第23話 外出

 日曜日、外出申請書を生徒会に提出した百合花は校門で連れを待っていた。

 髪の毛先をクルクルと弄っていると、本校舎から小柄な少女が私服姿で駆けてきた。


「お待たせしました~!」

「あっ、来たね。服、よく似合ってるよ」

「ありがとうございます~! 百合花さんもすっごくお似合いです!」


 服を褒められ、嬉しそうに笑う静香。

 今の静香の服装は、清涼感のある薄水色の上服と同系色をしたチェック柄の短めのスカート。足は大きく出ており、可愛い熊柄の鞄も持っている。

 そして百合花の服装は、オープンショルダータイプの白い服で、下も同じ色のスカートを履いていた。

 手首には愛らしいシュシュを着け、大人っぽさと年相応の可愛らしさを兼ね備えたファッションには男女問わず大勢の人が振り向くことだろう。

 静香と並んで学園を出て行く。

 特に目的地を決めているわけではないが、どこか甘いものを出しているお店で過ごそうかと考えていた。

 お店を検索する静香は目を輝かせている。


「ドーナツにケーキ! パンケーキなんかもありですよね!」

「いろいろあるのね。どれにする?」

「うーん……ドーナツかな。ケーキだと大変なことになりそうで」

「どういうこと?」


 百合花が聞くと、静香は懐からフノスを取り出した。

 眩い輝きを放ち、思わず目を細めてしまうほどの光量がある。


「私、最近戦っていないし実技授業もあまり取ってないのに貯めるばかりだからこんなことに。貯めすぎはよくないって聞くから不安で」

「あーそれね。貯めすぎるとよくないのは光が強くて目に悪いってことだよ。それに、明日から実技を増やせば問題ないから好きなところに行こう?」

「じゃあケーキ屋さんに行きましょう!」


 ウッキウキで最寄りのケーキ屋へと歩く静香の後ろを百合花が付いていく。

 今日が日曜日だからなのか、ちらほらと外出申請を出した学園の生徒たちの姿も見ることがあった。制服もいるが、ほとんどは私服だった。

 普段とは違う姿に、ワルキューレオタクの静香は手を合わせて拝んでいる。

 その勢いで盗撮までしようとしたので、そこは慌てて百合花が止めた。

 カメラ類を預かり、生徒たちの間で有名なお菓子屋さんにやって来る。ここは一度行っておくといいと上級生たちから教わった場所だ。

 早速店内へ。最初にガラスケースに入った色とりどりのケーキが二人を出迎える。


「うわぁ! ショートケーキにモンブラン! チョコレートケーキもチーズケーキもタルトまである!!」

「すごいね。タルト、当然だけど私が作るものより美味しそう」

「え、百合花さんタルト作れるの!? また今度食べたい!」

「いいよ。……私はタルトにしようかな。味を知って自分のに活かしたい」


 百合花がタルトを選び、静香は迷ってからショートケーキを選んだ。

 一緒にフルーツティーも注文して空いている席に座る。

 ふんわりと漂う小麦や卵黄の香りに二人とも満足そうな感じだ。


「そうだっ。この機会に百合花さんにいろいろと聞きたいことがあったんだ!」

「私に? 答えられることなら答えるよ」

「ではでは! まずスリーサイズから……」

「あ、そういうのはなしね」


 デコピンでお仕置きされた静香が笑いながら、幼少期のことや姉の神子について聞いていく。

 小さいときから樹と遊んだこと、神子が知ったら赤面しそうなこと、これまでどのような訓練を積んできたのか。

 特に口止めされていないことを話していく。静香は世間に向けて発表するようなことはせず、あくまで自分の趣味として秘密を墓場まで持っていくので割と気楽に話すことができた。

 しばらく喋っていると、お店の人がケーキとお茶を運んでくる。


「おっ、きたきた。早速いただこうか」

「ですね! いっただきまーす!」


 フォークでケーキの先端を切って口に運ぶ。

 途端に静香が腕をバタバタ振って目を細めた。幸せそうな笑顔に百合花も頬が緩む。


「これはすごい! 私、こんなの初めてです!」

「そうなんだ。じゃあ、私も」


 百合花もタルトを食べてみる。

 サクッとした生地に甘すぎない少量のクリーム。そして、本来の甘みが強い果物が口の中で最高のマッチングとなる。


「んっ! 美味しい! どうやったらここまで……」


 フルーツティーも飲んでみる。

 わずかな果物の風味が茶葉を引き立て、砂糖は邪道とばかりに薫り高い。

 ……のだが、


「タルトに合わせるなら普通の紅茶だったかな」

「ありゃ。じゃあ、ケーキをどうぞ!」


 一口分を百合花に差し出す静香。

 その厚意に甘えて身を乗り出してケーキを食べる。層の中にもぎっしりとイチゴが詰まっていた。


「ありがとう。じゃあ、私も」

「うわぁ! いただきます!」


 互いにシェアするという、皆やっていることもできて楽しめた。

 雑談を交えながら豊かな一時を過ごす。もちろん、百合花は樹たちに何かお土産を買って帰ろうかということも忘れてはいなかった。

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