第2話 優しさ

次の日、柚愛は早めに家を出て学校へ向かった。


──理由は足だ。


昨日転んだ所は病院で診察した結果、捻挫だった。


ひょこひょこと足を引きずらせながら歩く柚愛。


学校までは電車を使っての登校。


家から駅まではいつもの倍近い時間がかかった。


そこから電車に揺られ、最寄り駅に着いてからも怪我をした柚愛にとっては長い道のりだ。


無事に学校に着くことができ、早めに家を出てよかったと安堵する柚愛だった。


だが、教室に着くなり最大の難所が待っていた。


それは……階段だ。


教室は3階、柚愛は手すりに掴まり一歩一歩階段を上り始めた。


早く家を出た為、生徒は誰もいない。


自力で頑張るしかないと落胆した、その時──


「おはよう。足どうだった?」


階段を何段か上った所で誰かに声をかけられた。


「あ、神林先生……捻挫でした」


その"声をかけた誰か"は神林であった。


「捻挫だったか。階段上るの大変だよな……」

「だ、大丈夫です」

「荷物持ってくよ」

「え、でも……」

「いいから」


柚愛は神林に肩にかけていたスクールバックを手渡した。


それが無くなるだけで多少上りやすくなるのであった。


「あ、ありがとうございます……」


柚愛がお礼を言うと神林は"おう"と返事をした。


そして、柚愛のペースに合わせ階段を上った。


「疲れた……」

「お疲れ様」


3階までどうにか階段を上り終えた柚愛と神林先生。


「はい、カバン。先生用事あるから教室まで気をつけて行くんだよ」


神林は柚愛にカバンを渡すと柚愛の頭をポンポンとした。


「え……」


柚愛は神林の手が離れた頭を自分の右手で触れた。


その頬は赤く染まっていた。


そして、神林は柚愛を3階に残し、上ってきた階段を降りて行った。


「え、用事あるのに3階まで来てくれたの……」


柚愛は神林が去った階段を見つめ、そう呟いた。


「はい、これから数学の中間テスト始めます。裏返した状態で後ろに回して」


数学の担当である神林が列ごとにテスト用紙を配り始めた。


「では、始め」



***



「柚愛帰ろう!」

「うん!」


数学のテスト含め4科目が終わると柚愛の席に一人の女子生徒が来た。


彼女は鳴海穂花(ナルミ ホノカ)。


柚愛と穂花は高校1年生からの友達だ。


中間テスト期間は4時限で終了となっている。


「足大丈夫だった?」

「……ん。大丈夫だったよ」

「よかったね。あ、朝階段大丈夫だった? あたしが一緒に行ければよかったんだけど……」


穂花が心配そうに問いかけた。


バスケ部に入っている穂花は朝練の為、一緒に登校することができなかった。


テスト期間中もバスケ部は朝練のみ部活に参加しなければならなかった。


「あ、それがね……」


柚愛は朝あった出来事を穂花に伝えた。


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