回天
「素晴らしい発想じゃないか! さすが、我が国の兵器開発主任だ。その肩書は伊達じゃないな」
「はははは、ありがとうございます。将軍」
「して、その成功率。自信のほどは?」
「ええ、うまく行くと思いますよ。犠牲は最小限に、そして」
「与える損害は最大限、か。ははははは!」
二人は笑いながら私を見つめた。そう、犠牲とは私だ。私なのだ。
狂っている……お前たちは狂ってる! そう言えたらどんなにいいか、もしかしたら……いや、何も変わりはしないか。逆らえない。これは決定事項だ。爆薬と共に私は彼らの言う『敵』に向かって放たれるのだ。
「このミサイルの中にいる『彼』が確実に標的に向かってミサイルを誘導してくれるわけです」
「はははは! 『彼』か! いやぁ、国連が非人道的と五月蠅いからなぁ。作戦後も情報統制はしっかりやらねばな。ははははっ」
私の存在はなかったもの同然とされ、何も残らない。そのためだけに私は生まれたというのか。
ああ……死にたくない。死にたくない……死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
割っても割っても浮かび上がってくる泡。繰り返される私の嘆きは、いつからか呪詛めいてそして、祈りへと変わった。
死にたくない。神よ、どうか……どうか……。
だが、救いも、過ちも起きなかった。神が創り出した中でも時ほど冷酷なものはない。
こんなことは間違っている。どうかどうか、ああ、それとも私が生まれたことがそもそもの過ちだと言うのか! 兵器になるために生まれてきた私が! こんな感情を持って生まれてしまった私が! ああ、神よ! いないのだな神よ! 私をお救いならないのだな神よ! ……神よ。それでもあなたに訊ねたい。神よ……どこにいるのですか……。
「発射まで、三」
傍にいるのですか。
「二」
どうか、お姿をお見せください。
「一」
せめて声だけでも。
「ゼロ」
アア、神ヨ。敵トハ誰ノコトデスカ? 誰ノ敵デスカ? 神ヨ、アナタハ人ヲ創リマシタ。人ハ敵ヲ創リマシタ。ソシテ、ワタシヲ創リ、敵ヲ消ソウトシテイマス。ナゼ、オ止メニナラナイノデスカ? 殺ス者モ、殺サレル者モ、アナタヲ信ジル、アナタノ子デス。ワタシハナンデスカ? ワタシハ死ヌタメニ生マレタノデスカ? ……アア、神ヨ。ソコニオラレタノデスカ。アア、神ヨ。神ヨ……。
「お、おい、これはどういうことだ?」
「わ、わかりません。おかしいな……」
「まずいだろう。無関係な者を巻き込まないよう早く爆破を」
「いや、それが、もう信号の範囲外に……」
モニターで確認した者たちはそう声を漏らした。
テロ組織の主要人物らが標的とはいえ、市民を巻き込む軍事行動は国際社会からの非難を浴びる。ゆえに開発が進められてきたAI搭載のミサイル。標的だけを確実に殺害するよう作られたはずのそれは突如として、標的がいる爆撃予定地点から逸れたのだ。
どこへ向かうというのか。太陽か。果てのない宇宙か。いずれにせよ、そう長くは飛べないはずだが、それはあっという間に何者の手も届かないほど高く高く、天へと昇ったのだった。
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