第4話 偶然じゃない?

──そして次の日。


「おはよう」

「あ、神林先生! おはようございます!」


いつものように柚愛が学校に行くと神林に会った。


「よし、今日も手伝うよ」

「ありがとうございます。なんかすいません」

「いいんだよ。ちょうどこの時間は空いてるから足が治るまで手伝うよ」


神林はそう言うと柚愛の横に並んで立った。


「ありがとうございま……うわっ!」

「大丈夫だった?」


足を踏み外しそうになった柚愛を神林が受け止める。


「は、はい。ありがとうございます……」

「危ないから掴まって」


神林は右腕を差し出すと柚愛に掴まるよう促した。


「いえ、大丈夫です」

「はい。掴まってて」


神林は、なかなか掴まらない柚愛の左手をとると自分の右腕を掴ませた。


「すいません」


柚愛は手すりと神林の右腕を掴み階段を上りきり、昨日と同じ様に3階で神林からカバンを受け取る。


「じゃあ、気をつけて教室行けよ」

「ありがとうございます」


神林は3階から再び階段を降り、どこかへ向かった。


そこから教室までは柚愛1人だ。


***


──そして放課後。


「穂花じゃあね」

「ばいばい」


教室で穂花と別れた柚愛は一段一段ゆっくりと階段を降り始める。


「や、山科! 今日も手伝うよ」

「……っ! し、白川くん……」


聞いた事のある声に柚愛は肩を震わせる。


白川は走ってきたのか若干息が上がっていた。


「……はい、荷物貸して。あと、はい掴まって」


白川は柚愛からスクールバックを受け取ると、左腕に掴まるよう促した。


「(また一緒だ)」


偶然なのか、朝の神林と行動が同じだった。


「て、手すり掴まるから大丈夫だよ。ありがとう」

「……あいつのは掴まるのに俺のは掴まらないんだ」

「え? なに?」


ボソッと呟いた白川の言葉は柚愛の耳には届かなかった。


「なんでもない。下まで送る。荷物貸して」

「あ、ありがとう」


荷物だけ持った白川は柚愛のペースに合わせ階段を降り、昨日と同じように階段下で別れた。


それは柚愛の足が治るまで毎日続いた。


柚愛にとって朝の神林と全く同じ行動を放課後する白川は恐怖でしかなかった。

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