一 章
やれやれだぜ。俺は
さて、今年も残すところあと数日だが、年が明ける前に俺は
本当は試験なんかどうでもよくて、俺自身の身代わりとして過去に飛ぶだけなのだ。
これは俺が作った
「
「なんですか?」
「俺を今月の十八日に連れて行ってほしいんです」
「あれれ、そうなんですか?
「
「ちょっと上の人に聞いてみますね……OKみたいですよ。キョン君は私の知らないところでいろいろ働いてるのね」
「いやぁそういうわけでもないんですが」
「十八日って、なにか特別なことありましたっけ?」
俺は
「すいません、
そう、十八日、事の起りは
ここにいる宇宙人、未来人、超能力者、そして一般人の四人は
「貸して」しばらく考えていた
「……読んでみる」
「それはまだ待ったほうが……」
「
「それはそうですが……これがいづれかの
数十分間、
「これは……わたしたちの未来……」読みながら
それは一瞬の出来事だった。
「エマージェンシーモード」
「
「
俺は
文庫だけが床の上に残っていた。残された三人はしばらく
「
「なんということでしょう。これは
「それより
「もちろんそうですが」
「それにもう知られてるだろう」俺は上を指差して言った。
部室のドアをノックする音に、三人ともビクっとした。
「どうぞ」
「あの、
「
「今しがた上のほうから連絡が来て、あの……前置きは抜きでよろしいでしょうか」
「ええ、こちらもたった今、目の前で起きた
さわやかで、かつ深刻な笑顔の
「この文庫本なんですが、読んでる途中で
俺はもうこれは
「再発するかもしれません。内容は読まないでください」
「上のほうに問い合わせてみましたが、わたしの見る限り、
「いちおう僕が
「そちらの
「
「いいえ何も。エマージェンシーモードに入ったことだけ知らせてきました。つまり、未知のトラブルです」
「もしかして過去か未来に飛んだんじゃありませんか?」
「そうではないみたいです。
もしかして
「わたしたちは
「じゃあどこかで生きているんですね?」
「分かりません……」
これはいったい。
「失礼、ちょっと電話をかけてきます」
数分間、俺は腕組みをしたまま黙っていた。そこにいる皆が黙り込んでいた。時計を見ると七時を回っていた。
「
「はい」
「ではまず、僕は
あれれ、
もし明日の朝までに
その日の夜、風呂に入ったあと、台所で牛乳を飲んでいると電話がかかってきた。
「キョンくん、電話だよ~。お・ん・な、のひとから」
「大声で言わんでいい」最近やけにマセてきてる気がする。
俺はコードレスホンの子機を持って自室に入った。
「こんばんわ、
「あ、先ほどはどうも。その後何か
「いえ、特に分かったことはないんですが、少しお話しておきたいことがありまして」
「ええ。なんでしょう」
「……地球時間でいうところの数億年前のことなんですが」
突然気が遠くなりそうだった。
「この銀河から二百二十万光年離れたところに
「どこに行ってしまったんです?」
「どこというより、いつ、であるかもしれません。別の次元の、さらに二億年ほど前に
「その人、じゃなくて
「戻ってきませんでした。最後の通信内容でそこが異世界だと分かっただけで」
……もしかしたら
「
「その別世界っていうのは、ここからどれくらい離れてるんです?」
「物理的な距離で測ることはできないんです。たとえば、一枚の紙があるとして、わたしたちが表にいるとします。向こうの世界は紙の裏側か、もしくは表と裏の間にあるんです」
なるほど。
「そういえば、異世界人といえばハルヒが集めようとした残りの人材なんですが。それとは関係あります?つまり、ハルヒが望んでこの事件が起こった?」
「それはまだ分かりませんわ。経過を見てみないことには」
「あるいは
「その可能性も否定できません。実は
知らなかった。それは初耳です。
「
「その異世界の誰かと連絡取れたりはしないんですか?
