第29話 シュミナが領地に遊びに来ました
私が手紙を出してから1ヶ月後、お父様が領地にやって来た。
「お父様、お久しぶりね。会いたかったわ」
久しぶりに会うお父様に飛びついた。
「ミシェル、元気そうで何よりだ。お前から手紙を貰った時には驚いたよ。ミシェルも随分と大人になった様だ。君がチャチャだね。ミシェルの側にいてくれてありがとう」
尻尾を振って寄って来ていたチャチャの頭を撫でて、挨拶をするお父様。
「お父様、早速孤児院に行きましょう!お父様に現状を見て欲しいの」
お父様とメラ、チャチャと一緒に孤児院へと向かった。あれから何度も孤児院を訪問していた私は、もうすっかりみんなと仲良しだ。
「あっ、ミシェルお姉ちゃんとチャチャだ!今日は何のお菓子を持って来てくれたの?」
「ミシェルお姉ちゃん、字の書き方を教えて」
「チャチャだ。こっちで遊ぼう!」
私たちを見つけた子供たちが、一斉にこちらにやって来た。
「このおじちゃん誰?」
ふと隣に居たお父様が気になった子供たち。
「この人は私のお父様よ」
「ミシェルお姉ちゃんのお父さんか。よろしくね」
そう言って子供たちが笑顔を振りまく。相変わらず痩せていて、ボロボロの服を着ている子供たち。この現状を見て、お父様も考え込んでいる。
その後、私とチャチャは子供たちを一緒に遊んだり、文字や簡単な計算を教えたりして過ごした。そうそう、今日は近くの森で摘んできた木苺をたっぷり使ったケーキを作って来た。
子供たち、喜んでくれるかしら。
私たちが遊んでいる間、お父様とメラ、マルサさんは話しをしている様だった。本当は私も加わりたいが、領地の事を全く分かっていない私が加わっても邪魔なだけなので、参加させてもらえなかった。
翌日も、その翌日もお父様は別の孤児院を見て回っていた。
「ミシェル、お前から手紙を貰って、改めて子供たちの状況を確認する事が出来たよ。他にも整備が行き届いておらず、犯罪の温床になっている場所がいくつもある事が分かってね。本格的に改革をしていく事になった。ミシェル、お前のおかげだよ。ありがとう。今後は、王都と領地を往復する事も多くなるから、ミシェルにも頻繁に会えそうだ」
「それは良かったけれど、王都と領地の往復はかなり大変よ。お父様、大丈夫なの?」
お父様はただでさえ働き者だ。そんなお父様に更なる負担が掛かってしまうなんて、体を壊さないか心配だわ…
「ミシェルは本当に優しい子になってくれたね。ありがとう、でも大丈夫だよ!これが私の仕事だからね。ミシェルの未来のお婿さんが安心して公爵家を継げるよう、しっかり準備しておかないとね」
そう言って笑ったお父様。お父様の為にも、やっぱり早く婚約者を決めないと…
毎日忙しく動き回っていたお父様は、1週間後また王都に戻って行った。
私はこの頃から、少しずつ領地について勉強を始めた。公爵になるのは私の未来のお婿さんだけれど、私もある程度領地の事を知っておきたいと思ったからだ。
そんなある日、シュミナから1通の手紙が届いた。そこには、来月家の領地に遊びに来る旨が書かれていた。
「聞いて、ルシアナ!シュミナが来月遊びに来てくれるのよ!久しぶりにシュミナに会えるのね。嬉しいわ!」
「良かったですね。お嬢様」
小躍りして喜ぶ私を、苦笑いして見ているルシアナ。
「チャチャ、シュミナが来るのよ!シュミナは動物が好きみたいだから、きっとあなたとも仲良くなれるわ。楽しみね」
首を傾げているチャチャを抱きしめ、語り掛けた。早く来月にならないかしら。手紙では伝えきれなかったことが沢山ある。いつまでいられるか分からないが、シュミナと目いっぱい遊ぼう。考えただけでニヤニヤが止まらないわ。
そして月日は流れ、シュミナが来る日を迎えた。
「お嬢様、朝から玄関の前をうろつかれていては掃除の邪魔です。そもそも、シュミナ嬢はお昼ごろにしか来ませんよ」
何度もルシアナに注意されるが、楽しみすぎて玄関から離れる事が出来ないのだ。
「そんなに暇なら、チャチャ様をお散歩に連れて行ってあげてくださいませ!」
そう言って、チャチャを私に押し付けるルシアナ。チャチャも嬉しそうに尻尾を振っている。そもそも、屋敷や庭を好き放題走り回っているチャチャに、散歩なんて必要なのかしら?
