第2話 ルームメイト
鎌倉幕府跡地に建てられた純白の校舎。ここが、鎌倉百合ヶ咲学園の本校舎だ。この本校舎を中心に、複数の講義棟や訓練施設、食堂や寮や図書館といった建物を含む広大な敷地が広がっている。
その敷地の東側にある、紫の藤の花をイメージしたレリーフが美しい建物の入口に、一人の美少女が立っていた。
腰まで伸ばした美しく煌めく白金の髪。幼さを残しつつも力強い深紅の瞳を持ち、整った顔立ちは異性同性関係なしに思わずため息を漏らすほど。完璧な容姿の美少女――百合花が荷物を持ち、建物に入っていく。
事前に郵送されていた鍵の番号を確認して階段を上がっていく。同封の手紙には、百合花は二人部屋でルームメイトがいることが書かれていたので、同じ部屋の相手はどんな子だろうと気になっていた。
三階まで上がり、部屋の前で深呼吸をする。第一印象を良くしようと笑顔を作り、扉を開いた。
「おはようございま……」
「ひゃっ!?」
部屋に入って一番最初に見えたのは、純白の下着だった。着替えの最中で、ちょうど上の服を脱ぎ捨てた状態の少女と視線が交錯する。
両者に沈黙の一時が訪れる。着替え中の少女を覗いてしまった百合花は、なんともいえない罪悪感を感じていたが、先に思考が復活した。慌てて扉を閉めて扉にもたれかかる。
「ご、ごめんなさい! ごゆっくり!」
室内から聞こえる衣擦れの音。音だけで察するに、少女は相当焦って着替えを行っているらしかった。
しばらく廊下に佇んでいると、部屋の扉が開く。百合ヶ咲の黒いメイド服のような制服に着替えた少女が小さく扉の隙間から顔を出していた。頬を赤くして手招きしている様子から、もう入室してもいいだろうと判断して百合花が荷物と一緒に部屋に入っていく。
顔を真っ赤にしてもじもじする少女。百合花としては、同性とはいえ、年頃の少女の着替えを見てしまったためにどう反応すればいいのか迷っていた。
「あの、ごめんなさい。私なんかが貴女のお目汚しを……」
「気にしてないから! むしろ、私のほうこそごめんなさいね」
「いいんです! 来るまでに着替えておかなかった私が悪いんですから!」
最敬礼の角度で謝ってくる少女に百合花が戸惑う。百合花としては、ノックもなしにいきなり扉を開けたために自分のほうが悪かったと思っていた。が、申し訳ない気持ちを持ちつつ、「お互い様だね」と笑って荷物を部屋の隅に置いた。
部屋を見渡す。二人部屋にしては、そこそこ広い部屋に百合花が微笑む。印象としては、ホテルのようだった。大きなベッドが二つと、大きなテレビにそれぞれの学習机、冬場になるとこたつとして使えるテーブルまで付いていた。
「なんだか、修学旅行みたいだね」
「ですね! 私、ワクワクします!」
「あはは。じゃあ、これからよろしく。私、百合花」
「私は篠原静香です! その、繰り上げ合格のへっぽこですけど、よろしくお願いします!」
「静香ちゃん、ね。よろしく。私、ずっと京都にいたからここらの地形に詳しくないの。よければ今度回りましょう」
「私こそお願いします! 実は、私は滋賀から来たんです。案外近いですね!」
滋賀、と聞いて百合花の視界が赤く歪む。しかし、変な空気にするわけにはいかないと首を振って静香を見つめた。
橙色の明るい髪はショートで切り揃えられ、クリクリとした大きな瞳が愛らしい。子犬や小動物といった表現がよく似合う愛らしい少女であった。身長も低く、ますます小動物のイメージが強まる。
「どうしました?」
「可愛いなって、そう思って」
「か、可愛いですか!?」
「うん。まるで小動物みたい」
「そっちの意味の可愛いですか!?」
面白い反応を返してくれる静香に笑顔を向けて、百合花が時計を確認する。時刻は、そろそろ入学式のために体育館に向かう必要がある頃だった。
「そろそろ行かなくちゃね」
「そうですね! ちゃんとアサルトも持っていかないと」
静香が自分のバッグからアサルトを取り出した。シンプルな造形で、初心者にも扱いやすい銃型のアサルトだった。
「静香ちゃんのアサルトは銃型なのね。旧世代?」
「そうなんですよ。私、第一旧世代だからこのアサルトが支給されて……」
「いいと思うわよ。そのアサルト、初心者にも使いやすいように設計されていて性能もいいから」
百合花もアサルトを取り出す。小さく折りたたまれた盾のようなアサルトで、わずかに銀の刃と細い銃口が確認できる。
「百合花さんは盾型なんですね。ホロゥの攻撃を受けるの怖くありません?」
「あぁこれ? 持ち運びやすいように盾にしてるだけよ。これが一番容積とらないもの」
そう言うと、百合花はアサルトを剣に変形させた。立派な刀身が美しい、銀の両刃剣に静香が目を輝かせる。
「百合花さんは新世代なんですね! 尊敬します!」
「ありがとう。それより、そろそろ行こう?」
静香と百合花が部屋を出る。他の部屋からも、同じく新入生がアサルトを持って出てくるところだった。
彼女たちに混じり、会場である体育館に向けて歩き出す。これから始まる学園生活に思いを馳せて。
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