第10話 射撃訓練
訓練装置のスイッチを入れ、射撃訓練を開始する。
次々と装置から的が撃ち出され、空中を無数に飛び交っている。ただちに百合花たち三人が狙いを付けた。
最初に百合花が射撃する。等倍レッドサイトを覗き込んでの正確な一撃が放たれ、四つの的が重なった刹那のタイミングを撃ち抜いた。
千代もガトリングガンを乱射し、飛んでいる的を次々と破壊していった。二人が砕いた的の残骸が地面に散らばる。
順調に的を破壊していく二人。だが、彩葉は少し伸び悩んでいるようだった。
轟音と共に放たれた一撃は的を打ち砕く。しかし、時折明後日の方向に飛んでいくものがあった。命中率はおよそ七割といったところか。
一回の訓練での的が全て撃ち出され、射撃訓練を終える。百合花が全弾命中、千代が九割命中、彩葉が七割命中という結果に終わった。
アサルトを置いた彩葉が頬を掻いて苦笑いする。
「あはは、これじゃスナイパー失格かな」
「彩葉様。もしかして動く目標に当てるの苦手ですか?」
「うん。静物必中距離は最大射程の五千メートルあるんだけど、動体必中距離は千メートルもなくて……」
彩葉が困ったように笑った。
ホロゥとの戦闘では、静物必中距離よりも動体必中距離が求められるのは当然だ。
ホロゥが止まっている時間など、特殊な状況を除けば出現直後のわずかな時間しかない。とある学園が使っている現在運用されているアサルトの中でも最強の火力をもってしても、そんな時間で倒せるのは精々小型の雑魚だけだろう。
戦闘中に動く目標に正確な一撃をお見舞いできるようにしないといけない。
先ほどの射撃を横目で見ていた百合花には思うところがあった。それを今から確認する。
「彩葉様。あの三千メートル離れた的を撃ってもらって良いですか?」
「え? 分かった」
スコープを構え、引き金に指を添える。
的を素早くスコープ中央に捉え、引き金を引いた。凄まじい火薬の炸裂音が響き渡る。
彩葉が撃った弾丸は的を易々と破壊。ど真ん中を寸分の狂いなく穿って粉砕した。
「お見事です。じゃあ、次はあの千メートル先の動く的にお願いします」
「うん」
先ほどと同じように的を捉える。続いて響く爆音。
が、今度は的の端を掠って弾が通り過ぎた。すぐ脇を通過した衝撃波で的が抉れる。
またしても外したことで、彩葉が少し落ち込んだ。
「あぁー、あれは大型や超大型には当たるけど、中型や小型のすばしっこい奴には厳しいですね」
「面目ありません……」
「でも、分かりましたよ。彩葉様の癖」
百合花の言葉に千代も頷いた。超遠距離を狙う人がやってしまいがちなミスを彩葉もしていたことが分かったのだ。
「彩葉様。そのアサルトで動く目標を撃とうと思えば、スコープの真ん中で照準を合わせたらダメですよ」
「え?」
「相手との距離と弾速を計算し、少し相手の進行方向に照準をずらして撃つんです」
「そうなの?」
「ええ。試しに、今言ったことを考えながら今度はあの三千メートル先の的を狙撃してみてください」
「彩葉様ならきっと当てることが出来ますよ」
百合花と千代の応援を受け、彩葉がスコープを除く。
言われた通り軌道を見極め、弾速を思い出しながら照準をわずかにそらす。
そして、絶好のタイミングに来たと判断した彩葉は冷静に引き金を引いた。再び弾丸が空気を裂く。
撃ち出された弾は、狙っていた的の中央に突き刺さった。木っ端微塵に粉砕し、残骸を散らばらせる。
当たったことに本人が一番驚いていた。口を半開きに呆けている。
「当たった……?」
「さすがです彩葉様!」
「私、あの距離の動く的に……!」
「素晴らしいことです。恐らく、このまま練習すれば彩葉様が百合ヶ咲一の射撃手になるとわたくしは思います」
お世辞でも何でもない、千代の直感。静物動体どちらにしても五千メートル先まで撃てるようになれば、ホロゥなど敵ではない。より被害を少なく討伐できるようになるだろう。
千代と百合花から賞賛され、輝く笑顔を見せる彩葉。スナイパーとしての自信が溢れてくる。
そんな三人に静香が拍手を送っていた。同時に目尻に涙を浮かべている。
今まで激しくアサルトをぶつけあっていた彩花と樹が対戦を終える。なにやら良い雰囲気の百合花たちと、それを見て涙を流す静香に首を傾げた。
「どうしたの?」
「火薬の匂いが残る場所で育まれる友情! 私、こういうの大好きなんですよ!」
「へ、へえ~」
樹と彩花が肩をすくめた。
彩葉が時間を確認する。ちょうど、お昼にさしかかろうとしている時間だった。
「あっ、そろそろお昼ご飯だね」
「もうそんな時間でしたか」
「だね。皆で行こう? うどんとか奢るよ」
「さすがに初日から先輩にごちそうになるのは……」
「いいからいいから。ほら、静香ちゃんたちも」
いつもより積極的な彩葉に、彩花が嬉しそうに目を細めた。
……そんな平和な時間をぶち壊したのは、重く低い笛の音。ヘイムダルの角笛が奏でるは、ホロゥ襲来の警報。
二日連続でのホロゥ出現だ。
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