The melancholy of Cupid
新入生もそろそろ
SOS団はなんの変わり映えもしない、はっきり言えばマンネリ化だな。昔に流行ったタイトルをリメイク、リキャストして出しなおす英雄モノの映画みたいに、去年のイベントに手を替え品を替え再利用しているのが、今日この頃のハルヒだ。さすがのお前もそろそろネタ切れか、ハルヒ。
俺はといえばあの事件以来、たまにだが、
たとえば日曜の朝、本を買いにでかけようと玄関で靴を
こんな感じで、消去法でいくと
休みの日に
休日の朝、電話をかけると
一度ゲーセンに行ったときには、
無駄のない動き、
俺はゲーマーの群れから離れて、ひとり缶コーヒーを何本か飲みながら暇を持て余していた。UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみを手持ち
二時間くらいしてやっと終わり、
それから
「じゃ、またな」
「……」
俺も別れを惜しんだりしないし、
二人とも極めてドライだった。他人が見れば、兄と妹だと思っても違和感はないくらいにカラリとした付き合いだった。俺はこんな、お互いになんの
ところがそうは思わなかったやつがいた。
「キョン、谷口に聞いたんだけど、あんた
俺は飲んでいたお茶を噴いた。
「な、なにを根拠にそんなでっち上げを!?」
だが予想はしていたことかもしれない。なにもやましいことはないはずなのに、俺は妙にうろたえた。
「あんたと
「でっち上げだ!
「なにムキになってんの。なんでもないならいいじゃないの」
「……わたしたちに特別な関係はない」
「まあ、キョンが誰と付き合おうが自由だけどね」
ハルヒが横目にお茶をすすりながら言った。内心ほっとした。というかまわりから見れば、俺と
話はそれだけでは終わらない。
翌日俺が部室のドアを開けるなり、ハルヒが叫んだ。
「キョン、
「なんなのよ、その目と目で暗黙の示し合いは」
ハルヒのイライラ度
「昨日あんたが
うわ……まじか。俺は自宅前で
「付き合ってるというわけでもなくてな。いやまあ、ときどき一緒に図書館に行ってる程度なんだが……」
「一人暮らしの女の部屋に上がりこむのはね、世間では付き合ってるって言うのよ」
「お前にとやかく言われる
「あたしが言ってるのはね、あたしに嘘をついてまで付き合ってるのが気に入らないってことよ!」
俺には取り付く島がなかった。
「SOS団は、あたしはいったい何なの、ただの同級生?見せかけの信頼関係だったの?」
「たまにいっしょに出かけるくらいで、お前が考えてるような関係じゃないんだけどな」
「じゃあなんで嘘をついたのよ」
「いやなんというかな、ハルヒ、俺は別に悪気があったわけじゃ……」
どうにもごまかしようのない事態になってきた。
「
「……わたしは間違ったことはしていないし、言ってもいない」
「
「……」
「ハルヒ、言い過ぎだぞ。
「なによ、事実上SOS団のメンバーじゃないの。あたしは団長よ。上司の言うことは絶対なのよ」
「お前、もうちょっと大人かと思ってたが全然ガキじゃないか」
「あたしに向かって嘘をつく団員なんかクビよ!」
「
「もう、その辺で」
「気分悪いわ。今日は帰る」
ハルヒはカバンをひっつかんでドタドタと出て行った。ガラスが割れそうな勢いでドアを閉めた。壁の粉がパラパラと落ちた。
「お気持ちは分かりますが、ここは暴走させない方向でお願いします」
「んなこた言われなくても分かってるさ。だがいったいいつになったらハルヒは大人になるんだ」
「待つしかありません。しかし今回の件はあなたに責任がある」
「俺が誰と付き合おうとあいつの許可はいらん」
っていうか、付き合ってるわけじゃないのに俺。
「ですが、嘘は
「それに何だ」
「
「ハルヒが
「前にあなたが
思い出したくもない……あれは悪夢だ。
「あれは
「まったく……。ハルヒは俺のタイプじゃない」
「なにも恋愛しろと言っているわけではないんです」
いまいましいことに俺は
「あなたの言動は
「じゃあ俺は死ぬまでハルヒの子守りをしなきゃならんのか」
「そうです」
なんてこった。俺は頭を抱えた。
「ですが、徐々に環境を変えていくことはできます。たとえば将来、あなたが別の誰かと結婚することになっても、
「ハルヒは嫌いじゃない。だがときどき俺の手にあまることもあるんだ。俺自身の人生は俺が決めてもいいだろう?」
なぜか弱腰だ。
「もちろんです」
そのとき、誰かの携帯が鳴った。俺ではなく
「どうやら
