第11話 名前で呼んで
「まだ、間に合うか……」
そう呟いた神林は数学準備室を飛び出した。
「(どこだ、どこにいるんだ。彼女ってなんだよ。俺が好きなのは─── )」
「あ、いた! 山科さん! 待って逃げないで!」
柚愛を見つけた神林。
だが、柚愛は神林の姿を見ると走り出した。
「離してください」
「いいからちょっと来て。どこで聞いたか知らないけど君は思い違いをしているみたいだ」
逃げる柚愛の腕を掴んだ神林はそのまま来た道を戻った。
──ガチャ
ドアを開け入った場所は先程いた数学準備室。
柚愛を中へ入れると再び鍵を閉めた。
「……あのさ、ひとつ聞いていい? 誰が俺に彼女がいるって言ってたの?」
暫くの間沈黙が続き、それを破ったのは神林だった。
「……知りません! ただ……っ! えっと、トイレ入ってたら2人組の女の子が神林先生と芳村先生が付き合ってるって話してたんです」
"トイレ"という単語を発するのが恥ずかしかったのか柚愛は俯きながら答えた。
「……そう、なんだ。まず、俺は誰とも付き合ってないから。まあ、芳村先生がしつこく俺に絡んでくるから……それを見た生徒が勘違いしたんだろ」
「で、でも! 芳村先生本人から直接、先生と付き合ってるって聞いたって……」
神林の話を聞いた柚愛は顔を上げ、一番気になっていたことを口にした。
「それも芳村先生が勝手に言ってるだけだろ。きっと俺に気があるんだろうな。山科さんは、俺とその聞いた話どっちを信じるの?」
神林は柚愛に視線を合わせるように腰を屈めた。
「それは……せ、先生を……先生を信じ、たいです」
「そっか。よかった」
神林は柚愛の言葉を聞き安堵した様子を見せた。
そして、柚愛の頭を撫でたのだった。
「山科さん……俺が山科さんだけに数学個別に教えてる理由知ってる?」
頭から手を離した神林は柚愛から離れ窓際へ歩いて行った。
「……あたしが数学できないから、ですか?」
「まあ、最初のきっかけは1人だけ赤点取ってたからっていうのもあるけど……本当は違うんだ」
窓際まで辿り着くと柚愛の方へ振り返った。
「……」
「本当の理由はね、俺……俺が山科さんを好きだからだよ」
そして、そう言ったんだ。
「え……う、嘘」
「嘘じゃないよ。本当だよ。じゃないと授業以外に個別に教えないよ。校長にバレたら何言われるかわかんないのにさ」
神林は冗談交じりにそう答えると笑みを浮かべた。
「本当に……? え、あ……あたしも先生が……先生が好きです……っ」
そう告げた柚愛の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
その返事を聞いた神林は窓際から再び柚愛の元へ歩み寄った。
「よかった……俺と付き合ってくれますか?」
そして、腰を屈めそう問いかけた。
「は、はい!」
柚愛の返事を聞いた神林は柚愛を抱き寄せ背中に腕を回した。
「(うわぁ……だ、抱きしめられちゃった……)」
恥ずかしさからか柚愛は神林の胸に顔を埋め、遠慮がちに腕を背中へ回した。
「山科さん……いや、柚愛好きだよ」
神林は柚愛の肩に手を置き、引き離した。
「神林せ、先生……あたしもす、好きです」
「違う……神林先生じゃないよ。名前で呼んで」
「名前……は、遥也(ハルヤ)さん……)」
柚愛は恥ずかしそうに俯きながら呟いた。
「うん、いい子。柚愛……」
神林は柚愛の頭を撫でたのであった。
「あの……遥也さんはロリコン、なんですか?」
頭を撫でられた柚愛は嬉しそうな顔したと思ったら真面目な顔をし、そんな質問をしてきた。
「……あのな、俺はロリコンじゃないからな。もう26歳だけどさ。柚愛だから、好きになったの。わかった?」
「は、はい! ありがとうございます」
柚愛は嬉しそうに笑みを浮かべた。
それから柚愛と神林は別々に出ると以前と同じように外の階段下で待ち合わせをした。
そして、神林の運転する車で柚愛を家まで送り届けた。
その車の中で2人は付き合う上である約束をした。
"付き合ってることは他言禁止"教師と生徒との恋愛だ。
バレたら校長、保護者が黙っているはずがない。
そのため、これは誰にも話してはならないと約束をしたのであった。
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