そう思いつつもチャチャを連れて、屋敷の周りをウロウロする。しばらくすると、ルシアナが呼びに来た。
「お嬢様、そろそろシュミナ嬢がいらっしゃる時間ですよ。お屋敷にお戻りください」
もうそんな時間なのね。急いで屋敷に戻ると、向こうの方からガーディアン侯爵家の紋章を付けた馬車がやって来るのが目に入った。
「ミシェル、久しぶりね。会いたかったわ!」
馬車から降りて来たシュミナが、私に抱き着いて来た。
「シュミナ、私もずっと会いたかったのよ!来てくれてありがと。それにしても、随分奇麗になったわね。見違えたわ」
久しぶりに会ったシュミナは、明らかに奇麗になっていた。やはり婚約者が出来ると、見た目も変わるのかしら?
「ミシェルだって、また一段と奇麗になったわよ」
そう言ってクスクス笑うシュミナ。
「キャンキャン」
私たちの足元をウロウロしていたチャチャが、自分も混ぜろと吠えた。
「あなたがチャチャね。可愛いわね」
そう言ってチャチャを抱きかかえるシュミナ。チャチャも尻尾を振って、シュミナの顔をペロペロ舐めている。
「チャチャ、くすぐったいわ」
そう言って笑っているシュミナ。
「シュミナ、長旅で疲れたでしょう。中に入って」
早速シュミナの部屋へと案内した。もちろん、私の部屋の隣だ。ちなみにガーディアン侯爵家から、シュミナの専属メイド3人も一緒に来ている。嬉しい事に2週間も滞在できるとの事。
その日はさすがに疲れているからと、ゆっくり休んでもらった。
そして翌日
シュミナに領地を案内したいのは山々だが、まずは積もり積もった話をするのが先決だ。
早速お茶とお菓子を準備してもらい、女子トーク開始だ。
「シュミナ、それで最近王都ではどうなの?何か変わった事は起こっている?」
「今のところ平和よ。ただ、ジル様の話ではどうやら第二王子様がスタンディーフォン公爵令息様をずっと監視している様なの。だから、あなたが領地にいる間は、スタンディーフォン公爵令息様はここには来られないかもしれないわね」
「第二王子がレオを監視?」
「そうよ、あの王子様、まだあなたを諦めていないようで、自分がミシェルに会えないのに、スタンディーフォン公爵令息様だけ会うのはずるいと思っている様よ。本当に面倒な男よね」
「そんな…じゃあ私はレオと2年半もの間、1度も会えないの…」
もうここに来て、半年近くたつけれど、確かにレオはまだ一度も来てくれていない。きっと忙しいのだろうと思っていたが、どうやらそうではない様だ。
「それにしても、どうして第二王子は私にそこまで執着するのかしら?全く分からないわ」
「そうかしら?ミシェルは魅力的だもの。第二王子様が好きになってもおかしくないわ」
にっこり微笑むシュミナ。どうやらこの子はお世辞がうまい様だ。その後もレオの様子や王都での出来事を細かく話してくれたシュミナ。
最近ではよくジル様とお茶会にも参加している様だ。どうやら、私の悪評もだいぶ落ち着いてきている様で、今回の領地での療養を信じている貴族も多いとの事。
そしてレオは相変わらず浮いた話もなく、黙々と騎士団の稽古を続けている様だ。ジル様の話では、最近ではよく本を読んでいるらしい。
「シュミナ、色々と教えてくれてありがとう。明日から早速領地を案内させてね。シュミナさえよければ、孤児院にも一緒に行かない?とっても可愛い子供たちなのよ」
「もちろん行くわ。ミシェルが普段どうやって過ごしているか、知りたいもの」
この日はとにかくシュミナと色々な話をした。いよいよ明日から、シュミナに領地を案内する。楽しみで仕方がないミシェルであった。
~あとがき~
相変わらずねちっこい第二王子のせいで、レオがミシェルの元に来る事は無理そうです。ちなみに後2話くらい領地の話を投稿したら、王都に戻る予定です。
よろしくお願いしますm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます