第27話 領地での生活を満喫します

領地に来て1週間、一緒に来ていたお母様が帰る日を迎えた。




「ミシェル、メラのいう事をしっかり聞いて、いい子にしているのよ」




「ええ、大丈夫よ。お母様も元気でね」




私をギューッと抱きしめると、お母様は馬車へと乗り込んでいった。




ついにお母様も帰ってしまったのね。なんだか寂しいわ…


そう思いながら、自室に戻り本を読む。ちなみに領地にも書庫がある。




コンコン




「お嬢様、せっかく天気がいいのです。お外に出られたらいかがですか?」




ルシアナが話しかけてきた。




「そうね。でも、何をしようかしら?」




「領地には、沢山の動物を飼育しているのですよ。せっかくなので、動物を見に行ってはいかがですか?」




動物か。そう言えば私、写真でしか動物って見た事が無いのよね。




「わかったわ。見に行くわ」




ルシアナに連れられて、牧場へと向かった。ここには沢山の牛やヤギたちが飼育されていた。




「ルシアナ、見て。沢山牛がいるわ。あっちにはヤギがいるわ。ねえ、どうしてあの犬はヤギを追いかけているの?」




初めてみる生の動物に大興奮だ!




「あれはヤギがどこかに行ってしまわない様に、犬が監視しているのですよ。お嬢さん」




話しかけてきたのは、見た事のないおじさんだ。誰だろう?




「お初にお目にかかります。私はこの牧場を経営している、イザックと申します。どうぞお見知りおきを」




なるほど、この牧場の経営者さんだったのね。




「私はミシェル・ミューティングです。イザックさん、よろしくお願いします」




私が挨拶をすると、なぜか目を丸くするイザックさん。私、おかしな事を言ったかしら?




「申し訳ございません。公爵家のご令嬢だとは思わなくて!」




そういう事か。




「そんなに恐縮しないで下さい。本物の動物を見るのが初めてなの。色々と教えてもらえると嬉しいのですが」




私の言葉にさらに目を丸くするイザックさん。




「こんな私にも、気軽に話しかけて下さるなんて!私でよければ、ぜひ何でも聞いてください!」




なぜか鼻息荒く詰め寄って来るイザックさん。その後、イザックさんに色々と説明を受けながら、牧場を案内してもらった。






「キャンキャン」




鳴き声の方を見ると、子犬がこちらに向かって走って来た。嬉しそうに私に飛びつく子犬。




「まあ、なんて可愛いのかしら?」




そう言って抱きかかえると、ペロペロと顔を舐めて来る。くすぐったいけれど可愛い!




「申し訳ございません、お嬢様!こいつは今年生まれた子犬なのですが、やんちゃものでして」




明らかに慌てているイザックさん。




「それにしても可愛い子犬ね。名前はなんて言うのですか?」




「まだ名前は無いのです。実は貰い手を探しておりまして」




貰い手を探しているですって!




「ねえ、イザックさん。この子私に頂戴!大切に育てるから!」




「お嬢様!また勝手なことを!」




隣でルシアナが怒っている。




「あら、私はレオともシュミナともお父様ともお母様とも離れて、この地でたった1人で生活しているのよ。可哀そうだと思わない?」




「確かにそうですが…」




「それじゃあ、あなたは今日から私の家族ね。名前は、そうね。茶色い毛並みをしているから“チャチャ”にするわ。よろしくね、チャチャ」




私が名前を呼ぶと、嬉しそうに顔を舐めるチャチャ。本当に可愛いわ!




その後も色々な動物たちを見て回った。ふと奥の方を見ると、馬を上手に乗りこなしている人が目に付いた。




そうだわ!




