第25話 ミシェルを守る為なら仕方ない~レオ視点~

王宮のパーティーに参加した翌日、俺は怒りを抑えられずにいた。




「ユーグラテス、昨日の件、どういう事だよ。何でミシェルに近づいた。あれほど近づくなって言っただろう!」




怒りに身を任せ、第二王子でもあるユーグラテスを怒鳴りつけた。




「そんなに怒るなよ、レオ。それにしても、ミシェル嬢は本当に美しいね。僕、彼女が欲しくなっちゃった」




にっこり笑って、さらにふざけた事を言うユーグラテス。




「ふざけるな!ミシェルは俺のものだ!」




「ふざけているのは君でしょう。ミシェルは俺のもの?何度も公爵に婚約を断られているのだろう?そんな状態で、何をどうしたら自分のものだって言えるんだよ。とにかく僕は、ミシェル嬢を手に入れるからそのつもりで」




そう言い残して去っていくユーグラテス。




「ふざけるな!」




ドン!




思いっきり壁を叩いた。何が“ミシェル嬢を手に入れる”だ。ミシェルはあんなにもお前に怯えているんだぞ!絶対にミシェルは渡さないからな!






「レオ、どうしたんだよその傷!血が出ているぞ」




そう言いながら俺の元に駆け寄ってきたのは、侯爵令息のジルだ。ジルはミシェルの親友、ガーディアン嬢が大好きで、猛烈にアプローチしている男だ。




「大丈夫だ!何でもない」




「何でもなくないだろう。ほら、医務室に行くぞ」




ジルに医務室へと連れて行かれ、手当てを受けた。




「そうそう、お前に報告があるんだ。実はやっとシュミナ嬢が俺との婚約をOKしてくれたんだよ。お前にも色々と協力してもらったしな。本当にありがとう。お前も頑張れよ」




そう言って幸せそうに笑うジル。こいつ、ついにガーディアン嬢を手に入れたのか。羨ましい事この上ない。




騎士団の練習が終わると、家に帰り汗を流す。そして、急いでミシェルの家へと向かった。昨日顔色が悪かったミシェルが心配でたまらないのだ。




客間で待っていると、ミシェルがやって来た。どうやら元気そうでよかった。




「レオ、晩ご飯食べていくでしょう?お父様もお母様も待っているわ。一緒に食堂に行きましょう」




そう言って俺の手を握るミシェル。温かくて柔らかい…この手をずっと離したくない!ユーグラテスなんかに、絶対渡したくない!強くそう思った。




それから毎日、ミシェルの様子を見に公爵家に通った。いつも通り笑顔なのだが、なぜか元気がないミシェル。一体どうしたのだろうか。まさか、王宮から結婚の申し込みでも受けたのか?




そんな不安を抱きつつ家へと帰ると、なぜか父上から呼び出された。






「レオ、落ち着いて聞けよ。王妃がミシェルに、第二王子との結婚を申し込んだみたいなんだ」




「何だって!それで、公爵はなんて答えたんだよ!」




俺は父上に詰め寄った。




「落ち着けレオ。公爵ははっきり断ったよ。どうやらミシェルは、第二王子が苦手な様だからね」




「当たり前だ!ミシェルはユーグラテスを見ると、怯えて俺から離れなくなるんだぞ。この事は公爵にも伝えてあるんだ!」




とりあえず、公爵が断ったと聞いてホッとした。それにしても王妃の野郎、ミシェルとユーグラテスを結婚させようなんて、どれだけ図々しいんだよ。




「それが、どうやら王妃は結婚の事を諦めていないようで、公爵にしつこく交渉している様なんだ。あいつも随分参っている様で、最近少しやつれてしまったよ。それで、ミシェルを守る為に、しばらくミシェルを領地で過ごさせる事にしたみたいなんだ」






「何だって!ミシェルを領地に!そんな事をしなくても、俺とミシェルが婚約すれば済む話だろう!」




そうだ、これは絶好のチャンスだ。きっと今なら公爵も、俺をミシェルの婚約者にしてくれるはずだ。こうしちゃいられない、急いで公爵家に向かおう!




そう思い、立ち上がったのだが




「待てレオ。そんな簡単な話じゃない。とにかく、もうすぐミューティング公爵が来るから、少し待っていろ!」




父上に言われ、仕方なく一旦席に着いた。しばらくすると、公爵がやって来た。




「よく来てくれたな。とにかく座ってくれ」




重苦しい顔をしている公爵。




「それで、ミシェルには領地に行く事を話したのか?」




「いいや、まだ話していないよ。中々言い出せなくてね。でも、出来るだけ早くミシェルを領地に行かせようとは思っている」




そう言って力なく笑う公爵。




「おじさん、ミシェルを領地に連れて行かなくても、俺と婚約すればいいだろう!そうすれば、王妃もユーグラテスも黙るよ!」




我慢できなくなって、公爵に向かって叫んだ。




「レオ、ありがとう。でも、今はもうそんな次元じゃないんだよ。王族から婚約を断ってすぐ、お前と婚約してしまっては、王家の面目は丸つぶれだ。そうなると、家やスタンディーフォン家にとっても良くないんだ」




俺を諭する様にそう言った公爵。




「レオ、俺たち貴族は陛下に忠誠を誓った立場だ。そんな俺たちが、王家からの申し出を断って、お前たちを婚約させてしまったら王族共はどう思う?ヘタをすると、謀反を企てているのではと、疑われるかもしれないんだ」




謀反…




そんな疑いを掛けられたら、俺たちはもう貴族として生きていけなくなる。俺は別にミシェルと居られるなら、それでもいいけれど。




「とにかく、貴族学院に入学するまでの間は、領地で生活させるよ。幸い、ミシェルはずっと体が弱い事になっているから、療養のため領地で生活するとなっても、特にみんな疑問は抱かないだろう」




確かにミシェルは、体調が思わしくないと言う理由で、数々のパーティーに欠席してきた過去がある。まあ、ミシェルの素行が悪すぎて、公爵がパーティーに参加させていなかっただけなのだが…




「そうそう、家からも今からお前の家に結婚の申し込みをしようと思ってな」




父上が突拍子もない事を言いだした。こいつ、何を考えているんだ。今さっき、俺たちは婚約できないと言っていたじゃないか。父上はバカなのか?




「は~、お前という奴は…もちろん、お断りだ!」




「わかっているよ。でも、正式に申し込むから、思いっきり断れよ」




正直この2人が何を言っているのか、さっぱりわからない。




「何のつもりだよ。そんな事をして、何になるんだ?」




つい2人に叫んでしまった。




「そんな事も分からないのか、レオ。お前もまだまだだな。いいか、このタイミングで家からも正式に結婚の申し込みを出して断られておくとするだろ。そうすれば、ミューティング公爵家は、どちらの申し込みも突っぱねた事になる。これでお互い、イーブンだ!そしてほとぼりが冷めた頃に、もう一度家から正式にミューティング公爵家に結婚の申し込みをすれば問題ないだろう」






にっこり笑ってそう言った父上。なるほど、一度お互いが断られておくと言う訳か。そう言えば俺が公爵に結婚の申し込みを何度もしているが、家を通していなかったもんな。それで、イーブンになったところで、家がまた結婚の申し込みをすれば問題なく事が進むという事だな。






「それじゃあ、俺をミシェルの婚約者にしてくれるという事でいいのか?」






嬉しくてつい公爵に詰め寄ってしまった。




「う~ん、その時ミシェルがレオと結婚してもいいと言えば、問題ないよ」




何だよ、結局それかよ…




「レオ、大丈夫だ。絶対にミシェルはOKをくれるはずだ。安心しろ、俺が保証する!」




なぜか自信満々の父上。そうか、俺と結婚しなければ、ユーグラテスと結婚する事になるぞと脅せば、きっとミシェルもOKを出してくれるはずだ。




「わかったよ、おじさん!でも、俺が結婚を申し込むまで、絶対にミシェルを他の男と婚約させないでよ!ミシェルは俺のものなんだから!」




俺の言葉を聞き、苦笑いする公爵。




「ハハハハハハ。やっぱりお前と俺は家族になる運命なんだな」




笑いながら公爵の肩を叩く父上。どうやら、父上も俺とミシェルが結婚すると信じている様だ。




ミシェルにしばらく会えなくなるのは正直辛い。でも、これでミシェルとの結婚が大きく近づいたぞ。そうだ、定期的にミシェルに会いに行こう。




ミシェル、待っていろよ。絶対お前を俺のものにして見せるからな!

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