「そうか。すまんな」なんで俺が謝るんだ。
「できれば僕がとりなしておきますよ。明日また会いましょう」
しかしまあ、恋愛のレの字もないのに恋愛
その日は結局、
次の日、俺はなんとかハルヒと和解しようと試みたんだが、ずっと無視されっぱなしで立つ瀬がなかった。ハルヒをなだめたりすかしたりするなんて、俺もうこんな人生いやだ。
その日、ハルヒはとうとう部室に来なかった。当然、
「僕にも立つ瀬がありません」
── 聞いた話になる。
「
「なにが言いたいの。愛の告白なら間に合ってるわ」
「そうではありません。僕たち、というのはSOS団のメンバーのことです」
「それがどうかしたの」
「今までいろんなことがありましたね。宇宙艦隊を指揮して
「だから?」
「僕たちはかつてないほどの最高のチームだとは思いませんか」
「まあ、それは認めるわ」
「こんなつまらないことで仲たがいするのはやめましょうよ」
「つまらないこととはなによ。あたしは本気で怒ってるんだから」
「
「あたしは
「つまり……どうしろと」
「付き合うのか付き合わないのか、はっきりしなさいってことよ」
「でもあの二人ですから。そう簡単には白黒がつくとは思えないですが」
「
「えっ……。もちろん僕は
「よろしい」
「、ということなんですよ」
「ということじゃないよ、全然フォローになってないじゃないかよ」
「面目ありません」
ハルヒの
「あなたは
「俺は隠れてるわけじゃないんだがな」
「本当にそうと言い切れますか?
ズバリ言われて、ぐうの音も出ない。
「ここはひとつ、オープンに行きませんか」
「どういうことだ」
「二人の状況を正直に話すんです。分からないことは分からないでもいい。どういうきっかけで一緒に出かけるようになったんだとか」
「まあその程度ならな。でも、なんでも教える必要があるのか」
「それはもちろん、」
休み時間に携帯が鳴った。
「もしもし、キョン君?
「これはどうも、おひさしぶりです」
俺はハルヒに聞こえないようにと教室を出た。
「あの……
「いえいえ、俺はいつでも暇ですよ」
ここんとこSOS団の活動は停止している。
「じゃあ、学校が引けたら
「いいですよ。六限が終えたら電話入れます」
ホームルーム後、俺は
「
「ああ、そういうことですか。行ってらっしゃい。
あんまり見物したくなるようなシロモノじゃないんだが。
「おひさしぶりです。先日はいろいろとありがとうございました」
ついこないだ会ったばかりなのに、なんだかずいぶん昔のことのような気がした。
喫茶店に入ると、
「
「そんな。
「いつだったか
「ええ。
「あの頃から
「もともと主張がなさすぎたから、ふつーになったんじゃありませんか。朝倉みたいに主張が強すぎるのも問題ですが」
「ええ。それは分かるんです。でも任務に支障をきたすようになってきたんで、上のほうでも懸念してまして」
「今回のことは俺が悪いんです。なんというかこう、人間には
「分かりますわ。私が来たのはただ、
「
「キョン君は優しいんですね」
「
「そうなのですね……分かりましたわ。それにしても、
「ええ。みんなが思うよりずっと人間臭いと思います」
「たぶん、あなたのその感性が彼女を変えたんだと思いますよ」
「え……」
言葉にならなかった。
「
翌日の四限の終わりに、弁当を持って外に出ようとしたところ、ハルヒが
「あんた、
「なんというかな。いつだったか話したろ、
「あれとどう関係があるのよ」
「いや、あれからときどき身の上相談に乗ってやっててだな」
「それで付き合うようになったわけ?」
「いや、だから一般に言うような男と女の付き合いじゃないんだって」
「じゃあなんで隠してたのよ。やましいことがあるからでしょ」
「隠してたわけじゃなくて、誤解されそうだったからあえて誰にも言わなかったというか。谷口はアレだし」
「隠したってもう
それはまあ、人の噂も八十日というから気にはしてないんだが。
「あたしは隠れてコソコソされるのが嫌いなの」
「ああ、分かってるよ。悪かった」
「謝ってるのそれ」
「そうだ」
「まあ、いいわ。最初からそう説明してくれれば……」
言い
「あんた、
「うーん……」
俺は少し考え込んだ。俺にとって
「分からん。そうなるのかもしれないし、ならないのかもしれない」
しかしながらハルヒの次の一言は、正直こたえた。
「キョン、
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