「
こういう事態だ。
「それから、これが重要なことなんですが、
── もしかしたら、わたしたちが知っているのはほんの
「
「そうですわね」
「いざとなったらハルヒという切り札を使いましょう。あいつのパワーはどんな世界にでも通用すると、俺は信じてますから」
「……」
それからしばらく世間話をしつつ、俺はおやすみなさいを言って切った。これまであまり
文芸部部室には本来の部員ひとり分だけスペースが空いて、実に
俺は
帰りがけ、俺は
「
「あれから
「つまり、
「それは
「つまり
「ええ。私たちから見れば
つまり
「以前
「ええ」
「未来からの
「ええ。それが
「あのときと同じようにいかないんですか。つまり、
「それが、今回のは
「なるほど」
「それに私たちが
「つまり今回は
「そういうことになります。今のところは
「そうですね」
「でも、できるかぎりの支援はするつもりです。
ふたりともしばらく無言のままお茶をすすっていた。たぶん
「未来からも今回の件を観測しています。未来でも
「遅れてすいません。あの本に関する
「
「ありがとうございます、
「
「存在しない!?」
「
それだけの情報を簡単に入手できるなんて、
「異なる二名か……気になるな」
「それと、先日は見落としていた、重要な点があります。
「ということは未来から送られてきたわけか」俺と
「未来での敵対する
「ええと……それは
「許可が下りました。お教えできるのは、十年後、あるいは二十年後の未来にもこの人は存在しない、ということです」
「未来にも存在しないっていうのは、ええとつまり」俺はまた頭痛がはじまりそうだ。
「となると、別の時空、別の次元からの贈り物と考えるのが
「贈り物って、俺には
「その可能性は大いにあります。僕を狙ったものか、
「お前に送られてきたのなら、
「今のところは分かりません。その
「
「そうなんです。
「
それから
「だとすると、僕たちの
「そんな……」
俺は言葉を失った。
喫茶店を出て駅まで行って、
「情報不足の現状では、当面は様子を見るしかありませんね。ともかく、
「そうだな……」
俺は
その夜、俺は夢を見た。
街灯の下、公園のベンチで誰かが俺の
振り向くとメガネをかけたあの
悲しそうな、なにか言いたげな表情を見せた。
「なんだ?」俺は尋ねた。
「おい
そして最後に、手の中のぬくもりだけが残った。
目を覚ましたとき、俺はじっとりと寝汗をかいていた。
「
そのままじっと、夢の中の
時計を見ると一時を回っていた。俺は携帯をつかんで電話をかけた。
「夜中にすまん、俺は
「そう来ると思ってました」
「あいつをひとりにすると心配だ。また暴走しかねん」
「理由はそれだけではないと思いますが、まあいいでしょう。なにかご
「例の文庫本、取り戻せるか?」
「今手元にあります」
「それを持って迎えに来てほしいんだが」
「了解しました。ご自宅に伺います。三十分後に」
こういうときの
バックパックの口を開いて俺は考え込んだ。果たして何を持っていったらいいのか。どこに行くのか、どんな世界に行くのかすら分からないのに考えても仕方がない。下着の着替え、
車の音がして窓の外を
「
「いえいえ。お安い
「とりあえず乗ってください。新川さん、学校までお願いします」
車のシートで、俺はこれから起るであろうことを予想して少し
「あいつを見つけるまで戻らないつもりだ。いつ帰れるか分からない」
「ですが、学校と家族にはどう説明します?」
「冬休みに入ったら
「それは無事に帰ってこれたら、ですが。分かりました。ただし帰ってくるとき、ご自分と
「分かった」
車が校門前に着いた。
「鍵がかかってたらどうしようか」
「
手回しがいい。俺と
部室の鍵を開けた。俺は、ほかにいるものはと部屋を見回した。壁に貼ってある、
「これを」
「それからこれを」
さらに茶封筒を俺に渡した。空けてみると万札が入っている。
「なんだこの大金は」
「五万円ほどあります。突然だったんでそれだけしかかき集められませんでした。向こうの世界の具合によっては、もしかしたら必要になるかもしれませんので」
「そうか。これは預かっておく。帰って来たら耳
突然ドアをノックする音がして二人ともビクッとした。こんな夜中に誰だ。背筋に冷たいものが走った。
「ど……どなたですか」俺の声か、
「……
「驚かせてごめんなさい」
「あの……
「そうです。
「これを
「それはなんですか」
「ちょっと説明するのが難しくて、でも
受け取るとずっしりと重い。
「分かりました」たぶん
「
「
「伝えます。気をつけて。無事に帰ってきてくださいね」
ささやくような
「
「分かりました。こういう事態ですし、彼女も分かってくれるでしょう」
「じゃあ、はじめるか」
「もし一週間
「そうならないように願う」
「幸運を」
俺はうなずいて手を握った。
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