第5話 補習
柚愛の足が治った6月上旬──
足は問題なく完治した為、早く行くことはなくなった。
その為、登校時に神林と会うこともない。
「授業始めるよ」
4時限目の数学が始まった。
「今日は前にやったテスト返します。20点以下は補習と再テストあるので放課後、数学準備室に来るように」
テストは名前順に配られる。
「山科さん」
「はい」
柚愛はテストを受け取り席ついてから点数を確認した。
「(うわっ……)」
点数を見た柚愛は愕然とした。
「20点以下は今日の放課後補習するので数学準備室に来るように。テストは必ず持参でお願いします」
***
コンコン──
「し、失礼します」
「はい」
放課後、一人の女子生徒が数学準備室のドアを開けた。
「そこ座って」
「はい」
神林の真正面に彼女は座った。
「山科さん数学苦手?」
「はい、すいません……」
そう、補習対象者は柚愛1人だけだ。
「テスト見せて」
「すいません」
柚愛は神林に持参したテストを手渡した。
点数は……14点だ。
「じゃあ、まずここの解き方な……」
解き方を教える為、神林は少し前のめりになった。
その為、柚愛との距離も縮まる。
「……」
「……さん、山科さん。大丈夫?」
神林に何度か問いかけられ、柚愛は俯く顔を上げた。
「……え! あ、ごめんなさい。もう一度お願いします……」
「(先生が近くて緊張して頭に入ってこないよ……)」
その頬はほんのり赤く染まっていた。
それから下校時間が少し過ぎた頃まで神林は柚愛に数学を教え続けた。
「よし、じゃあここまでな」
「あ、ありがとうございました!」
椅子から立ち上がると柚愛はお辞儀した。
「遅くなってごめんな。昇降口出たら裏の階段下でちょっと待ってて」
「裏の階段ですか?」
補習は終わったがなぜ裏の階段で待つのか柚愛にはわからなかった。
「そう、車がある所。遅くなったから送ってくよ」
「え! 大丈夫です。歩いて帰れますよ」
柚愛は手のひらを振り、否定する。
「下校時間過ぎたから何かあったら危ないから送ってく」
たが、結局送ってもらうことになった。
「(ここでいいのかな? ほんとに車で送ってもらえるんだ……)」
裏の階段下に着いた柚愛は目立たない所にしゃがみ込む。
柚愛はカバンから手鏡を出し目の少し上まである前髪を整える。
そして、肩まである髪の毛がはねてないかチェックした。
「(あ、来た!)」
しばらくすると、神林が現れた。
「(あ……)」
立ち上がり神林の元へ向かおうとするも、柚愛は再度しゃがみこんだ。
理由は神林には連れがいたのだ。
「神林先生、今日こそご飯食べに行きましょう」
猫なで声で話す女性は神林の横にピッタリとくっついていた。
「行かないです。それに僕予定があるので失礼します」
その光景と話し声は少し離れた柚愛にも聞こえていた。
神林は車に乗り込むとスマホを耳に当てた。
どうやらどこかへ電話しているようだ。
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