第2話
ただ、紀子がいなくなる数日前。
彼女が変な事を言っていた事は覚えている。
「前から思ってたんだけど、あの焼却炉横に置いてある扉ってなんだろ?」
昼休みか放課後か、いつかはもう思い出せない。女子グループの中で輪になって話をした時、不意に、紀子からそんな話題が出た。
「扉?」
輪に入っていた内の誰かが聞き返した。
「そうそう。赤色の、木製のやつ」
焼却炉は、体育館の横にある。正確に言えば、運動部専用女子更衣室がある棟の、少し離れたところだ。私は運動部どころか文化部にも所属していないので焼却炉なんぞとは何の縁もなく、当然、寄り付く機会もないので何が置かれているとかも知らない。
紀子の話によると、一週間位前からその「木製の赤い扉」が置かれているのだという。
その詳しい形状を聞くに、どうやら扉単体ではなく木枠、蝶番とセットで放置されているようだ。扉自体に覗き窓、すりガラスがはめ込まれていたりはしておらず、もしかしたら洋風ドアのアンティークみたいなものかもしれない。
ドラえもんに出て来る「どこでもドア」みたいなものだろうか。
きっと、演劇部が何かの演目で大昔に使用した大道具なのだろう。使い古されいらなくなった末に焼却処分専用のごみ置き場に置かれているのだ。話を聞いてそう思ったのだが、紀子と同じバスケ部の女子が怪訝そうな顔で紀子に尋ねた。
「焼却炉の横にそんなのあったっけ?」
「えっ。あんな目立つのに気付いてなかったの?」
「うーん。私はわからなかったなぁ。ねぇ、そんな扉って置いてあった?」
紀子以外の女子は、私含めて皆かぶりを横に振った。
輪には他の運動部に所属している子も数人いたが、何だそれと言わんばかりに「?」が頭上に浮かんでいる。つまり、その「木製の赤い扉」というのは紀子しか見えていないという事になる。
「ふうん。まあいいか」
本人も細かい事は気にしない質で、これ以上その扉の話が発展することはなかった。
私自身もあまり気に留めず、実際に私がそれを目にするまではその話自体忘れていたくらいだ。
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