File 31: Head Conference
場所はCPA、第一会議室。
そこには捜査官のヘッドたちが一様に集められていた。
年に数回ある定例会議。
キッカの付き添いとして初めてその場に居合ったヒバナは、貫禄のある面々に身震いする。
ヘッドはキッカを含め、全部で5人いた。
各々、付き添いをつけているので、大きく向かい合う形のテーブルには総勢10人が座っているという状況だ。
「おい、副長官はまだなのか。定刻は過ぎたぞ。早く超能力者を殺しに行かせろ」
I課のヘッド、木島サスケがぼやいた。
小皺の刻まれたナイスミドルだが、目がかなりキマっており、一目で狂人の類だと分かる。
「いつものことですし、まあ、のんびりいきましょう。どなたか、ちょうどいい話題はありますか」
宥めたのはIII課のヘッド、如月レン。
和服に身を包んだ、綺麗な女性だ。少なくとも20代以上ではあるだろうが、年齢は不詳。落ち着き払った所作の節々から、どことなく優雅さと気品を感じられる。
「それなら言いたいんですけど。もう少し何とかならないんですか、この業界の人手不足。俺のとこの捜査官、連勤で死にかけで」
IV課のヘッド、天城トウマが嘆いた。
丸刈り頭に鋭い目つき。真一文字に結んだ口元と、きっちりアイロンをかけ、整えられた濃紺のスーツから実直さが際立っている。
「そりゃしょうがないでしょう、天城さん。超能力者の存在の秘匿はウラ・東京条約で定められていますし、効率的には中々、ね」
その発言を受け、V課のヘッド、綾小路・アダムス・タクヤが口を開く。
ピアスにツーブロックと派手な見た目だが、ヘッド随一の頭脳派であり、口調や仕草に知性が宿っているのは言うまでもないない。アフリカ系と日本のハーフであり、6ヶ国語を堪能に話すという噂もある。
そんな個性の強いヘッドたちの話し合いを、キッカは黙って聞き、副長官の到着を待つ。
しばらくして、会議室の重い扉が開き、ロン毛の怪しい男が現れた。
真っ黒なラウンドサングラスと、暑苦しいカーキのコート、まだらな無精髭、そしてやけに明るいニコニコとした表情が特徴的な男だ。
彼は部屋に入ってくるやいなや、
「そーりーそーりー! いや、ちょっと立て込んでてね! ……って、お? 君、新人かな?」
ヒバナの姿を見つけると、握手を求めてきたので、おそるおそる握り返す。
そのままブンブンと手を振り回され、あまりの元気のよさに少し気圧された。
「やー、よろしくね。僕は副長官のケン。気軽にケンちゃんって呼んでね」
「初めまして。武本ヒバナです」
ヒバナの名を聞くと、副長官は「お」と何かに思い至り、
「そうかそうか。君がヒバナくんか。なるほどね」
「……?」
「何でもない。まあ、気にしないで」
気にしないでいいと言われたら、気になってしまうのが人間の性だ。
が、そんなことはつゆ知らずといった感じで、副長官は意気揚々とスクリーンの前に立ち、
「さあ、早速会議を始めよう。ヘッド諸君。忙しい中、今日こうして集まってもらったのは他でもない、新宿の情勢に関してだ」
新宿という言葉が出た瞬間、部屋の空気がピリつく。
「ご存知の通り、あそこは今や超能力者の巣窟だ。もちろん無能力者の民間人もいるにはいるが――治安が悪いことには変わりない。特に最近はきな臭くてね」
「『シヴァ』と『PRESENT』の抗争ですか」
I課のヘッド、木島が補足すると、副長官は頷き、
「そう。どうやらその2つは近々やり合うらしい。伴って、色々と勢力図が変わっているみたいだ。まあ、それだけなら勝手にしてろって感じだが、厄介な事件が起こっていてね」
副長官の背後のスクリーンに、映像が流れる。
そこにいるのは、2人の青年。
そのうちの一人は生首を高々と掲げ、監視カメラに向かって何やら叫んでいる。
もう一人の手には立派な日本刀。
とにもかくにも、凄惨で異常な光景と言えるだろう。
「こいつらは……A級超能力者のカズとモグリ」
V課のヘッド、綾小路が顎に手をあて、静かに呟いた。
「ああ。危険度の高い超能力者が、新宿の外に出てきている。この挑発を見過ごすわけにはいかないだろう」
A級となると、S級の次に危険度が高いということになる。相当な手練れであり、殺すのは至難の業だ。
「それで、どこの課が受け持つんですか」
IV課のヘッド、天城が尋ねる。
「今空いているのはI課とII課、無理矢理空ければV課も行けそうだな」
「まずはII課が適役でしょう。カズの能力は『影に潜ることができる』というもの。彼らは逃亡が得意です。その点、II課には遠隔系の能力者が揃っている」
如月が提言すると、木島が首肯した。
「俺もその意見に賛成だ。んで、II課だけでダメそうだったら、次は俺たちも加わろう。少しムカつく奴がいてな。そっちを優先させてくれ」
I課もV課も何かと忙しいようだった。
これだけ危険な奴が出てきて人数を割けないのは歯痒いが、仕方がない。
ちょうど空いているのは必然的にII課しかなく、
「いけるか、キッカちゃん」
副長官の言葉に、キッカは表情を崩さないまま、
「はい」
と端的に答える。
「よし、じゃあ決まりだ。あとは各々に任せる。会議は以上、閉廷! これからは超能力者の活動がより不穏になるだろう。皆、くれぐれも注意するように。では、アデュ〜」
ケンちゃんこと副長官は、一仕事終わったと見切りをつけるや、風のように会議室を去って行った。
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