学園都市の戦乙女

第44話 神へ振るう刃

　正面から百合花がつばぜり合いを仕掛ける。

　刀を二本封じることは出来るが、背中からの触手を封じることは出来ない。

　が、仕掛けたその一瞬で殺姫が素早く夜叉の背後へと回り込んだ。お決まりの戦法で触手ごと首の切断を狙う。

『洗練された攻撃。見事であるな』

　複数の触手による防御で威力を弱め、首への一撃だけは防ぐ。

　が、触手を落とされたことで百合花に回す火力が不足した。力強く踏み込んだ百合花はその勢いで夜叉の刀を両方弾き飛ばす。

　舌打ちをして飛び下がった夜叉。新たに二本だけすぐに触手を再生させて二人へと突き出す。

　当然、回避するがそれこそが夜叉の狙い。地面に突き刺さったことで大量の土煙が舞い上がった。目くらましとなり、夜叉を一瞬見失ってしまう。

　その隙に夜叉がすべての触手を再生させた。刀を二本とも拾い、土煙を飛び出して百合花との距離を詰める。

　不意打ちのような形で攻撃された百合花はギリギリ防御を間に合わせるも、力が満足に入らない姿勢で再びのつばぜり合いとなった。

『今度は妾の番よ』

「くっ」

　力を弱めれば、一歩でも動けば押し切られる。そのために動けないでいるところを、触手による攻撃を仕掛けられた。

　百合花の頭を刺し貫こうと触手が伸びてくる。

　顔をやられる事による致命傷は首を倒すことで防ぐが、腕や足を斬られるのまでは防げなかった。

　すぐに殺姫が百合花の援護に入る。

　両者の下に滑り込んで上方向への切り上げ。刀を弾き上げて胴体に蹴りを叩き込む。

　足首の痛みに顔をしかめながら、夜叉が怯んだ刹那にも満たない時間で体勢を立て直して横へとアサルトを凪ぐ。

　百合花もすぐに夜叉の背中側へと回り込んだ。殺姫と逆方向からの攻撃で胴体へと斬撃を叩き込む。

　装甲に亀裂を刻んだ。

　笑みを浮かべた夜叉を殺姫が攻撃して距離を空けさせた。即座に百合花の状態を確認する。

「大丈夫！？」

「やられた……高速戦闘を維持できないかも……」

　足の肉が抉られている。腕よりも足に重点を置いた攻撃は、明らかに機動力を削ぐ狙いだ。

　以前、特型ホロゥも使ってきた戦い方。高速の戦闘では基本だった。

「無理しないでください。撤退を」

「いや、まだ動ける！」

　最高速度を出せないだけで、痛みを無視すればまだ戦える。

　震えがある足を押さえつけ、アサルトにリリカルパワーを流す。

「殺姫ちゃん。もう一度コネクトを」

「分かったわ」

　再度アサルトをぶつけてコネクトを使う。切れかけていた効力が延長された。

　夜叉が煙の中から飛び上がった。刀を浮かべ、両手両足も触手状に変形させている。

「あれは！！」

「樹！　彩花様！　皆を守って！　全力で回避！」

　百合花の警告に慌てて身構える樹たち。

　直後、夜叉が触手を地面に叩きつけた。放射状に触手が伸び、近くにあるものを破壊していく。

　触手の先端には大きな口が付いていた。

「そういうこと……！」

「これが夜叉の捕食か……！」

　樹と彩花が全力でアサルトを振り回す。

　伸びてきた触手を破壊し、後ろにいる静香たちが喰われることを阻止していた。

　誰も捕食できなかったが、それで諦めるわけがない。夜叉は数本の触手を自ら破壊すると、百合ヶ咲の校舎へと蹴り飛ばした。

「何を！？」

「彩花様！　急いで追いかけて！」

「ッ！　そんなこともできるとか冗談キツいわよ！！」

　悪態をつきながら、彩花が飛ばされた触手を全力で追いかけていった。百合花からの叫びで、あの触手を飛ばした意味を瞬時に理解したのだ。

　夜叉も舌打ちで返す。

『これだから、一度遭遇した相手は嫌いなのじゃ。やはり確実に殺すに限る』

「そう簡単に殺されてたまるものですか！　今日死ぬのはお前だ夜叉！」

　触手の被害は彩花が抑えてくれると信じ、できるだけ削っておく。

　捕食攻撃を使ってきたということは、夜叉の活動限界が近い、もしくは相当に苦しい戦いをさせているということだろう。あと一息だと自分を鼓舞して攻撃を続ける。

　足から流れる血で時々滑りそうになる。その時は殺姫が的確にフォローして夜叉の注意を惹きつけ、すぐに立て直した百合花が攻撃を続行する。

　激しい応酬が繰り広げられた。その結果、ついに一撃が夜叉に届く。

　殺姫の振るった一撃が夜叉の刀を一本破壊した。

「やった！」

『くっ……！　おのれ……！』

「いける！　このまま一気に！」

『そうはいかぬ。今度は妾の反撃よ』

　夜叉が空を見上げた。釣られて二人も同じ方を見ると、大きな二つの球体が夜叉へと飛んできていた。

　球体を追って彩花も跳んでくる。

「彩葉！　撃ち落とせ！！」

「う、うん！」

　瞬間的に放たれる二発の砲撃。

　ただし、片方の球体が回避したために一発しか当たらなかった。動きを止めた片方の球体を彩花が破壊する。

　砕けると同時に夥しい血液と人体の一部がばらまかれた。百合花が怒りに燃える瞳で夜叉を睨む。

　戻ってきた球体を夜叉が取り込んだ。

『この程度か……まぁよい。半分はエネルギー回復に。もう半分で一気にケリをつけてくれよう』

　夜叉から凄まじい力が溢れ出した。

　全身を黒紫の波動が包む。大気が震え、暴圧的な衝撃波が百合花たちの精神を揺さぶった。

「厳しいですね……」

「ここに来てこれは……！」

　残った刀を振る。

　夜叉の動作で瞬間的に大気が裂けた。刀が赤く発光している。

『バースト発動。さぁ……どうやっていたぶってやろうかね……』

　数段上の力を感じさせる夜叉が、鋭い視線を百合花へと向ける。