第9話 訓練場
食堂から百合花と樹が出てくる。あの後、二人は二時間近く話し込んでいた。
食堂から出て校舎に続く通路を二人が歩く。その時、対面の壁に一人の少女が体重を預けているのが見える。少女は、百合花を見つけると微笑んで歩み寄ってきた。
「ごきげんよう百合花ちゃん。眠れた?」
「ごきげんよう彩葉様。ええ、ぐっすり眠れましたよ」
「それはよかった。……ところで、この後時間空いてるかな?」
「はい。どうしました?」
「よければ、訓練に少し付き合ってもらえないかと思ってね。もちろん樹ちゃんも」
「あたしもですか!?」
彩葉の提案に百合花は頷く。この先何をするかについては特に考えていなかったので、断る理由はない。そして、樹は百合花にくっついていくので二人とも承諾だ。
彩葉に付いて歩き出す。すると、ふと背後に気配を感じた百合花が振り向いた。
「あ、千代ちゃん」
「おはようございます百合花様。しかし、見つかるとはまだまだわたくしも未熟ですね」
「いや、あたしは気づかなかったっての。百合花は最強格のワルキューレだから基準にするのは間違いよ?」
呆れ顔で樹が笑い、千代も百合花たちに付いていく。
やがて四人でやって来たのは、アサルトの訓練場だった。
近接・遠距離に対応した器具が揃っており、あらゆるアサルトの技術向上ができるようにと設備が完備されている。小規模だが闘技場も併設されていて、ワルキューレどうしでの決闘も行えた。
その闘技場の中心で、二人の人物がアサルトを向け合っている。朝からかなり熱のこもった訓練だった。
彩花がアサルトを盾の形で構え、静香が彩花に向けて銃撃を行っている。
「リロード速度を上げて! 射撃の腕が不安なら弾幕を張れるように!」
「はい!」
「そうそうその調子! 次、しっかり持ち手を固定して撃つと安定性が増して命中率も高くなる!」
彩花の指導に必死に食らいつこうとする静香。
使い切ったマガジンを破棄して次のマガジンをセットする動きを永遠と繰り返す。静香の足元には無数の空になったマガジンが落ちていた。
ホロゥ戦では、エネルギー弾よりも実弾のほうがダメージを与えやすいために実弾を使うが、訓練ではエネルギー弾を使っている。そのために弾薬の消費はマガジンを充電すれば問題ないが、それでも凄まじい数のマガジンを使っていて百合花が驚く。
撃たれた最後の一発を彩花は地面に弾き落とし、アサルトを置いた。
「そろそろ休憩にしましょうか」
「は、はい。ありがとうございました」
静香もアサルトを置き、彩花から投げられたスポーツドリンクを受け取る。
二人並んで中身を呷っていると、ようやく百合花たちの存在に気がついた。
「あ、百合花ちゃん」
「お疲れ様静香ちゃん。まさか彩花様に訓練してもらえるなんて」
「そうなんですよ! 私、もう感激ですぅ!」
心の底から嬉しそうな笑顔を見せた。
ドリンクを飲みきり、空になったペットボトルを投げてゴミ箱に放り捨てた彩花が笑う。
「静香ちゃんは才能あるよ。教えたことをすぐに理解して実践できてるし」
「本当ですか!?」
「うん。でも、まだまだ油断しちゃダメだからね」
「はい!!」
笑顔で返事をする。
彩花は、立ち上がるとアサルトを剣に変形させて樹へと歩いていく。
「彩花様?」
「ねぇ樹ちゃん。よければ私と一試合お願いできる?」
「あたしとですか!? 百合花のほうが強いですよ」
「百合花ちゃんには彩葉が用事あるみたいだし。だから、樹ちゃんとやってみたいなって」
「ま、まぁ。いいですよ」
樹がアサルトを持って闘技場に立つ。
樹が起動したアサルトを見て彩花が微笑んだ。目を輝かせて真っ直ぐ視線を合わせる。
「双剣型のアサルト、か。それ、特注品だよね?」
「ええ。お父さんのお兄さんがアサルトメーカー火ノ元の会長ですから。割と融通してもらえるんです」
「うーわずるい!」
「彩花様のそれだって城ヶ崎系列のアサルトメーカーの特注品ですよね!?」
お互いが持つアサルトについての会話で盛り上がっていた。
その後、互いに戦闘の構えを取ると強く地面を蹴ってアサルトをぶつけ合う。
火花が散り、激しい金属音が反響する。土埃が舞い上がり、アサルトを振り抜いた瞬間に発生する強風が遠くにいる百合花たちの髪も揺らした。
「す、すごい……! 次元が違う……!」
「樹は超攻撃特化の戦い方だからね。彩花様もよくあれに付いていけるなぁ……」
「樹様は攻撃が早いけど単調という弱点があります。彩花様はその動きを読み取っているのかと」
冷静な千代の分析。たしかに百合花も、樹の動きは読みやすいと思う部分もあった。
尤も、読み取ったところで反応して間に合うかどうかは賭けの話になるが。
「さてさて。お姉ちゃんたちの動きに見とれるのも良いけど、私たちも始めよう?」
「あ、そうでしたね」
百合花がアサルトをライフルに変形させる。単発式の高威力のものだった。
「では、わたくしもよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ!」
「ありがとうございます。では」
千代もアサルトを変形させる。その自然な動きに百合花が驚いた。
「千代ちゃんって新世代だったの!?」
「はい。わたくしは第一新世代ですよ。そういえば、百合花様には盾状態のアサルトしかお見せしたことがありませんでしたね」
ガトリングガンのように多くの銃口が見える凶悪な銃身が姿を現す。
彩葉がスナイパーライフルタイプ。百合花が単射タイプ。千代がガトリングタイプ。
それぞれ特徴の違うアサルトに、静香が興味津々でカメラを構えた。
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