第10話 勉強会しなくていい

そして、放課後。


柚愛が向かったのは数学準備室……ではなく、昇降口だ。


そのまま帰路に着いた。


自宅に着いた柚愛は部屋へ入るなり制服のままベットへ寝転ぶ。


「(はぁ……。明日が休みでよかった。月曜日どんな顔で会えばいいんだろ……。なんで、先生なんて好きなっちゃったんだろ……)」


寝転んだ柚愛の瞳からは一筋の光が流れていた。


「……ぅ……なんで、べ……勉強特別に……お、教えてくれたんだろ。か、彼女……い、いるなら特別なこと……しないでよ……。期待しちゃうじゃん……」


次第に大粒の涙が柚愛の頬を伝ったのだった。


***


──そして月曜日。


「(学校嫌だな。今日、数学あるしな……。なくても、担任だからどちにしろ会わなきゃか……)」


学校へ向かう途中1人そんなことを考えていた。


「じゃあ、授業はこれで終わり。前回出した宿題確認するからノート後ろから回してくれ」


神林は授業を終え後ろから前へ回ってきたノートを回収した。


「あー、それから山科さん。前へ来てくれる?」

「……はい……」


神林に呼ばれた茉緒は席を立ち重い足取りで教卓へ向かった。


「山科さん、また運ぶの手伝ってくれる?」

「……わ、わかりました」


柚愛はノートを半分持ち、神林の後に続き教室を後にした。


「(あたし数学の係でもないのに……。なんで毎回呼ばれるんだろ。そういうの期待しちゃうから、やめてほしいよ……)」


数学準備室までの道のりは沈黙が続いた。


数学準備室に着くと先に神林が入りその後に柚愛が続く。


「そこの机のとこに置いておいて」

「はい」


神林は柚愛に指示を出すとドアへ向かった。


──ガチャッ


「(ガチャッ? え……か、鍵閉めた?)」


音に振り向き神林の行動確認した柚愛。


どうやら、神林はドアに鍵を掛けたようだ。


「山科さん」

「……は、はい」


いつもと雰囲気の違う神林に柚愛は驚きながらも返事をした。


雰囲気というよりかは声のトーンがいつもより若干低めであった。


いつもは低くも高くもない声だが今日に限り低い声だ。


恐らく"怒っている"柚愛はそう理解した。


「金曜日、なんで来なかったの?」

「あ、その日は用事があって……帰りました。すいません」

「用事か……。それならそうと言って。先生ずっと待ってたんだから」

「え、ずっと……。すいませんでした」


"ずっと待っていた"本来なら凄く嬉しい言葉だ。


だが、今の柚愛にはとても重たい言葉となってのしかかる。


「……あの、すいません。もう金曜日の勉強会……だ、大丈夫です……」

「え、なんで? その日忙しいなら曜日変える?」

「……曜日は関係ないです……」

「じゃあ、なんで? 言ってくれないと分からないよ」

「だって彼女さん……いるんでしょ! その人に申し訳ないから! 金曜日の放課後毎週勉強教えてもらってるし……だからもうしなくていい……」


柚愛はそう叫ぶように言うと準備室の鍵を開け飛び出した。


「くそっ……。彼女ってなんだよ……」


柚愛が飛び出した数学準備室で神林は消え入りそうな声で呟いた。


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