第3話 偶然
「え、優男! でも、無事階段上れてよかったね」
穂花は嬉しそうに声を上げた。
「うん。本当優しいよね──」
「穂花! 図書室行くよ」
「え?」
柚愛と穂花が帰ろうと教室を出ると他クラスの女子生徒が穂花に声をかけた。
「え、じゃないよ。今日勉強する約束だったでしょ! 忘れたの?」
「あー! 忘れてた。ごめんね。柚愛ごめん、1人で帰れる?」
どうやら、元々穂花は約束していたがそれを忘れ、帰ろうと柚愛に声をかけたようだった。
「大丈夫だよ! じゃあね」
穂花は図書室へ向かう為、柚愛と別れた。
「(帰りも1人か……)」
心の中でそう呟き、柚愛は教室を後にした。
足を怪我した柚愛にとって階段を降りるのは簡単なことでは無い。
右手で手すりに掴まり左肩にはスクールバックを持っている。
一段一段ゆっくり降りていると──
「山科足、大丈夫か?」
突然、名前を呼ばれた柚愛は立ち止まり振り向いた。
そこにいたのは──
「せ……あ、白川くん……」
柚愛と同じクラスの白川柊真(シラカワ トウマ)だった。
「ごめん、俺じゃない方がよかった?」
「そ、そうじゃないよ。白川くんはどうしたの?」
柚愛は否定したが白川には柚愛が別の人を期待していたことが伝わったのであろう。
「どうしたの?って……。足、大丈夫かなと思って声掛けた」
白川は柚愛の足に視線を移す。
「あー! そ、そうだよね。さっき言ってたもんね。ごめんね」
さっき声掛けてくれてた時に言ってたなと思い出した柚愛は申し訳な顔を浮かべた。
「大丈夫。あ、荷物持つよ」
「え、いいよ! 一人で大丈夫だよ」
「いいから、いいから」
そう言うと白川は柚愛のスクールバックを半ば強引に受け取った。
そして柚愛のペースに合わせ階段を降り始める。
「(なんか似たようなことあった気がするな……。あ、先生だ。)」
白川がしてるのは神林先生が朝、柚愛にした事と同じだ。
──まるで朝の光景を見ていたかのようだ。
「白川くん、ありがとう。もう大丈夫だよ」
「用事があるからここまでしか送れなくてごめんな。気をつけて」
白川は柚愛に荷物を渡すと、頭をポンポンとした。
そして、急いで階段を上って行った。
「(え……。こ、これも一緒だ。何これ? 偶然?)」
白川の一連の行動が朝の神林と全く同じだったのだ。
気味が悪いほどに──
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