第36話 絶対に僕は諦めないから~ユーグラテス視点~

パーティーの翌日、早速母上がミューティング公爵家に結婚の申し込みをしたが、予想通り断られた。




分かっていても、やっぱりショックだ。




そんな僕に




「ユーグラテス、大丈夫よ。ミシェルちゃんはきっと、あなたの事を好きになってくれるわ。公爵にもひき続き交渉するから」




そう言って張り切る母上。でも母上が何度お茶に誘っても、体調が悪いからという理由で断られている。そんなに体調が悪いなら一度お見舞いでもと思ったが、父上に全力で止められた。




そしてなぜか母上がミューティング公爵家に結婚を申し込んだと聞きつけたスタンディーフォン公爵家も、正式にミューティング公爵家に結婚を申し込んでいたが、こちらも断られていた。




まあ、普通に考えて王族との縁談を断ってすぐ、貴族との縁談を結ぶことはない。これは貴族界の常識だ。それなのにどうしてレオの家は、このタイミングで結婚を申し込んだのだろう。さっぱりわからない。




そんな中、ミシェル嬢が体調悪化を理由に、領地で療養する事が決まった。どうやらあまりにもしつこい母上から逃げる為、公爵がミシェル嬢を領地に隠した様だ。さらに話を聞くと、貴族学院に入学するまでの2年半、領地で暮らすとの事。




そんなに長い間ミシェル嬢に会えないなんて…


そうだ、ミシェル嬢に会いに行こう。そう思ったのだが




「ユーグラテス、お前は何を考えているのだ!王族が婚約者でもない令嬢に会いに行くなんて、そんな事は許されない!」




「さすがにそれは良くないよ。ユーグラテス、ミシェル嬢が帰ってくるまで、会うのは我慢しなさい」




父上と兄上に止められてしまった。元々兄上は、僕の味方だったはずなのに…




そんな中、レオが事務所へ向かって歩いてく姿が目に入った。まさか、レオの奴ミシェル嬢に会いに行くのか?




どうしてレオだけミシェル嬢に会えるんだよ、そんなの許さない!そう思った僕はレオに




「ねえ、レオ。君だけミシェル嬢に会いに行くなんて、ずるいと思わないかい?僕だって、ミシェル嬢に会いに行きたいよ。でも、父上と兄上がダメだって言うからさ。でも、もし君が行くなら、僕も付いて行くよ。だって、君だけミシェル嬢に会うなんてフェアじゃないでしょ!」




そう伝えた。




物凄い形相で僕を睨むレオ。これでレオもミシェル嬢に会いに行けないだろう。その日から僕は毎日騎士団の稽古に参加した。正直稽古は嫌だが、レオを監視する為だ。僕に監視されていると知ったレオもまた、騎士団の稽古を絶対に休まなくなった。




と言っても、元々よほどの事が無い限り、レオは休まないのだけれどね。そのおかげか、僕は無駄に強くなってしまったが、まあいいか。




そして月日は流れ、やっとミシェル嬢が領地から帰ってくる時期になった。母上に話では、来週には帰って来るとの事。




「ユーグラテス、ミシェルちゃんが領地から帰って来たその日に、もう一度正式に結婚を申し込もうと思っているのだけれど、いいかしら?」




「もちろんだよ。でも、ゆっくりしていたらレオに先を越されない?」




「それは大丈夫よ。そもそも正式に婚約を結ぶ為には、見届け人立ち合いの元、本人たちとそれぞれの両親が書類を書かないといけないのよ。公爵家の領地まで丸2日かかる。もし先にレオが婚約しようとするなら、ミシェルちゃんのいる領地まで行かないと行けないわ。ユーグラテス、レオはずっと騎士団の稽古に来ているのでしょう。それなら不可能よ」






にっこり笑ってそう言った母上。なるほど、だとするとどんなに早くても、ミシェル嬢が帰ってくる来週にしか婚約は出来ないのか。




という事は、レオ達がたとえ口約束で婚約を結んだとしても、正式な書類を作成できない状況で、王族でもある家が結婚を申し込んだ場合、父上に忠誠を誓っているミューティング公爵は、王家の申し込みを断って、レオと婚約させるなんて事はしないはず。




僕の事を嫌がって領地に逃げたのだから、きっと今回も断られるだろう。でもレオとも婚約は出来ないと言う訳か。なるほど。




そして貴族学院に入学さえすれば、ミシェル嬢はもう僕から逃げられなくなる。学院に入ってから、ゆっくりミシェル嬢を囲い込めばいいって訳だね。時間はかかるが、この方法しかなさそうだ。






