第6話 真実
しばらくすると神林と一緒に来た、芳村は諦めたのか車を走らせ学校を後にした。
それを見届けた神林はスマホを耳から離し、階段下にいた柚愛に手招きする。
「(あ、呼ばれた……のかな?)」
呼ばれた柚愛は立ち上がると神林の車の前で足を止める。
「(あ、どっち乗ったらいいのかな? 男の人の車乗るの初めてだ……)」
柚愛が乗らずに迷っていると、運転席から神林が助手席のドアを開けてくれたのだ。
「どうぞ」
「……すいません。お願いします」
緊張した面持ちの柚愛が乗り込むのを確認すると神林は車を走らせた。
「山科さんの家はどの辺?」
「えっと……スーパーAOSA(アオサ)の近くです」
「あーあそこか。わかった」
どうやら知っている道のようで神林はナビは見ず、車を走らせる。
「あ、そういえば。白川くん帰り手伝ってくれてた?」
「……っ! え? 帰りですか……」
恐怖でしかない彼の名前に柚愛は肩を震わせる。
「山科さんが足怪我して階段降りるの大変だと思ったから彼に頼んでたんだ」
「あ……そうなんですね。手伝ってくれました」
「よかった。朝、俺が手伝ってたの見かけたみたいで帰りは彼がやってくれるって言ってたんだ」
朝の光景を見てた──その言葉で柚愛は納得した。
神林と同じ行動をしてたのは……"偶然"じゃなかったと。
「あ、それで……」
「それで?」
思わず柚愛が呟いた言葉は神林に届いてしまった。
「いえ、そんなに話したことなかったのに2日連続で手伝ってくれた理由がわかったのでよかったです」
思わず呟いた言葉は誤魔化せないとわかった柚愛は嘘ではないがそう伝えた。
ただ、"同じ行動をしていた"ことは伝えなかった。
「先に言っておけばよかったな」
「大丈夫ですよ」
神林のその優しさが嬉しかった柚愛は笑顔で答えた。
「スーパーAOSAがそこだけど家どの辺?」
「あ、ここからすぐなのでその辺で大丈夫ですよ」
「せっかく送ったんだから家の前まで送るよ」
「すいません。ありがとうございます」
柚愛は家までの道を神林に伝えた。
そこからはものの数分で着いた。
「あ、家ここです。ありがとうございました!」
「どういたしまして。また学校でな。あ、俺が家まで送ったことは内緒な」
神林は右の人差し指を立てると唇に当てた。
「内緒ですね。わかりました。今日はありがとうございました!」
車から降りた柚愛はドアを閉める前にお辞儀をした。
神林を見送ろうと柚愛が待っていると……。
「早く家入りな。俺帰れないから」
「あ、はい! さようなら!」
見送りをする側ではなく、される側になった柚愛は家に入る前にお辞儀をしてから入った。
自分の部屋がある2階へ上がった柚愛。
部屋に入るなり柚愛は両手で頬を押さえる。
「顔を赤くなってなかったかな?」
誰もいない部屋で柚愛はぽつりと呟いた。
「先生……好きだな」
先生と生徒。
好きになっても実らない恋──分かっていてもこの気持ちは誰にも止められない。
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