第28話 孤児院を訪問します
領地に来て、3ヶ月が経った。すっかりアンとも仲良くなり、今ではアンを自由自在に乗りこなせるようになった。ちなみに、毎日朝夕のブラッシングは私の日課だ。
もちろん、チャチャとも仲良しで、最近では2人で森に散歩にもよく行く。森には珍しい木の実もたくさんなっていて、木の実のケーキを作ったりもしている。
物凄く食いしん坊のチャチャがしょっちゅうケーキを狙っては、ルシアナに怒られている。チャチャは犬だから、さすがに人間のケーキは体に悪いので、私も与えない様に気を付けているのだが。
今度犬でも食べられるケーキを作れないか、料理長に相談してみよう。そうそう、最近はメラに勧められて、推理小説にはまっている。意外な人が犯人だったり、意外な方法で犯罪を犯したりと、かなり面白いのだ。
もしかして、第二王子もこの方法でお父様に国家反逆罪の罪を着せたのかしら?なんて推理まで始める程、推理小説にのめり込んでいるのだ。
そうそう、レオやシュミナ、両親とも手紙のやり取りをしている。シュミナの話では、まだ王妃様と第二王子は私を諦めていないようで、領地に乗り込んで来ようとしていたところを、陛下と王太子殿下に止められたようだ。
本当にこの人たちは、しつこいわね。今もシュミナに手紙を書いているところだ。
コンコン
「お嬢様、ちょっとよろしいですか?」
メラが訪ねて来た。
「どうしたの?メラ」
「実は私がお世話になっている人が、この地で孤児院を経営しておりまして。よろしければ一度お嬢様も一緒に、孤児院を見学されてはと思いお誘いしたのですが」
確か孤児院って、身寄りのない子供たちがいる場所よね。
「孤児院に行ってみたいわ。連れて行ってくれるかしら?」
私の返答に、嬉しそうに頷くメラ。
「それじゃあ、早速行きましょうか?」
部屋から出て行こうとした時
「キャンキャン」
チャチャが自分も連れて行けと、吠えながらこっちにやって来た。
「ダメよチャチャ。今から孤児院に行くのよ!あなたが居たら邪魔になるでしょう?」
チャチャを抱きかかえ言い聞かせるが、尻尾を振って喜んでいる。
「お嬢様、チャチャ様を連れて行ってもよろしいですよ。子供たちもきっと喜びますから」
「そう?それなら連れて行こうかしら。よかったわね、チャチャ。あなたも来てもいいって。でも、いい子にしていないとダメよ」
チャチャも連れて、馬車へと乗り込んだ。そう言えば、あまり街中には来たことが無かったわ。街には沢山のお店が軒を連ね、かなりにぎわっている。しばらく進むと、教会の様な場所へと着いた。
「お嬢様、ここですよ」
メラに案内され、中へと入って行く。すると、1人の女性が待っていた。
「よくいらして頂きました。ミシェル様。私はこの孤児院を経営しております、マルサと申します。あら、可愛らしいワンちゃんまで一緒ですか。子供たちもきっと喜びますわ」
「初めまして、ミシェル・ミューティングです。今日はよろしくお願いします」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。さあ、こっちに子供たちがおりますので」
マルサさんに連れられてやって来たのは、広い部屋だ。そこには、ざっと見た感じ、20人くらいの子供たちがいた。
「皆、ちょっとこっちに来て。今日はこの土地の領主でもある、ミューティング公爵家のご令嬢、ミシェル様が来て下さったわよ。皆、挨拶をしなさい」
マルサさんの掛け声で集まって来た子供たち。よく見ると、みんなすごく細い。それに、洋服もボロボロだし。
「キャンキャン」
「コラ、ダメよ。チャチャ」
私の腕から抜け出し、子供たちの方に向かって走って行ったチャチャ。
「わ~、可愛い犬だ。この子、お姉ちゃんの犬?」
チャチャを見た子供たちが、嬉しそうに話しかけて来た。
「そうよ、チャチャって言うの。仲良くしてあげてね」
チャチャをきっかけに、子供たちが私の周りにも集まって来た。
「ねえ、お姉ちゃん。ご本読んで」
「お姉ちゃん、外で遊ぼうよ」
「お姉ちゃん、こっちでおままごとをしよう」
一斉に話しかける子どもたち。どうしよう…
ふと目の前の女の子に目が留まった。5歳くらいかしら。ちょこんと私の膝に座ると、嬉しそうに本を差し出した。
きっと本を読んで欲しいんだわ。
私は皆に聞こえる様に、本を読んであげた。目を輝かせて聞いてる子供たち。
「お姉ちゃん、今度はこのご本読んで。次はこれ」
次から次へと本を持ってくる子供たち。さすがに疲れたわ。よく見ると、私と同じくらいの年の子もいるけれど、この子達は本を読んであげないのかしら?
