第30話 チャチャがいなくなった
翌日、早速シュミナと一緒にアンに会いに行った。
「この子がアンよ。可愛いでしょう」
馬を見るのは初めてのシュミナは、明らかに驚いている。
「ここを撫でてあげると仲良く出来るのよ」
私がアンの顔を撫でるのを見て、恐る恐る撫でるシュミナ。
「この子大人しいのね、確かに可愛いわ!」
そうって微笑むシュミナ。その後はシュミナと一緒にアンに乗った。もちろん、私が後ろでしっかりシュミナを支えている。最初は怯えていたシュミナだったが、だんだん慣れて来た様で
「ミシェル、めちゃくちゃ気持ちいいわ。私も1人でアンに乗れるようになりたいわ」
そう言ってくれた。
「それなら家の領地にいる間に、乗馬をマスターしたら?2週間もいるのだもの、きっと乗れるようになるわ」
私の提案に嬉しそうに頷くシュミナ。
とにかくシュミナと過ごす日々は楽しくてたまらなかった。
一緒に森に出掛けて木の実を取ったり、お菓子を作ったり、孤児院に行ったりと、かなり充実した毎日を過ごした。
もちろん、一緒に本も読んだ。最近は推理小説にはまっていると話すと、シュミナまで推理小説を読み始めたのだ。
「ミシェル、推理小説ってこんなに面白いのね。教えてくれてありがとう」
そう言って、喜んでくれたシュミナ。
ちなみに乗馬の方だが、シュミナは何でも器用にこなす為、1週間もしないうちに、1人でアンを乗りこなせるようになった。最後の方には、2人で馬に乗って、ピクニックにも出かけた。
もちろん、孤児院の子供たちからの人気も絶大だ。
「シュミナお姉ちゃん。シュミナお姉ちゃん」
と、なぜかシュミナの方ばかりに子供たちが行くのだ。私もいるのだけれど…そう思いつつも、嬉しそうな子供たちを見ていると、私も嬉しくなる。
まだまだ支援は行き届いていないけれど、大分改善されてきたとマルサさんが言っていた。
そんな日々を過ごしているうちに、気づけば2週間が過ぎていた。ついに今日、シュミナは王都に帰ってしまう。
「ミシェル、とても楽しかったわ。ありがとう。また絶対遊びに来るからね」
「こっちこそ、来てくれてありがとう。また絶対来てね。手紙書くから」
馬車の中から手を振り続けてくれるシュミナに、私も手を振り続けた。
シュミナも帰ってしまい、また1人だ。お父様が帰った時より、衝撃が大きい。今は何もする気になれず、1人静かにベッドに倒れ込んだ。
しばらくすると、ルシアナが凄い勢いで飛んできた。
「お嬢様、大変です!チャチャ様がいなくなりました」
「えっ?チャチャが?」
「はい、屋敷中探しましたが、姿が見えないのです」
何ですって?
「私も探すわ。申し訳ないけれど、ルシアナももう一度屋敷内を探してみて」
チャチャ、あなたまで私の側を離れていくの?そんなの嫌よ!
部屋を飛び出すと、チャチャがいつも遊んでいる中庭へと向った。
「チャチャ、チャチャ、どこにいるの?」
必死に叫ぶが、返事がない。
屋敷は皆が探してくれているから、他の場所を探そう。そう思い、アンがいる馬小屋を探したが、ここにもいない。もしかして、森に行っているのかしら?
急いで森に向かった。森の奥にはクマやシカなどもいる。比較的体が小さいチャチャが、もし大きな動物に出くわしたら…
考えただけでも寒気がする!
「チャチャ、チャチャ!どこにいるの?チャチャ」
何度叫んでも、チャチャの姿はない。普段なら私の声を聞くと、真っ先に飛んでくるのに、一体どこに行ってしまったのかしら!
「お嬢様、こんなところにいらしたのですね。チャチャ様は見つかりましたか?」
「いいえ、見つからないの。もしかしたら、森の奥まで行ったのかもしれないわ」
私が森の奥に入ろうとした時、ルシアナに止められた。
「お嬢様、森の奥は危険です。猟人たちを雇って、至急森の奥を探させますので、お嬢様は一度お屋敷にお戻りください」
ルシアナに連れられて、屋敷に戻って来た。
屋敷に戻ってからも、考える事はチャチャの事ばかり。私がもっとしっかり見ていれば、こんな事にはならなかったのに…
そう思ったら涙が溢れてきた。
「チャチャ、どこに行ったのよ!お願い、帰って来て…」
その時だった。
「お嬢様、チャチャ様が見つかりました」
「本当?」
「はい、急いで玄関までいらしてください」
ルシアナの言葉を聞き、急いで玄関へと向かう。そこには、私にチャチャを譲ってくれたイザックさんに抱っこされたチャチャがいた。
「チャチャ!あなたどこに行っていたの!心配したのよ」
イザックさんからチャチャを受け取ると、ギューッとチャチャを抱きしめた。本当に無事でよかったわ。
「お嬢様、チャチャ様は街中をウロウロと歩いていたところを、私の友人に保護されたのです」
「街中をですか?チャチャ、どうしてそんなところに行っていたの?」
私の問いかけに、尻尾を振って顔を舐めるチャチャ。
「お嬢様、もしかしてシュミナ嬢を追って行かれたのではないですか?チャチャ様は随分と、シュミナ嬢に懐いておりましたので」
なるほど。確かにシュミナの馬車は、街を通って帰るわ。
「それにしても、勝手に出て行ってはダメでしょう。皆どれほど心配したと思っているの!」
チャチャを叱ってみたものの、首を傾げている。
「でも困ったわね。こんな風に勝手に出て行かれては…毎回大捜索する訳にもいかないし。鎖で繋ぐのも可哀そうだし」
さて、どうしたものか…
「お嬢様、それでしたら、犬笛をお使いになったらどうでしょう」
「犬笛?」
「そうです、この笛は犬のみに聞こえる音を出す特殊な笛でして、遠く離れた場所にいても、この笛を吹けば必ず飼い主の元に戻ってくるのですよ」
「まあ、そんな便利な笛があるのね。イザックさん。その笛、私に売っていただけないかしら?」
「もちろんです。ただ、訓練が少し必要になりますが、よろしいですか?」
「大丈夫です、お願いします」
その後訓練を受けたチャチャは、どんなに離れた場所に居ようと、ミシェルが笛を吹けば戻ってくるようになった。
ミシェル自身もいつチャチャがいなくなっても大丈夫な様に、いつも首に犬笛をぶら下げておくようになった。この犬笛、貴族学院に入学してからも習慣として首から下げていたミシェル。
犬笛&チャチャが、まさかミシェルを救う事になるとは、この時のミシェルにはまだ知る由もなかった。
~あとがき~
シュミナが大好きだったチャチャは、皆が気づかないうちにシュミナを追って走って行ったものの、街で迷子になった様です。
本人もかなり心細かった様で、その日はミシェルから離れなかったとか。もちろん、ミシェルもチャチャの側にずっといた様です。
1人と1匹にとって、お互い無くてはならない存在になりつつある様です。
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