第7話 城ヶ崎姉妹

 一旦樹たちと別れ、自分の部屋に帰る百合花。部屋に入ると、香ばしいソースの香りが漂ってきた。


「ただいま」

「あ、お帰りなさい!」


 部屋の中央でカップ焼きそばを作っていた静香が百合花を出迎える。部屋に漂うソースの香りは焼きそばのものかと納得した。

 さっと百合花のコップを取って水を注ぐ静香。気の利いた気遣いに感謝し、水を受け取ると一気に飲み干した。


「ありがとう」

「いえいえ。でも、やけに長くお説教されていましたね。お疲れ様です」

「ほんと。もうお腹ペコペコよ」


 そう言うと、百合花はチラッと静香のカップ焼きそばを見る。


「ねぇ。それ余ってない? 私も食べたくなっちゃって」

「えぇ!? 御三家の人もこういうの食べるんですか!? てっきり高級フルコースでも毎日食べているものだと……」

「どんな食生活を想像していたの? 私は休日とかインスタント食品を結構開けるし、樹なんて一週間のうち五日はラーメン屋に通ってるって聞いたわよ?」

「そうなんだ……」


 心の底から驚いた顔で鞄を漁る静香。底の方からカップラーメンを取り出すと、百合花に手渡す。


「今はこれしか持ってないですけど、いいですか?」

「もちろんよ。ありがとね」


 早速もらったカップ麺にお湯を注ぐ。しっかり蓋をして三分間きちんとカウントする。百合花は、三分しっかり計ってから食べる派だった。

 一足先に焼きそばをすする静香。箸で麺が持ち上げられたことにより、さらに強いソースの香りが広がった。

 食欲を刺激され、腹の虫が鳴いていると不意に来客を告げるベルが鳴る。


「あ、誰でしょう?」

「樹かな? すぐに来たのね……。出てくるから、ラーメン見てて」


 ラーメンを託して百合花が対応しに出る。入り口まで扉を開けると、そこには樹ではなく思ってもなかった人物がいた。


「あ、えと、こんばんは!」

「緊張しすぎ。やっほー百合花ちゃん。こんな時間にごめんね?」

「彩葉様? 彩花様?」


 昼間、ラビットホロゥとの戦闘で一部共闘した城ヶ崎の二人――城ヶ崎彩花と城ヶ崎彩葉がそこにはいた。てっきり樹だとばかり思っていたので、目を白黒させてしまう。

 とりあえず、廊下に立たせておくわけにはいかないと、部屋に招き入れた。二人は、購買のマークが記された袋を持って部屋に入る。


「お邪魔しまーす」

「し、失礼します」

「あれ? 樹ちゃんってそんな声して……ファ!? 彩花様と彩葉様!?」


 聞いたことないような声を出した静香がひっくり返る。重度のワルキューレ愛好家の静香にとって、一日で御三家全員と会ったことは相当な衝撃だっただろう。

 素早く焼きそばを持って部屋の隅に移動する。そんな静香の奇行を目にした彩花たちは目を丸くした。


「どどど、どうぞ! 私は部屋の隅で植物になっていますので!」

「そんなことしなくていいよ。それより、貴女もこっちでお話ししない?」

「え、よろしいのですか?」

「逆にダメな理由を教えてほしいよ」


 彩花の誘いに乗って元の位置に静香が戻る。彩花は、続いて机の上にあったカップラーメンを見つけた。


「へぇ~。百合花ちゃんもこういうの食べるんだ。意外」

「お姉ちゃん失礼だよ!」

「いいですよ。というより、彩花様もそんなイメージを?」

「西園寺って京都じゃん。だから、お漬物とか日本料理とかそういうのばっかり食べてるものと」

「ちょっと馬鹿にしてません? 京漬物は美味しいからよく食べますけど」


 あははと笑う彩花。そして、袋からポテトチップスを取り出した。


「せっかくお礼も兼ねて、百合花ちゃんに未知の味を知ってもらおうと買ってきたのに」

「ポテトチップスくらいよく食べてますから。というより、お礼って?」

「お姉ちゃんはもう静かにしてて! ……えっとね、お昼に私を助けてくれたでしょ? そのお礼」


 言われて、そういえばと思う。ラビットの攻撃から彩葉を守っていた。わざわざそのお礼をしに来てくれるとは、ありがたいことだと思う。

 「冗談だよ」と笑って、彩花は袋から高級プリンを取り出す。


「本当は、食堂でパフェでも奢ろうと思っていたんだけどね。百合花ちゃんいないんだもん。だから、ルームメイトの子の分と一緒にプリン買ってきたよ」

「ありがとうございます! やったね静香ちゃん!」

「はい! ありがとうございます!」

「どういたしまして。というか、お礼を言うのは私たちなんだけど」


 四人で笑い合う。

 その後、彩花たちは食堂でお弁当を買っていたので部屋で一緒に食べることになった。そのお弁当というものが、ローストビーフや高級豚を使ったトンカツなどが入ったお高いものだったので、静香も百合花も驚いたのはまた別の話。

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