そう思っていたのだが…




「どういう事ですか!なぜミシェル嬢とレオが婚約したのですか!」




ミシェル嬢が王都に戻って来る日、正式にミシェル嬢とレオが婚約したと大々的な発表があった。




「どういう事もこういう事もない。それぞれの公爵から正式に報告も受けている。ユーグラテス、諦めなさい。正式に2人が婚約した以上、お前にはどうする事も出来ない」




僕に諦めろだって!そんなの無理に決まっている。




「お言葉ですが父上、その書類は法律に乗っ取っての書類ですか?そもそも、レオは昨日も騎士団の稽古に参加していました。当事者が集まるなんて不可能です」




僕は父上に詰め寄った。




「どうやら、王都近くのホテルに宿泊していたミシェル嬢の元を、レオが訪ねた様だよ。それなら騎士団の稽古を終えた後にでも、行けるからね」






そう言ったのは兄上だ。


そう言えば昨日、上の空だったレオを、騎士団長が早めに帰していた。しまった!あの後レオはミシェル嬢の元に向かったのか。




「母上、何とかしてください!母上なら僕の気持ちをわかってくれますよね」




僕は側にいた母上に縋りついた。




「ユーグラテス、お母様も何とかしてあげたいけれど、さすがに2人が正式に婚約したのなら、もう手出しは出来ないわ。そもそも、ミューティング公爵家もスタンディーフォン公爵家も、貴族界で1.2を争う権力者よ。その2家族を敵に回せば、私達王族が危なくなるのよ」




そう言って、困った顔をした母上。




「それに、ミシェル嬢の親友は、あのガーディアン侯爵家の次女だ。さらに娘を通して、家族ぐるみの付き合いがあるそうだよ。ガーディアン侯爵家はある意味、公爵家より厄介だ。あそこを敵に回すのは何が何でも避けた方がいい」




兄上まで話に加わって来た。確かガーディアン侯爵家はスパイ一族だったな。あそこの家に目を付けられた貴族は、徹底的に調べ上げられ、片っ端から潰されていったと聞いている。




「その上、ガーディアン侯爵家の次女、シュミナ嬢の婚約者は、ディープソン侯爵家の嫡男だ。この家も厄介だぞ。とにかく、ミシェル嬢の事は諦めろ!きっとミシェル嬢よりも素敵な女性がいるはずだ。そうだ、今度令嬢を集めてパーティーを開いてはどうだい?」




「ふざけないで下さい!兄上!僕はミシェル嬢以外の女性と、結婚するつもりはありませんから!」




そう叫んで、僕は急いで自室へと駆け込んだ。後ろで父上や兄上が何か叫んでいたが、知ったこっちゃない。




クソ、どいつもこいつも勝手な事を言いやがって!これ以上母上の協力も得られそうにないな。仕方ない、自分で何とかするしかない様だ。




幸い、レオとミシェル嬢が結婚するのは、どんなに早くても貴族学院を卒業してからだろう。そうだ、まだ3年ある。この3年の間に、必ずミシェル嬢を手に入れよう。




別に焦る事はない。ゆっくり作戦を練りながら、最終的にミシェル嬢を手に入れればいい。幸い僕には、王族という権力と沢山の金がある。この権力と金を使って、僕に協力してくれそうな仲間を集めよう。




それに来月からは貴族学院も始まる。これから毎日ミシェル嬢に会えるんだ。きっと物凄く奇麗になっているんだろうな。早く会いたいな、ミシェル嬢に…




~あとがき~

絶対的協力者でもあった王妃までも、さすがに第二王子の味方は出来ない様です。


それにしても、諦めの悪い第二王子。執着が凄いです(;^_^A


ちなみに


シュミナの実家は情報を集めるスペシャリストです。シュミナ自身、小さい頃からそう言った教育を受けて来ました。


そんなシュミナは、第二王子や王妃様の動向もずっと睨んでいた様です。


それもこれも、全てミシェルの為です!本当に、いい友達を持ったミシェルです。


さらに、ミシェルの父親に王家の情報を教えていたのは、シュミナの父親です。シュミナの父親のおかげで、事前にレオと先に婚約をする事が出来たのです。


本当に、シュミナとシュミナの家族には感謝しかありません!

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