「ルシアナ、せっかく領地に来たのですもの。私も馬に乗れるようになりたいわ。ね、お願い」




私の言葉を聞き、ため息を付くルシアナ。




「わかりました。公爵家にも馬がおりますので、その馬で練習しましょう」




やったわ。




色々と案内してくれたイザックさんに別れを告げ、公爵家へと戻る。もちろん、チャチャも一緒だ。




「お嬢様、自分でチャチャ様を飼いたいと言ったのですから、ちゃんとチャチャ様の面倒を見るのですよ。わかっていますか?」




「もちろんよ、ね、チャチャ」




私の膝で眠るチャチャに話しかけたが、もちろん返事はない。




屋敷に戻ると、チャチャを見てメラやエレナはびっくりしていたが、それでも温かく迎えてくれた。どうやら2人共動物が好きなようだ。




エレナに至っては




「チャチャ様は小さくて可愛いですね」




そう言って、嬉しそうに抱っこしていた。




翌日




早速乗馬の訓練が始まった。




「お嬢様、今日から乗馬を教えさせていただく、アドレイです。どうぞよろしくお願いします。まずは、馬と仲良くなることから始めましょう」




そう言ってアドレイが1頭の馬を連れて来てくれた。




「こいつは雌の馬で、名前はアンです。お嬢様、こいつを撫でてやってください」




馬って近くで見るとこんなに大きいのね。恐る恐るアンを撫でた。意外と大人しいのね。




「アン、私はミシェルよ。よろしくね」




そう言ってさらに撫でてあげた。




「お嬢様、もしよろしければ、ブラッシングをしてみませんか?アンはブラシで撫でられるのが大好きなのですよ」




「わかったわ、やってみる」




アドレイに教えてもらいながら、アンにブラッシングをしていく。気持ちいいのか、じっとしているアン。可愛いわね。




「お嬢様、アンの後ろには行かないで下さいね。蹴られたら大変だ」




ブラッシングに夢中で、無意識にアンの後ろに行こうとした私の腕を掴んだアドレイ。




「ごめんなさい。気を付けるわ」




ブラッシングの後は、いよいよアンに乗ってみる。




アドレイに手伝ってもらい、なんとかアンにまたがる事が出来た。それにしても、随分高いのね。アドレイに後ろから支えてもらいながら、ゆっくりアンを歩かせる。最初は怖かったが、だんだん慣れて来た。




「お嬢様、今日はこの辺にしておきましょう。それにしても、お嬢様は素質があるのですね。初めてでここまで乗れるなんて凄いですよ」




そう言って褒めてくれるアドレイ。お世辞かもしれないが。褒められるのは嬉しい。




そうだわ!




「アドレイ、乗せてもらったお礼に、アンをブラッシングしてあげたいのだけれど、良いかしら?」




「もちろんですよ、アンもきっと喜びますよ」




アドレイに許可を得て、再びアンをブラッシングをしていく。ブラッシングが終わると




「アン、今日はありがとう。また明日ね!」




そう言って、屋敷に戻った。屋敷に戻ると、チャチャが嬉しそうに飛んでくる。




「チャチャ、ただいま。いい子にしていた?」




チャチャを抱きかかえると、顔をペロペロ舐めるチャチャ。本当に可愛いわ。




その後はチャチャと遊び、夜ご飯を食べ湯あみを済ませたら、チャチャと一緒にベッドに入った。




「お嬢様、チャチャ様がおしっこをするといけませんから、別々で寝てください!」




そう言ってチャチャを連れて行くルシアナ。せっかくチャチャと一緒に寝ようと思ったのに。




チャチャも私と寝たい様で、ルシアナの腕から抜け出し、ベッドに潜り込んできた。




「コラ!チャチャ様!」




怒るルシアナが怖いのか、私にすり寄って来るチャチャ。




「ルシアナ、チャチャが怖がっているわ。チャチャはまだ子供なのよ。そんな鬼みたいな顔で怒ったら可哀そうよ」




「誰が鬼ですって!もう、チャチャ様におしっこをされても知りませんからね!」




プリプリ怒りながら部屋から出て行くルシアナ。




「チャチャ、良かったね。これで一緒に寝られるよ」




ベッドに横になると、私の側で丸くなるチャチャ。それにしても、領地ってこんなに楽しいのね。そうだわ、チャチャやアンの事、早速シュミナに伝えないとね。




今日は慣れない乗馬で疲れたわ。




ゆっくり目を閉じたミシェルは、あっという間に眠りに付いたのであった。

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