しばらく本を読んでいると、メラとマルサさんに呼ばれた。私が席を立つのを見て、急いで飛んでくるチャチャ。
「チャチャ、あなたは遊んでいてもいいのよ」
そう言ったが、私から離れないので仕方なくチャチャも連れて席を立った。
「ミシェル様、子供たちの相手をして頂き、ありがとうございます。スタッフは私ともう1人しかおりませんので、どうしても手が回らなくて…」
「2人で子供たちの面倒を見ているのですか?それにしても、ここの子供たちは随分と痩せているのですね。それに服も…」
しまった、余計なお世話よね。途中まで言いかけて、慌てて口を押えた。
「いいのですよ。経済的に厳しくて、十分な食事を与えてあげられないのです。それに洋服も、市民から善意で頂いておりまして…」
何ですって?お金が無くて満足な食事が出来ないですって!だからみんながやせ細っているのね。
「お嬢様、旦那様にこの状況を訴えてはいるのですが、何分王都にいらっしゃるため、中々現状が把握できない様なのです。ですから、お嬢様に現状を見ていただき、旦那様に働きかけて頂ければと思いまして…」
なるほど、だから私をここに連れて来たのか。
「1つ聞きたいのですが、領地内には他にもこのような孤児院はあるのですか?」
「もちろんございます。どこの孤児院も、経営状況は非常に厳しいのです。今のままでは、子供たちに満足な食事も与えられません」
なるほど。
「わかったわ。早速お父様に相談してみるわ。それと私に出来る事があったら何でも言って。出来る事はやるから」
「ありがとうございます!それでしたら、子供たちに文字や簡単な計算を教えていただけないでしょうか。大人になって孤児院を出ても、文字の読み書きや計算が出来ず、満足な仕事にありつけない者も多いのです。そう言った者たちは、どうしても犯罪に手を染めてしまう事も多くて…」
「わかったわ。私で良ければ、文字や計算を教えるわ」
「ありがとうございます。お嬢様」
涙を流すマルサさん。それにしても、私は領地の事を全然わかっていなかった。当たり前のように美味し食事を食べ、奇麗な服を着て過ごす。でも、この地にはそれが当たり前に出来ない子供たちも大勢いるのね。
そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。
「メラ、今すぐ便箋と封筒、ペンを準備して。早速お父様に手紙を書くわ」
「今からですか?」
目を丸くするメラ。
「そうよ、早い方がいいでしょう」
私の言葉を聞き、急いで便箋と封筒、ペンを持ってきたメラ。早速お父様に、孤児院に行って感じた事、飢えで苦しむ子供たちがいる事、そんな子供たちを助けて欲しい旨を便箋一杯に書いた。
手紙を書いた後は、再び子供たちの元へと戻った。
私が戻ると、嬉しそうに飛んできた子供たち。その日は夕方まで、子供たちを目いっぱい遊んだ。
また来ると約束をして、孤児院を後にした。
「メラ、今日は孤児院に連れて行ってくれてありがとう。私、あんな子たちがいるなんて、全く知らなかったわ。なんだか今まで、のうのうと生きて来た自分が恥ずかしいわ」
「そんな事はありませんよ!私たちの意見にしっかり耳を傾けてくださいました。令嬢の中には孤児院を嫌い、見学すらしない人も多いのです。」
確かに1度目の生の時の私なら、絶対来ない場所だものね。それにしても、あの子たちは何をしてあげたら喜ぶかしら?そうだわ、今度お菓子を作って持って行こう。きっと喜んでくれるはず。
お菓子の腕も上達するし、子供たちも喜ぶし、一石二鳥ね。未来の私の旦那様レオだといいなが領地を継ぐ頃には、もっと住みやすい街にしたい。子供たちが笑顔で暮らせるような街に。
その為にも、私が今出来る事を精一杯しよう。そう思ったミシェルであった。
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