死ねと呟き街歩く

 死ね……死ね、死ね、死ね死ね死ね。

 そう、弛緩したジジイの尻から出る屁のように口から漏れる。


 死ね死ね死ね死ね。

 ふん。天に向かって吐いた唾は自分に返ってくるというが、私は真正面である上に誰かに直接言うわけでもない。誰も罰せやしないだろう。

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 この世の中への不平不満を怒り憎み死ねと呟く。

 死ね死ね死ね死ね。

 今、横を通り過ぎた手を引かれる子とその母。高校生カップル。並び談笑する友人グループ。それらを妬み死ねと呟く。


 死ね。死ね。死ね。死ね。誰にも聞こえていない。だから構わないだろう。放っておいてくれ。私ごときの呟きなど、くしゃみの飛沫より軽いのだから。


 死ね死ね死ね死ね死ね死ね……待てよ。聞いているぞ。私だ。私自身はさっきから聞いているじゃないか。

 あぁ、やはり吐いた唾は己に返ってくるようだ。

 ……死ね死ね死ね。だからってやめられない。どうすればいいというんだ。死ねと呟かなきゃ、この胸は軽くはならないんだ。

 尤も、ごく僅かだけど。死ね。死ね。死ね死ね死ね……。ああ死ね。やれ死ね。今の奴も遠くの奴も死ね。自転車に車、老人に子供。みんな死ね。死ね。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね……。

 

 ……生きて。

 

 ふと思い、そう呟いたのはなぜだろうか。ただの気まぐれ。反対の事を言ってみたくなったやさぐれ。

 

 生きて。


 でも……どこか湿気たマッチのようだが温かみと明るい兆し。

 小さな火花が見えた気がした。

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