第14話 地下施設

 自室待機の翌日、百合花は静香と樹、千代の四人で学園を巡っていた。授業が始まるまでに各施設までの道のりを覚えることが目的だ。

 ここ、百合ヶ咲学園の教育カリキュラムは中々にハードなものだ。高校生の授業内容はもちろんのこと、アサルト構造学や基本戦術理解、新式生物学や実戦実技などのホロゥに対抗するワルキューレとしての授業が非常に多い。

 だが、卒業までに単位認定試験を受けて必要な単位をすべて取得してさえいればいいので、割と自由に時間を使うことができる。試験も講義も毎日行われており、受講するもしないも自由だ。

 百合ヶ咲学園は毎日が授業日であり、毎日が休日なのである。

 受けるつもりの講義が行われる講義室や図書室、資料閲覧室などの場所を確認した百合花たち。後は試験室を確認し、学科で使うであろう場所はすべて見た。支給された生徒手帳にも近道などをメモする。

 次に目指すのは実技や訓練で使う施設だ。

 本校舎にある巨大なエレベーターに乗り、地下へと降りていく。百合ヶ咲学園の地下は広大で、様々な施設がある。

 地下に到着したエレベーターの扉が開いた。その先に広がっていた光景に静香が驚愕する。


「ふわぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」

「静香ちゃん。すごい声が出てるよ」

「だってだって! これはすごいですよ!!」


 上下何層にも広がる広大な地下空間。地下闘技場という訓練施設があるちょうど中間くらいの場所まで降りたのだが、区画中央の吹き抜けからは天井も底も見ることができない。

 地下は、将来アサルトメーカーに就職するために毎日勉強に励む生徒たちの部屋がある。各員専用の工房まであるので、これだけの広大な空間が必要になるのだ。もっとも、広すぎる気がしないでもないが。


「さすが日本最大の学園都市ね。規模が桁違い……」

「世界でもトップクラスの場所だから。でも、これは……!」


 百合花も樹も驚く。噂に聞くよりもはるかにすごい。

 初めて都会に来た若者のようなリアクションをしながら、四人は闘技場に足を踏み入れた。

 少なくとも千人は座れるくらいの座席があり、土作りの地面は様々なフィールドを作っている。射撃用の的も無数に浮いており、さらにはホロゥの動きを記憶した専用のロボットまで使うことができる。

 地上の訓練施設とは設備が何もかも違う。ここでなら全力で技を磨けそうだった。


「ねえ見て百合花。あれ、立体構造ホログラムよね」

「うわほんと! あんなの自衛隊の基地でしか見たことないよ」

「そんなものまであるのね……」

「百合ヶ咲学園は、御三家からもかなり投資がありますから。このくらいの設備を整えるのは容易いのでしょう」

「うわーすごい! 憧れの方々の練習を間近で見ることができるなんて!」


 静香が興奮している。

 何だろうかと静香の視線を追うと、既に多くのワルキューレが訓練をしていた。

 二年生を示す赤色のリボンや、三年生を示す緑色のリボンに混じり、水色のリボンの少女たちもアサルトを振り回している。まだ本格的な学校生活は始まっていないというのに、素早いことだ。

 ここで訓練している一年生は、かなり有名なワルキューレばかりだった。既に実力が認められている者たちがより自分を高めようと汗を流す。

 そんな練習風景を眺めていると、闘技場の入り口から大声が放たれる。

 何事かと振り返ると、そこには彩花と彩葉がいた。そして、もう一人。

 他の人よりも濃い赤色のリボンを着けた見た目小学生の金髪少女が鼻血を垂らしてにじり寄ってくる。彼女は、樹と百合花のアサルトに触れると鼻息を荒くして鼻血の量を増した。


「み、見たことのないアサルト……! すごい……! 調べたい!!」

「あ、あのー?」

「あー、気にしないで百合花ちゃん。彼女はいっつもこんなんだから」


 呆れたように呟く彩花。

 少女は、樹のアサルトに頬ずりをしていたが、やがて我に返ったように少し離れた。刃に頬ずりして切れた頬から少量の出血があるも頭を掻いてにこやかに笑う。


「あら失礼。私、アイリーン=レンシー。彩花と彩葉の幼馴染みなの。よろしくっ」

「本当にごめんね。アイリーンに百合花ちゃんたちのことを話したら部屋を飛び出しちゃって……」


 彩葉が申し訳なさそうに頭を下げた。

 制服が少し違うことから、アイリーンは兵装科というアサルトメーカーへの就職を目指す生徒なのだと思った。しかし、そうではないと千代が頷いている。


「もしかして、アサルトメーカーファフニールのお嬢様?」

「ピンポーン! パパのメーカーを知ってるのね!」

「確か、城ヶ崎家と関係の深いアサルトメーカーで最大大手でしたよね」

「そ。ちなみに私のアサルトもファフニール社製だよ」


 彩花が自慢げにアサルトを見せつける。

 アイリーンたちと千代の話が盛り上がる中、ゆっくりと百合花の後方に人影が迫っていた。

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