体を持つ女。和装が特徴的で、着物のような装甲を纏っている。
周囲に刀を浮かばせ、先端を百合花たちへと向ける。その体から溢れ出す凄まじい殺意と威圧感に、実戦慣れしていない静香たちが思わず後ずさった。
女は、静香たちになど興味はないと言わんばかりに視線を百合花と殺姫へと固定している。
『まさかこんな所で再会するとは。なるほど。お前たちならあやつを仕留めることが出来たというのにも納得よ』
「そう。で、そんな相手の前にのこのこと出てきて死にたいのかしら?」
「
『できるのかえ? 確かに多少は強くなったと思うが、それでも妾に届くかは賭けであるぞ』
会話から、女のホロゥと百合花、殺姫は顔見知りのようだと樹たちは考えていた。そして、百合花が言った琵琶湖というワードから、その正体まで想像しまさかと思う。
樹と彩花が、他のメンバーよりもわずかに前へと歩み出た。
『ほう。お前たちは初めて見る顔よのぉ。だが、中々に強いと見た』
「お前……まさか……!?」
『妾のことを知らぬと? では、教えてやろうぞ』
ホロゥが扇子を取り出し、勢いよく広げた。
途端に強風が吹き向け、同時に殺意がさらに膨れ上がる。威圧感も増し、その影響で静香と千代、葵と香織が腰を抜かして座り込んでしまった。
ホロゥの威圧は学園にも届き、何人もの生徒たちが呼吸を速くする。
『妾は禍神。名を夜叉という。お前たち人の前に出るのはこれが三回目よ』
夜叉。
人類が最初に遭遇した禍神。ギリシャでシグルドリーヴァを殺し、琵琶湖で大暴れして百合花たちに大怪我を負わせた最凶のホロゥ。
百合花にとって因縁の相手。アサルトの先端を夜叉へと突きつける。
「どうして今ここに……」
『興味本位よ。妾の下僕であるあやつを仕留めた乙女の顔を拝みたいというな』
「下僕……? バルムンクのこと……?」
『そんな呼び名か。いかにも』
フッと夜叉が笑うような仕草を見せた。
『しかし、来て正解であるな。あの時殺し損ねた娘と再会したのだから。それも二人揃ってときた』
「……二人、ね」
彩花が視線を殺姫へと向けた。
殺姫も、百合花と並んで夜叉から視線を逸らさない。
「私も嬉しいですよ。今度こそお前を殺すことができるのだから」
『嫌われたものだ。妾がそこまで恨まれることしたかえ? ……お前たちの目の前で、逃げ遅れた乙女どもを切り刻んでやったことか?』
ギリッと殺姫が歯ぎしりをし、百合花がアサルトを持つ手に力を込めた。
夜叉が首を後ろに倒すと、鼻先を百合花のアサルトが凪ぐ。
『危ない危ない』
すっと飛び下がった夜叉が浮かべた刀を手にした。
もう一本用意して二刀流となり、背中も裂いて多くの触手を伸ばしてくる。
『まぁ、これ以上言葉を交わすのも無駄であろう。交わすのは刃で充分ではないか?』
「そうね。殺し合いましょうか」
殺姫のアサルトが不気味に輝いた。
樹たちもアサルトを起動させるが、百合花が腕の動きだけで制止する。
「皆は下がってて。こいつは私と殺姫ちゃんで仕留める」
「なんで!? 大勢で戦った方が……」
「無駄死には増やしたくない。言葉はきついけど、樹たちじゃ力不足。足手まといにしかならない」
「ッ! そんなこと言わなくても……!」
「……分かった。私たちは下がるよ」
「彩花様!?」
「……ありがとうございます」
憤る樹を連れて彩花が引き下がる。ただ、彩花も不満は抱えており、彩葉に援護射撃ができるようにと小声で準備させた。
並んだ百合花と殺姫に、夜叉が目を細める。
『準備は良いか? では、行くぞ……!』
触手をぶつけ、金属音を連続して鳴らす。一種の威嚇行為だ。
百合花と殺姫が強くアサルトを握りしめた。
『始めようか。もう一度』
「行くよ、殺姫ちゃん」
「ええ」
顔を見合わせ、強く頷いた瞬間に夜叉が突進を仕掛けた。
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