第3話 再会
入学式が行われる体育館までの道中、百合花はルームメイトの静香と話す。会場に近付くにつれ、静香のテンションは上がりっぱなしだ。
興奮気味に鼻息を荒くしたかと思えば、今度は緊張したように肩を強張らせる。
「ふふっ、落ち着かないけど大丈夫?」
「緊張と、有名な方々に会えると思うと興奮しちゃって!」
「本当にワルキューレのことが好きなのね」
「皆さんは私の憧れですから! それに、今年はなんとあの御三家のうち東郷と西園寺から新入生が来るらしいですよ! これで二年生の城ヶ崎のお二人を加えて御三家が勢揃いです! 歴史的ですね!」
御三家――対ホロゥ戦において日本で名を馳せる三大名家のことだ。西園寺、東郷、城ヶ崎という三家がそれに該当し、陸上自衛隊対ホロゥ特化部隊の隊長の座を交代で引き継いでいる。ちなみに、現在の隊長は西園寺家が務めていた。
静香の話を聞いて百合花が苦笑した。その様子を見た静香は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんです?」
「いや、お姉ちゃんのことを少し思うと笑いが……」
百合花の姉も対ホロゥ特化部隊に籍を置いているワルキューレだ。そして、その隊長については心底嫌そうに愚痴を言っていたことを思い出して笑ってしまう。
姉が嫌がる隊長がワルキューレたちの憧れなのか、と。
二人で歩いていると、大きな建物が見えてきた。入学式の行われる体育館だ。
それと、その入り口前に人だかりができている。多数の女子生徒たちと少数の男子生徒に誰かが囲まれているようだった。虐め……と、いうよりは憧れを見る目で。
人だかりの隙間から中にいた人物が見える。ブロンズの髪をポニーテールに纏め、大きくて優しげな瞳が特徴的な少女だった。
その姿を見た静香が今日一番の大声を発する。
「東郷樹様! 百合花ちゃん! さっき話してた御三家の東郷家、樹様ですよ!」
「ほんとだ。樹も人気ねぇ……」
「ですね! ……あれ? 樹……?」
百合花が樹を呼び捨てにしたことを疑問に思う静香。そんな彼女を気にせず、集団の横をこっそり抜けようとする。
だが、ここで百合花が最も見つかってほしくないと思っていた人物に見つかってしまった。それは、樹の側で待機する一人の物静かな少女。
百合ヶ咲学園の制服以外は忍装束に似た衣装を着ている彼女は、百合花を見つけるなり樹に報告する。
「樹様。百合花様があちらに」
「げっ!」
「えっ!? 百合花ー!!」
忍少女の報告を聞いた樹は、集団を飛び越えて百合花の前にひとっとび。そして、百合花の正面から突進するように抱きついた。
周りの誰もがこの突然の事態に目を白黒させる。そんな周りなど知らないというように、樹は百合花の頬に自らの頬をくっつけ密着していた。
「久しぶり! ずっと会いたかったんだから!」
「分かったから……離れて? 人目があるし」
「いいじゃん! あたしたちを見せつけちゃえば! こーんなにもラブラブなんだから!」
テンション最高潮の樹。やがて、おずおずと二人に声をかける少女がいた。静香だった。
「あの、樹様?」
「なに? 同級生なんだから樹でいいよー」
「それは……じゃなくて! 百合花ちゃんとどういった関係ですか……!?」
「えー、なにそれズルい! あたしは様付けなのに百合花は名前呼び!? いいなー!」
ぐぬぬ、と恨めしそうに静香を睨む樹。すると、いつまでも話は進まないと思った忍少女が静香の問いに代わりに答えた。
「樹様と百合花様は、幼少期からのお付き合いですよ。恐れながら、わたくしも一緒でした」
「……え、待ってください。百合花ちゃんの名字は……まさか……!?」
「はい。御三家の一角、
「百合花はすごいんだよ! なんたって世界でも数えるほどで、日本では百合花を含めると三人しかいない第三新世代なんだから!」
ワルキューレには、主に六つの世代がある。
まず、ワルキューレたちの専用装備である『アサルト』という兵器に関して二つに分かれる。近接・遠距離・防御で固定されたアサルトを使うのが旧世代で、それらを自在に変形させることができるのが新世代だ。
そして、リリカルパワーの扱いによる分かれ方を合わせて世代が決まる。
リリカルパワーをアサルトに纏わせ、ホロゥへの殺傷力を高めるだけなのが第一世代。そして、リリカルパワーをシールドにも使えるのが第二世代。それらに加え、リリカルパワーを飛び道具として直接攻撃にも使えるのが第三世代というわけだ。
努力次第でいくらでも変わるため一概には言えないが、一般的に第一旧世代ほど弱く、第三新世代ほど強いとされている。ちなみに、現在最も数が多いのは第二旧世代だ。
百合花について知った静香が顔を青ざめさせる。
「わ、私そんな百合花様と同じ部屋に……!」
「そうなの!? いいなぁ」
「えと……浴室と食堂とキッチンなんかは共用ですし、同じ建物内なら自由にお泊まりも許可されていたはずですよ……」
「マジ!? いつか部屋にお邪魔していいの!?」
「まぁ、いいかな。それと、静香ちゃんは私のこと様付けしなくていいからね。友だちなんだし」
「友だち!?」
「違うの?」
「いえ! 嬉しいです光栄です!」
「私も樹でいいよ~。ねぇ、私ともお友だちになってよ」
「では、わたくしとも」
「よ、よろしくお願いします! 樹さん! ……えと……」
「おっと失礼しました。わたくし、樹様のお世話をしてます倉科千代と申します」
樹と千代から握手を求められ、感動しながら手を握る静香。
幼少期の友だちと再会し、幸先の良い学園生活が始まる予感がしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます