第24話 領地に避難する事になりました

王妃様のお茶会をお断りしてから数日が経った。一応私は体調が悪い事になっている為、家で大人しく過ごしている。




そんな中、シュミナが様子を見に来てくれた。




「シュミナ、いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ!」




「ミシェル、お父様から聞いたわ。王妃様から結婚の申し込みがあったのですってね」




侯爵令嬢でもあるシュミナ。さすがに情報が行っていた様だ。




「そうなの、とりあえずお父様には断って貰ったのだけれど…」




「どうしたの?何か問題でもあるの?」




「実は王妃様は私と第二王子との婚約を諦めていないようで、王妃様からお茶に誘われたの」




「それって、間違いなく第二王子様もいるわよね」




さすがシュミナ、鋭いわ。




「お母様も同じ事を言っていたわ。とにかく、私の体調が良くないという事で、断って貰ったのだけれど…」




「それは厄介ね。いつまでも体調が悪いと言い続ける訳にもいかないだろうし」




シュミナの言う通りだ。きっと今後も何度もお茶に誘われるかもしれない。そのたびに、体調が悪いと言い続けるのは、さすがに無理がある。




つい「は~」っとため息が出てしまった。




「ミシェル、こんなところで落ち込んでいても仕方がないわ。久しぶりに、お菓子を作りましょう。そうだわ、美味しい苺を持ってきたの。苺ケーキを作りましょうよ」




今はそんな気分じゃないの、そう断ろうと思ったのだが、シュミナに調理場へと連れて行かれた。




家の調理場によく顔を出すシュミナは、料理人たちともすっかり仲良しだ。




「ケーキを作りたいから、厨房をお借りするわね」




そう言って、早速調理を開始するシュミナ。




「ほら、ミシェルもボーっとしていないで、卵を割って」




シュミナに言われ、仕方なく卵を割ってかき混ぜた。




「次はバターを湯煎してね。小麦粉をふるいにかけるのも忘れないでよ」




次々と指示を出していくシュミナ。最初は乗り気ではなかったが、やっぱりお菓子作りは楽しい。だんだん調子が出てきた。




「シュミナ、せっかくだから、苺をちょっと可愛くして見ない?」




「それいいわね。顔なんて作るのはどう?」




そう言って器用に顔を作ったシュミナ。さすがだわ!私はと言うと…




「シュミナ、これ顔に見える?」




私の作った顔つき苺を苦笑いで見つめるシュミナ。後ろでシェフ達も、苦笑いしている。




そんなこんなで何とかケーキは完成した。もちろん、2人でおいしく食べた。いつの間にか憂鬱だった気持ちも吹き飛び、いつもの様にシュミナと他愛もない話で盛り上がった。






「そうそう、私ね。婚約する事になったのよ。相手はもちろん、ジル様よ」




「シュミナ、ついに決意したのね!おめでとう」






実はシュミナには、以前から猛烈にアプローチしている男性がいた。その人は私たちと同い年で、レオの騎士仲間でもある侯爵家の嫡男、ジル・ディープソン様だ。9歳の時に見に行ったレオの試合で、シュミナに一目ぼれしたジル様。




シュミナの兄でもあるディカルド様を通して、猛烈アプローチを受けていたのだ。レオに頼まれて、4人で遊びに行った事もある。




そんなジル様の思いが、やっとシュミナに通じた様で私もとても嬉しいわ。




「シュミナ、本当におめでとう!結婚式は絶対呼んでね」




「もう、ミシェル!気が早いわよ」




そうって頬を赤らめるシュミナは、本当に可愛い。思いがけない親友の幸せな話を聞けて、なんだか心がほっこりした。




私もレオと結婚出来る様に、頑張らないとね。




そう言えば王妃様が我が家に第二王子との結婚を申し込んできた事を、シュミナの家が知っているという事は、間違いなくレオの家にも伝わっているわよね。




最近毎日レオは家に来ているけれど、特に何かを言って来てはいない。もしかして、レオの耳には入っていないのかしら?それとも、興味が無いのかしら。




どちらにしても、レオから直接何か言ってくるまで、私からその話題を出すのは止めよう。








数日後




再びお父様に呼び出された。正直お父様に呼び出されると、物凄く心臓がドキドキする。もちろん、悪い意味でだ。




「お父様、お呼びですか?」




「ミシェル、そんな嫌そうな顔をしないでくれ」




どうやら無意識に嫌な気持ちが顔に出ていたらしい。でも嫌なものは嫌なのだから、仕方がない。そう思いながら、お父様とお母様の向かいの席に座った。




「ミシェル、しばらくの間、お前を領地で過ごさせる事にした」




「え?領地に?」




あまりにも急な話に付いて行けず、口をポカンと開けて固まってしまった私。




「実は毎日王妃がしつこくてね。ついに今日、王妃と第二王子がお前のお見舞いに行きたいと言い出したんだ。もちろん、王妃と第二王子が一貴族令嬢のお見舞いなんてとんでもないと、陛下が止めたのだが、いつ強硬で来るかわからない。それで、体調悪化による休養の名目で、しばらく領地に避難させることにしたんだよ」






「領地に避難だなんて、そこまでする必要はあるの?それじゃあ、シュミナやレオとしばらく会えなくなるじゃない!」






王都から家の領地までは、馬車で丸2日。確かに領地に行けば、第二王子には会わなくてよくなる。でも、レオやシュミナと会えなくなるのは嫌だわ。




「ミシェル、お前を守る為なんだ。分かって欲しい!とにかく、学院に入学するまでは、領地で過ごしなさい。分かったね」




ショックで俯く私の元へお母様がやって来た。




「シュミナちゃんやレオには、定期的に領地に遊びに来てもらえばいいでしょう。手紙だって書けばいいのだし。もちろんお母様だって、ミシェルに会いに行くわよ」




そう言って微笑むお母様。




「わかったわ。それで、いつ出発するの?」




「早い方がいいからね。明日出発しようと思っている」




明日…そんなに早く…




「わかったわ。でも、シュミナやレオに挨拶をしてから行きたいわ」




「もちろんだ。ミシェル、私の力不足ですまない」




そう言うと、俯いてしまったお父様。




「そんな顔をしないで。私の為を思っての事だもの。お父様、いつも私を守ってくれてありがとう」




そう言って、お父様に抱き着いた。そもそも私をわざわざ領地に行かせるなんて、きっと王妃様はかなり強引なのだろう。




ある意味領地に避難できるという事は、いい事なのかもしれないわ。そうよ、私の目的は家族やレオを守る事。その為に領地に行くと思えば、どうって事ないわ。




とにかく、第二王子から離れる事が先決よね。

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